本文へスキップ

  • 栗駒山は、三県にまたがり、秋田では大日岳、岩手では須川岳、宮城では栗駒山と呼ばれていた。古くから山岳信仰の山で、初夏から夏にかけてのお花畑と、秋の紅葉が特に有名である。栗駒山は、古い複式火山で、山名が雪形に由来すると言われている。
  • 須川コースの花は、6月、雪渓が消えた後を追ってヒナザクラが一面に咲き、6月下旬から7月上旬頃に咲くイワカガミやタテヤマリンドウの群落は、他の山では見られない見事さである。また、展望岩頭のイワウメ、名残ヶ原のワタスゲ、秋田湿原のミズバショウ、世界谷地のニッコウキスゲなどが有名である。さらに9月下旬から10月中旬頃までは、山が燃えるかのような紅葉が素晴らしい。
  • 栗駒山の紅葉(2017年9月24日撮影)
  • 須川コース(取材日:2014年7月6日)
     須川温泉登山口(1126)賽の河原・剣岳山麓のイワカガミ名残ケ原(1160)苔花台・自然観察路分岐(1180)昭和湖(1285)イワカガミ→天狗平(1540)展望岩頭天狗岩栗駒山(須川岳1627.4)産沼(1366)苔花台(1180)名残ヶ原(1160)須川温泉登山口(1126)
  • 登山口「須川温泉(1126m)」・・・標高1,126mの高原の温泉宿で、湯治場として1100年以上の歴史がある。温泉の建物の脇には湧出量毎分6000リットルと言われる源泉の池があり、そこから水路へ温水が放流され、あたりは強い硫黄の臭いが漂っている。
▲温泉神社 ▲アカミノイヌツゲ
▲ミヤマヤナギ ▲ミネカエデ
▲マイヅルソウ ▲ツマトリソウ
  • 正面に栗駒山を眺めながら、賽の河原方向に進む。
▲イワイチョウ
▲ワタスゲ
▲ウラジロヨウラク(ツリガネツツジ)の花は満開
▲沼に映るワタスゲ群落が美しい
▲賽の河原 ▲剣岳(旧噴火口)
  • 剣岳付近のイワカガミ(岩鏡)
     栗駒山の花と言えばイワカガミ。この群落は見事だが、剣岳周辺の群落は終盤にさしかかっていた。草原の中にイワカガミの群落もあったが、丈の高い草が邪魔をして今一つ。その名のとおり、岩場に生えた群落は一際美わしい。
▲名残ヶ原(1160m)
  • 湿性遷移・・・賽の河原から名残ヶ原に出ると、湿原と言うよりは平らな草原のようであった。かつては、沼であったと言われているが、長い年月を経て湿原になったが、近年は広範囲にアシが生え始めている。お花畑は永遠のものではなく、自然の湿性遷移によってどんどん乾燥化が進み、草地から森林へと変わる運命にある。名残ヶ原は、その湿性遷移の見本のような場所である。
▲虫を食べる食虫植物「モウセンゴケ」
  • 名残ヶ原の花・・・イワカガミ、イワショウブ、アカモノ、キンコウカ、サワラン、ショウジョウバカマ、タテヤマリンドウ、ナンブクロウスゴ、ホソバノキソチドリ、ミヤマアキノキリンソウ、モウセンゴケ、ワタスゲ
  • 苔花台(たいかだい、1180m)・産沼コース分岐・・・名残ヶ原から少し登ると苔花台。左の谷のゼッタ沢を渡ると産沼コース、直進すると昭和湖コース。
  • 地獄谷・・・ゼッタ沢を渡って登ると、ほどなく硫黄の臭いが鼻をつく地獄谷が延々と続く。写真左下の谷が地獄谷で、有毒ガス(硫化水素)が発生しているので立ち入らないよう注意。正面に見える山が栗駒山。
  • 有毒ガスで裸地化した斜面を覆うヤマタヌキランや白骨化したような木々が目立つ異様な光景が目につく。地獄谷を登り切ると、穏やかな窪地に昭和湖が現れる。
  • 昭和湖(1285m)
  • 田中澄江「新・花の百名山」には・・・「湿地の山腹を登りきると忽然と眼の前に、濃い碧色の水をたたえた沼があらわれた。昭和19年の噴火のさいにできた火口湖だというが、千年も昔からそこにあるような深い神秘的な水の色をしている。頂上の1,628mは、そこから1時間あまり。」
▲昭和湖と登山道案内看板 ▲昭和湖公衆トイレ(冬季閉鎖中)
  • ベンチもあるので、絶景を眺めながら水分を補給し、のんびり朝食をとる。硫黄の臭いが漂う乳白色の湖面を眺めていると、一筋の波が対岸に向かって動くのが見えた。死の世界と思ったが、生き物も生息しているようだ。昭和湖トイレは、凍結防止のため冬季閉鎖中とのことだが、何故か夏になっても閉鎖されたままだった。
  • 昭和湖周辺のイワカガミ
     栗駒山のイワカガミは、賽の河原と昭和湖周辺が素晴らしい。いずれも荒涼とした岩場が目立つが、それとは対照的に、華やかで美しい。
  • 昭和湖の花・・・イワカガミ、コイワカガミ、イワイチョウ、タテヤマリンドウ、ヒナザクラ、マイヅルソウ、ミズバショウ、ミツガシワ、アカモノ、ナナカマド
▲純白のイワカガミ ▲タテヤマリンドウ ▲ミツガシワ
▲アカモノ ▲ナナカマド
▲コイワカガミ ▲草原のイワカガミ
  • 昭和湖から天狗平まで標高差255m、急勾配の階段が続く。胸突坂を過ぎると、左手になだらかな山容の栗駒山が近くに見える。振り返ると、まだ雪渓が残る焼石連峰の山々がはっきりと見える。雪が解けた雪田周辺には、ヒナザクラ、タテヤマリンドウ、濃い紅色のイワカガミを眺めながら吹き出す汗をぬぐう。標高1400mを越えると林相は一変、ハイマツが目立つようになる。
  • 雪田が残る周辺に咲いていたヒナザクラ  
  • 天狗平(1540m)・・・ハイマツの中の急登を登り切ると、尾根上の天狗平に着く。ここは秋田県側の秣岳(まぐさだけ)コースや宮城県側の湯浜、御沢コースからの道が合流する十字路となっている。ここから栗駒山に向かう人が圧倒的に多いのだが、オススメは逆の天馬尾根コースの展望岩頭である。尾根沿いを歩いてわずか10分、昭和湖、龍泉ヶ原、須川湖が一望できる絶景ポイントである。
  • 展望岩頭と呼ばれる天然の展望台は、北側が垂直に切れ落ちた絶景ポイント。
  • 展望岩頭から焼石連峰方向を望む。真下に昭和湖が見える。
  • 須川湖、龍泉ヶ原を望む。鳥海山は雲に隠れて見えなかった・・・残念!
▲オノエラン  ▲シロバナクモマニガナ
▲ゴゼンタチバナ ▲ミヤマトウキ 
  • 天狗平に戻って栗駒山山頂へ向かう
▲サラサドウダン ▲マルバシモツケ
▲ハイマツ ▲天狗岩
  • 亜高山落葉低木林
     須川高原温泉から標高1400m付近まで落葉低木林となっている。ミネザクラ、ミネカエデ、ミヤマナラ、アカミノイヌツゲ、ミヤマハンノキなどに加え、ブナ林でもよく見掛けるハウチワカエデ、マルバマンサク、サラサドウダン、コシアブラ、ウラジロヨウラク、ナナカマド、オオカメノキ、ハナヒリノキなどが混生している。また、シラタマノキ、アカモノ、ガンコウラン、イワヒゲ、コメバツガザクラ、イワウメなどの高山植物が生育している。
     栗駒山は亜高山帯になっても、落葉低木林が支配しているので高山帯との境界が判然としない。ただし、その境界と言われる1400mより上になると低木林にハイマツが混生してくる。だから秋になると、マツの緑に黄色や赤に紅葉すれば見事である。
  • 栗駒山山頂(1627m)・・・山頂に駒形根神社奥宮がある。また御室の洞窟の中に祠があり絵馬が奉納されている。東の麓の宮城県栗原市沼倉一ノ宮の地に里宮(駒形根神社)を祀っている。毎年5月に奥宮参りが行われ、古くから信仰の山であることが分かる。
▲中尊寺金色堂 ▲毛越寺
  • 平泉文化と栗駒山信仰
     奥州藤原氏三代ゆかりの菩提寺・中尊寺は、850年、天台宗円仁の開基と伝えられる。平泉文化の象徴として名高い中尊寺と毛越寺は、天台宗東北大本山で、修験修行の大道場として栄えた。中尊寺、毛越寺の修験者は、栗駒山を満徳山須川岳と称し、修行の場としていた。藤原氏は、修験者たちを僧兵として支援していたという。
     また須川岳は、盛夏になっても積雪が消えることなく、残雪の形が馬の駆ける勢いを備えているので、人々は神の顕現と信じ、栗駒山と名付け、山中に馬頭観音、大日如来、虚空蔵菩薩の三尊仏を祀った。藤原氏が源頼朝に滅ぼされると、修験者たちは、村の鎮守社の別当や加持祈祷師、諸国遊行者、帰農するなどして四散していったという。
▲帰路は自然観察路・産沼コースを下る ▲産沼
  • 自然観察路の花・・・シャクナゲ、イワオトギリ、キンコウカ、ガクウラジロヨウラク、サンカヨウ、スダヤクシュ、ツルリンドウ、ハクサンチドリ、マルバシモツケ、ミヤマツボスミレ、ヨツバヒヨドリ、コバイケイソウ、マイヅルソウ
▲ハクサンチドリ  ▲スダヤクシュ
▲コバイケイソウ ▲マイヅルソウ ▲サンカヨウ 
  • 錦繍の絨毯を敷き詰め、全山「炎立つ」栗駒山(2017年9月24日撮影) ・・・赤い色はサラサドウダン・コメツツジ・ミネザクラ、黄色はミネカエデ・ダケカンバ、緑色はハイマツ。
2013年8月3日栗駒山で撮影した花
▲ナンブタカネアザミ ▲キンコウカ  ▲ハクサンシャジン
▲イワショウブ ▲イワオトギリ ▲ミズギク
▲ノリウツギ
▲シロバナトウウチソウ ▲タチギボウシ ▲アカモノの赤い実

  • 栗駒山の「イワカガミ」・・・名の由来は、岩場に自生するので「イワ」がつき、葉が厚く、光沢があるので「鏡」に見立てた。
参 考 文 献
  • 「栗駒山の自然を訪ねて」(「一関の自然」刊行委員会編)
  • 「花の百名山 登山ガイド上」(山と渓谷社)
  • 山渓名前図鑑「野草の名前 春」(高橋勝雄、山と渓谷社)
  • 「日本の名山を考える」(斎藤一男、アテネ書房)