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樹木シリーズ① ウメ(梅)

新元号「令和」と梅 2019年4月1日
  • 早春の風物詩「梅にメジロ」(梅、バラ科)
     「花鳥風月」は、日本の美しさを象徴する言葉である。その「花鳥」を愛でる言葉の一つに、「梅にウグイス」という例えがある。また、花札の絵にも描かれている。「梅」は、百花にさきがけて咲くことから早春を代表する花であり、「ウグイス」は、美しいさえずりで春を告げる鳥の代表である。この二つを組み合わせて、春の訪れを喜ぶ様をあらわしている。それを写真で表現しようとすると、何と言っても「梅にメジロ」であろう。
  • 梅は、中国の長江流域が原産地であろうと言われ、中国では3000年以上も前から栽培されている。日本へは、奈良時代以前に遣唐使によって渡来したと言われている。古くから桜より親しまれ、万葉の時代には花と言えば梅だった。各地に観梅の名所がある。梅の花が咲くと、群れでやってくるメジロは、蜜を吸い、花粉を運んでくれる。 
  • 新元号「令和(れいわ)」と梅典拠:万葉集 梅花(うめのはな)の歌三十二首の序文より
    天平二(730)年正月十三日に、大宰府長官・大伴旅人(おおとものたびと)の邸宅に集まり、宴会を開く。「時に、初春(しょしゅん)の月(れいげつ)にして、気淑(よ)く風(やわら)ぎ、は鏡前(きょうぜん)の粉(こ)を披(ひら)き、蘭(らん)は珮後(はいご)の香(こう)を薫(かおら)す。」の二文字からとった。
  • 意味・・・時に、初春のめでたい月(令月)にして、空気はよく風は和らぎ(爽やかに)、梅は鏡の前の美女が装う白粉のように開き、蘭は身を飾った香のように薫っている。
  • 「令和」に決定した願いは・・・安倍晋三首相は「厳しい寒さの後に春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように、一人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたいとの願いを込め、『令和』に決定した」と語った。
  • 万葉の時代、「花」といえば「梅」・・・当時、梅は中国文人達に大変愛されていた花であった。遣唐使たちが薬用として持ち帰ったのが最初といわれ、白梅、ついで紅梅が入ってきている。大陸に思いを馳せる人々は、梅を愛でる文化に憧れ、万葉集では、梅の歌が118首に対しサクラの歌は44首に過ぎなかった。
  • 「わが園に 梅の花散る ひさかたの 天より雪の 流れ来るかも」(大伴旅人) ・・・わが家の庭に梅の花が散る。その花の散る様子を、天から雪が流れ来る様に例えている。
  • 「春されば まづ咲くや どの梅の花 独り見つつや 春日暮らさむ」(山上憶良)・・・春になると、まず最初に咲く梅の花は、私一人で見て春の日を過ごすなどどうして出来ようか。
  • 万葉集・・・7世紀後半~8世紀後半、日本に現存する最古の和歌集。約4,500首の和歌と、4首の漢詩がある。
  • 江戸の本草学者・貝原益軒「大和本草」(1708年)・・・花木のトップにウメをおき、「梅花は独り天下の花に先立って開く。故に百花魁といふ。その香、色、形容、また百花にすぐれたり、故に花中第一とす。園には必ず、先づ梅を植えるべし」と記している。それにならって「ウメ(梅)」を、樹木のトップにすえて、特集「樹木シリーズ」をスタートさせることに決定。
▲ウメ ▲サクラ
  • ウメとサクラ・・・花の見分け方
    1. 花びら・・・ウメの花びらは丸いのに対し、サクラは花びらの先が割れている。
    2. 花柄・・・ウメは花に柄がないのに対して、サクラの花には長い柄がある。
  • 名前の由来・・・中国語のメイから転訛、朝鮮語のマイに由来、薬用として渡来した燻し梅「烏梅(うばい)」に由来するなど、いろいろな説がある。
  • 花 期・・・3~4月。白色が一般的だが、紅色、淡紅色のものもある。
  • 梅の実・・・6月頃、黄色に熟し、果肉は酸味が強い。梅干しや梅酒、薬用に使う。ただし梅の種や果肉には、種を守るため「青酸配糖体」という、糖と青酸が結合した物質が含まれている。青酸は、人間の体内に入ると呼吸困難や目まいなど深刻な影響を与える。特に未成熟な青い果実や種子には多く含まれているので、生で種ごと食べてはいけない。
  • 梅の主な加工品・・・梅干し、梅酒、梅ジャム、梅ジュース、梅シロップ、梅肉エキスなど。
  • ウメの葉・・・卵形~倒卵形で葉先近くで急に狭くなり、葉先が細長く伸びる。葉柄は赤い。
  • 樹皮・・・暗い灰色で、不規則に裂け、幹は低い位置で枝分かれし、くねった樹形になる。梅は剪定に強く、剪定することで樹形もよくなると言われている。梅の幹に苔が着くと風情が増す。花以外で白梅と紅梅の違いを見分けるには、樹皮を剥げば一目瞭然。白梅の内樹皮は白く、紅梅は紅色を帯びる。紅梅の樹皮を使って染めた色を梅染(うめぞめ)と呼ぶ。
  • めでたいものの代表「松竹梅」・・・室町時代、座敷の部屋を飾る手段として、立花が始まり、初春の花を立てる時、中心に梅花が用いられた。後に池坊では、祝言用の花として、松と竹と梅を花材の最上位に位置づけ、梅にめでたさが加わった。この三種の植物の組み合わせを松竹梅と言い、めでたいものの代表として慶事に用いられてきた。今でも、新しい年の始まりとなるお正月には、めでたい松竹梅が飾られる。
  • 鳥媒花・・・梅はメジロやヒヨドリなどの鳥によって交配する鳥媒花だが、昆虫や風によっても交配する。梅の果実生産農家は、ハナバチ類を利用して交配している。
  • ウメの花蜜を吸う野鳥・・・メジロ、ヒヨドリ、シジュウカラ、スズメなど
  • 梅の品種・・・300種以上あり、野梅系、紅梅系、豊後系の三系統。果実利用を目的とした豊後系は、大型化を目的としてアンズと交配された品種である。 
  • 梅暦・・・梅の花のことで、春が来たことを知る意味がある。
  • 数多くの異名がある・・・好文木(こうぶんぼく)、春告草(はるつげぐさ)、木の花(このはな)、初名草(はつなぐさ)、香散見草(かざみぐさ)、風待草(かぜまちぐさ)、匂草(においぐさ)などがある。 
  • 菅江真澄と大屋梅(横手市)・・・横手市大屋梅は、古くから特産品として知られ1200年の歴史をもつ。真澄は、この地を訪れ描いた「大屋梅」の絵図(秋田県立博物館蔵)を見ると、見事な枝ぶりであったことが分かる。「江津(滋賀の古名)の庭梅、鬼嵐の江津彦右衛門の庭にあり、まことに大樹にして出羽、陸奥はいうもさらなり、かかる梅の木は世に類なきものなり。樹の高さ約10~11m、東西に約20m、南北に約25m」(雪の出羽路)と記している。 
  • 飛梅伝説・・・901年、右大臣であった菅原道真は、藤原氏の陰謀により大宰府に左遷される。いよいよ都を離れる日、幼い頃より親しんできた梅に、「東風(こち)吹かば匂ひおこせよ梅の花 あるじなしとて春なわすれそ」と詠んだ。すると、主人(道真)を慕った梅は、道真が大宰府に着くと、一夜のうちに道真の元へ飛んで来たといわれている。 
  • 受験の神様・菅原道真公を祀る京都の北野天満宮・・・梅をこよなく愛した道真をしのび、命日である2月25日に盛大な梅祭りが行われる。満開に咲き誇る紅白二千本ほどの梅の花を愛でようと多くの参拝客で賑わう。 
  • 梅の天日干し・・・北野天満宮では、6月に境内で収穫した梅を、7月下旬に天日干しする「大福梅(おおふくうめ)の土用干し」が行われる。塩漬けされた梅の実を、神職や巫女(みこ)らが本殿の前に広げたむしろに並べる。梅は4週間かけてカラカラになるまで干し上げる。再び塩をまぶして11月下旬まで貯蔵し、12月中旬~下旬頃まで大福梅として参拝者に授与される。大福梅は無病息災の御利益があるという。なお、有名な紀州の南高梅も土用干しを行っている。 
  • 梅干しと効能・・・梅の果実を塩漬けした後、日干しにしたもので、日干しをしていないものは梅漬けという。白いご飯に梅干しをのせただけの弁当を「日の丸弁当」と呼ぶ。梅干しは、昔から「体に良い」とされた伝統的な健康食品の一つ。効能は、インフルエンザ予防、胃がん予防、糖尿病予防、食中毒予防、動脈硬化抑制、血液浄化作用、抗酸化活性作用、疲労回復、食欲増進、虫歯予防、カルシウム吸収促進、ダイエット効果、鎮痛作用などがあるとされている。
  • 三種町金仏梅公園・・・春には園内にある2,000本の梅の木がきれいな花を咲かせる。公園には「藤五郎(とうごろう)」「越の梅(こしのうめ)」「白加賀(しらかが)」「豊後(ぶんご)」の4種類の梅があり、一般でも収穫できるのは「藤五郎」や「越の梅」が中心とのこと。
  • 菅江真澄「かすむ月星」・・・「(琴丘町)神馬沢の部落に入った。この辺り一帯に大きな梅の木がたいそう多く、花はなかば過ぎているが、かぐわしい香りが山風に漂っていた。桃・梨・李が枝を交えて、村のどこの庭にも咲いているのがおもしろく、心ひかれながらたどって行った。」
  • 菅江真澄「男鹿の春風」・・・「(能代市河戸川)どこの家の梅もいまを盛りと咲き誇り、ウグイスもしきりに鳴いている。田んぼをたどってきて、浅内という村で紅梅が柴垣の外まで枝がさし出て匂っている。・・・梅がところどころ咲いている郷を福田という。」
  • 俳句
    梅一輪一輪ほどの暖かさ (服部嵐雪)
    里からも梅ほころびし便り来る 前田卯生
    紅梅や枝々は空奪ひあひ 鷹羽狩行
    青空に触れし枝より梅ひらく 片山由美子
  • 鳥の来て梅の一ひらはらと舞ふ 渡辺伝三
    鶯やとなりつたひに梅の花 正岡子規
    何といふ鳥かしらねど梅の枝 正岡子規 
  • 梅とヒヨドリ・・・梅の花が満開になると、メジロの群れとともにヒヨドリたちも花の蜜を求めてやってくる。顔中花粉だらけにして蜜を貪り続ける。
  • 梅とスズメ・・・梅の木の傍にスズメの巣があったりすると、花が咲けば集団でやってくる。スズメは、メジロのように花の蜜を吸えない。だから、花を食いちぎって噛むようにして花の蜜を味わった後、花を下に落とす。これは桜の蜜を吸う場合も同じで、鳥媒花にとっては迷惑千万であろう。
  • 菅江真澄「八英(やつふさ)の梅」・・・1804年8月21日、一つの花に八個の実をつける不思議な八英(やつふさ)の梅を記録している。「(男鹿市脇本)岩倉という岡に八英(やつふさ)の梅という年をへた一本の梅の木がある。毎年三月の頃には、野も山も谷もおしなべて、このかぐわしい匂いに包まれ、風に乗って広がるという。これと同種の梅が新潟県京ヶ瀬町にあった。・・・八英(やつふさ)の梅は越後の国と陸奥の国にある二本だけが有名で、他のところにあると聞いたことがなかったが、この岩倉あたりにこのような大木があるとは思いがけないことであった。」
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会) 
「別冊NHK俳句 季語100」(NHK出版)
「花と樹木と日本人」(有岡利幸、八坂書房)
「菅江真澄遊覧記」(内田武志・宮本常一編訳、平凡社)
「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)