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樹木シリーズ⑦ コブシ、タムシバ

INDEX コブシ、タムシバ
  • 里に春を告げるコブシ(辛夷、モクレン科)

     山に春を告げる白い花がタムシバで、里に春を告げる白い花がコブシである。「北国の春」の歌詞にも、「コブシ咲くあの丘 北国の 北国の春」とある。桜の花に先駆けて咲き、春の里地里山を彩る。この花が咲くと、農作業を始めたことから「田打ち桜」「種まき桜」とも呼ばれている。特に東日本に多い高木で、コブシの花が多いと豊作とも言われている。街路樹や公園樹、庭木として植えられる。 
  • 名前の由来・・・果実が集合果で、握り拳(こぶし)のように見えるのが、名前の由来。漢字の「辛夷」は、中国でモクレンのことを言う。 
  • 古くから暦代わりと作占い・・・昔は、コブシの花が咲くと「種を蒔け」と言われた。また、コブシの花が天を向いて咲くと、日和が良くて豊作。下を向いていると雨年で悪く、横を向いて咲くと風年などと百姓は占いに用いた。
  •  宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」・・・「その年は、お日さまが春から変に白くて、いつもなら雪がとけると間もなく、真っ白な花をつけるコブシの樹もまるで咲かず・・・」と、書いている。
  • 花期・・・3~5月、高さ5~18m 
  • 菅江真澄「おがらの滝」・・・「コブシを田打桜といい、タムシバを肉桂(にっけい)とよび、彼岸桜にやや似ている紅色の濃い山桜(オオヤマザクラ)の初花を種まき桜というのが、この国の方言であった。」
  • 花の特徴・・・葉に先立ち芳香のある花弁を6個開く。基部は紅色を帯びる。径6~10cm。ガク片は3個で小さい。開花期に花の下に葉を一枚つける。 
  • 解説「花弁」「ガク片」・・・花びらのことを「花弁」、花の外側にある部分を「ガク」、その 1枚ずつの個々を「ガク片」という。
  • 雌しべ、雄しべ・・・両性花で、雌しべは中心に柱状に集まり、雄しべはへら型でらせん状に雌しべを取り囲んでいる。
  • 見分け方・・・タムシバやハクモクレンと似ているが、コブシは開いて咲き、花の下に小さな葉が一枚つくのが特徴。タムシバの花の下には、葉がつかない。ハクモクレンは、半開きで上向きに咲き、重量感がある。 
  • 暖かい毛に包まれた冬芽が破れて、筆の穂先のようなつぼみが開き始める。
  • 次第に緑の若葉と白い花びらが開く。
  • 薬効・・・コブシは、タムシバと同じく、鼻の専門薬として使用されてきた。蓄膿症、慢性鼻炎による頭痛、鼻づまりに効果があるとされている。
  • ・・・幅が葉先の方で最大になる倒卵形で、葉先が突き出る。細かいシワがあり、縁が波打つ。葉の幅は、タムシバより広い。 
  • 樹皮・・・樹皮は灰白色で滑らか、皮目と縦皺が細かくある。材は、ホオノキに似て軟らかくきめ細かく美しいため器具材に使われる。 
  • 集合果・・・コブが多く、長さ5~10cm。9~10月、熟すと袋果が裂け、赤い種子が顔をのぞかせる。赤い皮の下には白い油脂層があり、これが鳥の好物。種子本体は黒くて硬く、取り出すと可愛いハート形をしている。  
  • 実を食べる野鳥・・・キビタキなどのヒタキ類、アオゲラなど。
  • コブシの花とコムクドリ・・・花の蜜を求めてやってきたコムクドリのツガイ
  • ヒヨドリとコブシ・・・ヒヨドリは、コブシの花を食べる。秋、果実が熟すと、赤い実に群がって食べる。
  • 俳句
    辛夷咲く北の大地の息づかひ 橋本幹夫
    山間の辛夷明りの杣家かな 東嘉子
    一夜明け山路辛夷の花盛り 川崎郁子
    日暮れても尚も明るきこぶしかな 本田敏子 
タムシバ
  • 山に春を告げるタムシバ(モクレン科)

     山に春を告げる純白の花を咲かせる。コブシより香りが強く、冬眠から覚めたツキノワグマも大好物。ブナ帯の山の斜面や尾根に生え、日本海側の多雪地帯に多い。コブシとは、地域や環境で棲み分けている。 
  • 名前の由来・・・葉を噛むと甘みや爽やかな香りがあるので、杣人が山仕事の合間に噛んだことから、「噛む柴」。それが転訛したものと言われている。ニオイが群を抜いて良いことから、別名ニオイコブシと呼ばれている。 
  • 花期・・・4~5月 高さ3~9m 
  • 葉に先立ち、コブシに似た香りのよい花が咲く。コブシと違い花の下に葉はない。花弁は6個、ガク片は白色で3個。集合果は、コブシとほぼ同じ。 
  • 雌しべと雄しべが同居している両性花・・・花の中心が雌しべで柱状、その周りを囲むのがヘラ形の雄しべで、隙間から花粉を出す。
  • 黄色く地味なマルバマンサクの花に比べ、タムシバの花は白く華やか。木の高さは低いが、木全体にほとんど隙間なく白一色に咲き、裸の森の中では良く目立つ。 
  • クマは、穴から出ると、タムシバの花やオオバクロモジの若芽を手前に手繰り寄せて食べる。 
  • 薬効・・・鼻カタル、蓄膿症、頭痛に効果があるとされている。雪解けの頃、花のツボミを採取し、陰干しにする。それを煎じて服用する。生薬名は「和辛夷」。 
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
「秋田の山野草300選」(秋田花の会)
「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
「秋田農村歳時記」(ぬめひろし他、秋田文化出版社)  
「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)