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樹木シリーズ⑪ ハウチワカエデ

  • 新緑と紅葉が美しいハウチワカエデ(羽団扇楓、ムクロジ科)

     葉は切れ込みが浅く、カエデの中では最も大きいので、若葉と花、新緑、紅葉ともに美しい。特に紅葉時は、葉全体が色づかず、黄色、オレンジ、赤など様々に染まるので見応えがある。寒冷に強く、やや標高の高いブナ帯に生育する。より高木層のブナに被われていても生育可能な耐陰性の強い樹種である。  自然樹形が最も美しく、剪定不要なことから庭園樹、街路樹としてよく植えられる。
  • 名前の由来・・・葉の形が天狗の持つ鳥の羽の団扇に似ていることから「羽団扇楓」と書く。なお、カエデは、葉の形がカエルの手に似ていることに由来する。 
  • 花期・・・4~5月、高さ5~10m 
  • 芽吹き 
  • 若葉と花・・・芽吹きだした若葉とともに散房花序を出し、暗紅紫色の花を多数吊り下げる。最初の花が咲いてから最後のツボミが開くまでの期間は、3~4週間もかかるという。
  • 複雑な性表現・・・ハウチワカエデは、雌花が先に熟す両性花が、同時に咲く雄花が先に熟す両性花の花粉をよく受け取ることで、自殖を避け、その種子が良く実ることが知られている。こうした複雑な性表現は、種の戦略として進化してきたと考えられている。
  • 解説「雌雄異熟」・・・雌雄の成熟時期が異なる現象は、「雌雄異熟」と呼ばれている。植物の雌雄異熟では、雄花が先に咲く場合を「雄花先熟」、雌花が先に咲く場合を「雌花先熟」と呼ぶ。最初に雄花が咲いた個体の中には、最後まで雄花だけを咲かせる個体も見られるという。ならばこれは雄株になったことになる。
  • ・・・「天狗の団扇」に似た葉は、直径7~12cmと大きく、基部は心形で、掌状(しょうじょう)に浅く9~11に切れ込みが入る。葉柄は、葉の長さの1/2以下と短く、毛がある。
  • 解説「掌状(しょうじょう)」・・・手の平を広げたよう形を「掌状」という。
  •  モミジとカエデの違い・・・葉の切れ込みが深いカエデを「〇〇モミジ」、葉の切れ込みが浅いカエデを「〇〇カエデ」と呼んでいる。
  • 新緑もまた美しい 
  • 樹皮・・・灰青色でなめらか。老木になると、不規則に剥がれるようになる。
  • 一年枝は紅紫色や赤褐色で艶がある。 
  • 果実・・・カエデの仲間は、長い翼のある実がプロペラのような形をしているのが特徴。
  • プロペラ型の戦略・・・種子は、クルクル回転しながら落下するため、滞空時間が長く、横風で遠くに運ばれ、広い範囲にばらまかれる。風に乗ると、100m以上も飛ぶことができるという。こうしたプロペラ型の種子は、風を利用して色々な場所に芽生えて生き残ろうとする戦略だと言われている。 
  • 紅葉・・・カエデの仲間では、葉が最も大きいから、一度に色づかず、葉先から少しづつ変化していく。だから黄緑、黄色、オレンジ、赤など変化に富み、多彩なグラデーションでブナ帯の森を艶やかに彩る。 
  • 紅葉の順序・・・同じ樹木であれば、光が良く当たる場所から順次紅葉する。
  • 奥山のブナ林内の黄葉・・・ハウチワカエデは、ブナ林の中に生えると赤くならず、黄色いままのことが多い。これはブナやミズナラなどの高木類に遮られ、日射が不足するからだと考えられる。
  • 里山・公園樹の紅葉・・・二次林を主体とする里山では、ハウチワカエデが赤く色付く。これは、大きな木が相対的に少なくなって、ハウチワカエデなども十分日射を受け、赤い色素を作りやすくなるからだと考えられる。いずれにしてもハウチワカエデの紅葉は、日当たりの良い所ほど美しい。
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)