本文へスキップ

樹木シリーズ⑩ イタヤカエデ、ベニイタヤ

INDEX イタヤカエデ、ベニイタヤ
  • 竹の代わりに細工物に利用したイタヤカエデ(板屋楓、ムクロジ科)

     葉は切れ込みがそれほど深くないので、水かきの部分が広い「カエルの手」に似ている。春、葉が出る前に咲く黄色の花と緑の若葉が特徴で、秋には黄色く黄葉する。イタヤカエデは、年輪に沿って竹のように真っすぐに細かく割ることができる。雪深い秋田では、竹が自生していなかったので竹の代用品として、箕や魚籠、コダシなどのイタヤ細工に利用された。北海道から九州の山地まで広く分布。秋田には、変種のベニイタヤが自生している。 
  • 名前の由来・・・葉がカエルの手に似ているから「カエル手→カエデ(楓)」。葉が大きく天を覆い尽くすほど茂っていることから、雨が降っても雨宿りできる屋根に見立てて「板屋楓」と書く。
  • 花期・・・4~5月、高さ15~20m 
  • ・・・葉が開く前に、蛍光色のような鮮やかな黄色の花を枝一面に咲かせ、新緑の森を鮮やかに彩り、よく目立つ。仮に葉を開いた後に花を咲かせるとすれば、葉で花が隠れてしまう。花粉を運んでくれる昆虫たちが花を見つけやすいように、花の後に葉が開くと言われている。
  • 花アップ・・・黄色い花は平らに開き美しい。雄花と両性花があり、花弁やガク片は5個、雄しべは8個。
  • 花と萌え出た若葉が開く・・・イタヤカエデの若葉は緑だが、ベニイタヤの若葉は赤い。
  • 新緑の輝き
  • ・・・葉は切れ込みの入った「カエルの手」のような形をしている。葉の縁にギザギザがないのが特徴。葉は5~7裂し、裂片は三角状で幅が広く、先は鋭く尖る。 
  • 風散布型の翼果・・・長さ2~3cmで直角~鋭角に開き、褐色に熟す。 
  • 褐色に熟した翼果 
  • 黄葉・・・秋に葉が黄葉するタイプで、赤くならない。
  • カエデ類は亜高木層の陰樹(写真:ブナ帯の森に見られるベニイタヤ) ・・・カエデの仲間は、弱い光で光合成を行うため、ひさしのように水平方向に広がった枝葉を出し、葉がお互いに重ならないようについている。しかも、一斉に開葉し、秋まで長持ちさせる。しかも葉が薄く、徹底した省エネ型の戦略をとる。一方、強い光を利用する陽樹は、枝が垂直に立ち上がり、段階的に次々と葉を開いていく順次開葉型で、葉の寿命は短い。
  • 大胆なリストラも行う・・・陰樹とは言え、余りに暗すぎると枯れてしまうが、イタヤカエデの場合、いったん地上部分を枯らしてしまう。そして生きている根から萌芽して、葉を出す。つまり、種子で光が当たるのを待つ戦略ではなく、大胆なリストラを行い稚樹で待つ戦略をとる。 
  • 樹皮・・・暗灰色で、なめらか。細い縦縞があるものも。老木になると浅く縦に裂け目が入る。 
  • イタヤ細工・・・イタヤカエデの若木の幹を帯状に裂いてこれを編み、穀物の殻と実を選り分ける箕や魚を入れるビグ、山菜・キノコを入れる籠などをつくる。工芸に適した竹が少ない北東北だけに伝承されている技術である。今から200年余り前、冬の農閑期の副業として発展した。秋田市太平黒沢地区、仙北市角館町雲然地区で技術が伝承され、平成21(2009)年3月に「秋田のイタヤ箕製作技術」として重要無形民俗文化財(国指定)に指定された。 
  • 材料のイタヤは、直径10cm前後の若いイタヤカエデを縦に8等分くらいに割り、中芯を取り除き幅を整え、年輪に沿って1枚ずつ帯状に剥がしてから面取りをして仕上げる。 道具には明治25(1892)年ころに発明されたカッチャ小刀と呼ばれる左側に刃が付いた独特の小刀を用いる。昔は、農作業に使う道具をつくっていたが、現在は、イタヤの持つ白い木肌の素朴さを活かした工芸品として、花かごや手提げかご、弁当箱、イタヤ馬などがつくられている。 
  • 木地山系の川連こけし・・・こけしの材料は、一般的にイタヤカエデやミズキが主に利用されているが、川連こけしはイタヤカエデの木を多く使っている。1年程度乾燥させた後、こけしの大きさに切り、それを八角の角材に木取りしていく。その後、ロクロでこけしの形状に木を削り、絵付けをした表面全体に蝋を塗って仕上げる。
  • 樹液・・・2月下旬頃、直径30cm以上の幹にドリルで3cmほどの穴を開け、そこにホースを取り付け、タンクで樹液を受ける。この樹液をろ過し、1/35になるまで煮詰めると、琥珀色のメープルシロップができる。1本のイタヤから200ccしかとれない貴重なもので、山形県金山町で加工販売されている。 
  • 用途・・・材質が硬く、見た目も美しいので家具、楽器、運動具(スキー、バット)、装飾材に利用される。1970年前後、ボウリングブームの時代は、ピンと床板として多く使用された。また燃えにくい性質はガラス木型に適する。 
  • 秋、ススキとイタヤカエデの黄葉 
ベニイタヤ
  • イタヤカエデの変種・ベニイタヤ

     ベニイタヤの葉の裂片は5裂、イタヤカエデはたいてい7裂である。別名アカイタヤともいう。若葉が紅紫色をしていることが名前の由来。春は赤色、夏は緑色、秋は黄色に黄葉する。白神山地や乳頭高原などブナ帯の山地では、ベニイタヤがほとんどのように思う。北海道から本州の日本海側に分布。
  • 春、ブナ帯の森で一際目立つ赤茶色~紅紫色の若葉
  • 花アップ・・・花茎を伸ばして黄色い花を数個咲かせる。
  • 開き始めた若葉と花
  • サクラをバックに若葉と花を撮る
  • ベニイタヤとメジロ・・・メジロは、サクラの花が満開になると、1本のサクラに大群で群がる。小さい鳥だけに外敵に対して警戒心が強い。蜜を吸っている最中に、木の下を車や人が通れば、一斉に隠れる。上の写真は、いち早く葉を開くベニイタヤの木に避難し、何やら捕食しているところ。昆虫やクモでも食べているのだろうか。
  • 春、ブナ帯の春紅葉に彩りを添える黄色い花(上写真左側)
  • 新緑に映える赤系の若葉
  • イタヤカエデと同じく風散布型の翼果
  • 秋、黄色に黄葉する。
参 考 文 献 
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
「木の教え」(塩野米松、ちくま文庫)
「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館) 
「樹は語る」(清和研二、築地書館)