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樹木シリーズ101 ヒマラヤスギ

  • 世界的な公園樹・ヒマラヤスギ(別名ヒマラヤシーダー、マツ科)

     ヒマラヤ北西部、カシミール、アフガニスタンの標高1100~4000mの高地に自生する常緑高木。スギではなくマツの仲間で、特大の松ぼっくりを実らせる。熟して落下すると、バラの花のような形をしていることから「シーダーローズ」と呼ばれている。成長が速く、三角形を描く円錐形の樹形が美しいことから世界中で植えられている。大木になり、枝葉に強い香りがあるので、原産地ヒマラヤでは神聖な木とされている。わが国には、明治12年に渡来し、増上寺の門前に植えたものが最初とされ、公園樹、学校の校庭などによく植えられている。コウヤマキ、ナンヨウスギとともに世界三大庭園樹に数えられる。
  • 名前の由来・・・ヒマラヤ産で、葉の形がスギに似ていることから。ただしスギ類ではなく、マツ科ヒマラヤスギ属、別名ヒマラヤシーダー。 
  • 花期・・・10~11月、高さ20~30m、原産地では高さ50m、直径3mに達する。(写真:雄花のツボミ)
  • ・・・雄花は長さが約3cmの円錐形で、ツボミのうちは白緑色。
  • 雄花が熟すと・・・茶系のキツネの尾のようになり、開くと黄色の花粉を大量に風で飛ばし、ポロポロと落ちる。雌花は小さく(長さ5mmほど)目立たないのに加え、数も少なく高いところに上向きにつくので撮影が困難である。
  • 花粉を飛ばした後の雄花・・・茶系の雄花は落下して残り少なくなっている。こぼれ落ちた黄色い花粉が大量に枝についている。
  • 大量に落下した雄花
  • 樹形・・・幹の下部から枝を横に広げ、上に行くほど枝が短くなって綺麗な円錐形になる。 
  • 樹皮・・・灰褐色で鱗片状に剥がれる。 
  • ・・・葉が20~50本ずつ束になってつく。長枝の先では1本ずつ。葉や枝には香りのいい樹脂を含む。 
  • 松ぼっくり・・・2年型で特大(長さ6~13cm)の松ぼっくりを実らせる。翌年の初夏になると、大きくなっているが、まだ緑色。 
  • 松ぼっくりが熟すと・・・晩秋に緑色から褐色に熟すと、天辺の果鱗はまとまってパラパラと落とす。その時、お腹に2個ずつ抱いていた種がクルクル回りながら風で運ばれていく。だから松ぼっくりは拾えない。 
  • シーダーローズ・・・熟すと、芯から鱗片が外れ、パラパラと散ってゆき、最後にバラのような形の先端部だけがポロッと落ちる。その姿がバラの花のように見えることから、「シーダーローズ」と呼ばれている。 クリスマスリースや森のクラフトなどに利用される。
  • 拾う適期・・・12月~1月
  • 果軸・・・尖った果軸は、いつまでも枝に残る。 
  • 落下した種鱗・・・種子が飛んだ後の種鱗が、ヒマラヤスギの周りに大量に落ちている。大きいものでは幅が5cmほどもある。1個の松ぼっくりを分解すると、鱗片の数は何と215枚にもなる。その数の多さに驚かされる。
  • 京都府立植物園のヒマラヤスギ・・・1924年、日本で最初の公立植物園として開園した京都府立植物園には、推定樹齢約90年のヒマラヤスギの巨木が幾本もある。初めて見た時は、その巨大さに圧倒された。インドでは、「神の樹」と呼ばれ、古くから神聖な木とされるほか、貴重な薬木として知られている。   
  • 新宿御苑のヒマラヤスギ・・・イギリス人ジョン・ヘンリー・ブルークは、明治時代に横浜に住み、英字新聞を発行していたジャーナリスト。彼は、明治12年、インドのカルカッタからヒマラヤスギの種子を輸入し、自分で苗を育てて、山手公園に植えた。新宿御苑は、ブルークからその苗100本を買い取り、苑内に植え、その後挿し木によって増やしていったという。
  • 東京都港区、増上寺のヒマラヤスギ・・・寺の山門の前にある大きなヒマラヤスギは、アメリカの第18代大統領グランド将軍が、明治12年に国賓として日本を訪れた際、記念として植えたもので、「グランド松」と呼ばれている。
  • ヒマラヤスギ属は世界に4種・・・レバノンスギ、アトラススギ、キプロススギがある。いずれも別名〇〇シーダーと呼ばれている。レバノンスギは、聖書にもしばしば登場する有用樹木で、古代エジプトではソロモン神殿の建築材、船その他多くの用途に用いられた。
  • レバノンスギとミイラ・・・非常に強い香りのする精油を含んでいる。古代エジプトでは、死者を埋葬するときに、布にレバノンスギから搾り取った精油を含ませ、これでミイラを包んで保護し、その上にレバノンスギで造られた棺で埋葬した。 
  • ユダヤ人の習慣・・・男子が生まれると家の前にシーダーを、女子が生まれるとモミを植える習慣があり、子供が成長し、将来必要になる家具を作るのに備える。日本のキリに対する習慣に似ていて興味深い。 
  • 材の利用・・・樹脂分を多く含むため耐久性が大きく、シロアリにも強い。乾燥は容易だが狂いが生じやすく、塗料のつきもよくないとされる。建築材、家具、器具、建具、船具・カヌー、木煉瓦、枕木、土木材、箱材など用途は広い。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「探して楽しむ ドングリと松ぼっくり」(平野隆久ほか、山と渓谷社)
  • 「日本有用樹木誌」(伊東隆夫ほか、海青社)
  • 「拾う! 飾る! 楽しむ! 森のたからもの探検帳」(飯田猛、世界文化社)  
  • 「樹木の個性と日本の歴史 公園・神社の樹木」(渡辺一夫、築地書館)