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樹木シリーズ102 アカエゾマツ

  • 北海道と本州では早池峰山だけに生育するアカエゾマツ(赤蝦夷松、マツ科)

     北海道及び本州では早池峰山だけに生育する常緑高木。かつては十和田湖周辺にも自生していたが、温暖化とともに落葉広葉樹に追いやられ絶滅したという。現在は、北海道北東部に多く、痩せた高層湿原などでしばしば純林をつくる。大木になるが成長は遅い。北海道の代表的な樹木のひとつで、高さ40m、胸高直径1mにもなる円錐形の美しい高木で、エゾマツとともに 「北海道の木 」 に選定されている。 
  • 見分け方・・・樹形で比較するのは難しく、葉で見分ける。エゾマツの葉は、長く扁平で先が鋭く尖るのに対し、アカエゾマツの葉は短く、その横断面は四角~菱形で短い針葉が密についている。樹皮は、エゾマツに比べ鱗片が大きく、剥がれやすい。 
  • 名前の由来・・・エゾマツに比べて幹が赤いことによる。アカエゾマツに対して、エゾマツをクロエゾマツと呼ぶことがある。別名エゾアカマツ、テシオマツ、ヤチエゾ、ヤチシンコなど。 
  • 美しい樹形・・・整った円錐形で自然樹形が美しいことから、クリスマスツリーとして多く利用されている。 
  • 長寿・・・高さ40m、胸高直径1.5m以上にもなる長寿の樹木で、400年以上のアカエゾマツの円盤が札幌市羊ヶ丘の森林総研の標本館に展示されている。 
  • ・・・短い針状でらせん状につく。先は尖りチクチクする。表も裏も緑色。葉の断面は菱形。若枝には赤褐色の毛がある。雌雄同株。葉から採れる精油はアロマでの人気が高い。 
  • 樹皮・・・灰褐色~赤褐色で、うろこ状に剥がれる。 
  • 球果・・・松ぼっくりは1年型で長さ5~9cm、枝の先端に垂れ下がるようにできる。9~10月には暗紫色から灰褐色に熟す。 
  • 種子を遠くに飛ばすために、木の高い梢に球果がつく。種子には翼があり、クルクル回転しながら落下する。上の写真は、種子を飛ばした後で、全て球果が開いている。 
  • 昔、十和田湖周辺にも自生・・・十和田湖の東側に、アカエゾマツを含む「埋没林」があった。この埋没林は、約1万三千年前の十和田湖の噴火の際に発生した火砕流や降下した火山灰によって埋められたもの。 
  • なぜ本州から消えたのか・・・今から約二万年前の最終氷期には、アカエゾマツやグイマツは東北地方に広く分布していたことが分かっている。その後気候が温暖化するとともに、ブナやミズナラなどの落葉広葉樹に駆逐され縮小していった。グイマツは日本列島から消滅し、アカエゾマツは北海道を除くと早池峰山だけに小群落が生き残った。 
  • なぜ早池峰山だけに残ったのか、その理由①・・・早池峰山は、蛇紋岩が多い。蛇紋岩には、ニッケルやクロムなどの重金属が集積し、これを植物が吸収するとほとんどは生育を阻害される。アカエゾマツは、有害な重金属を体外に排出する能力があることから、他の植物が生育できない蛇紋岩地帯でも生育できる。  (写真:早池峰山)
  • なぜ早池峰山だけに残ったのか、その理由②・・・アカエゾマツ林があるアイオン沢では、繰り返し土石流が発生してきた。土石流が全く起こらないと、コメツガやヒバなどの耐陰性の強い樹種に駆逐されてしまう。適度の周期で起きる土石流がアカエゾマツの存続に味方したと考えられている。(写真:早池峰山小田越登山口) 
  • 劣悪な環境に群落をつくる・・・アカエゾマツは、他の樹木が生育しにくく、度々森林破壊が起きるような場所を得意としている。北海道では、火山による火砕流や火山灰の集積地、山火事の跡地、湿地、海岸砂丘など、劣悪な環境に純林をつくる。 
  • 安定した森では優占種になりにくい・・・山火事などの攪乱でアカエゾマツの純林ができたとしても、その林床では、種子が発芽しない。種子は暗さに弱く、発芽には強い光が必要だが、母樹の下では光が不足するからである。安定した森では、親の木の下でも発芽できるトドマツに次第にその座を奪われていく。アカエゾマツは先駆的な樹木だが、トドマツは極相種的な樹木と言われている。 
  • 盆栽・・・湿原に生えるアカエゾマツはヤチシンコと呼ばれ、生長がきわめて遅く矮生化し、自然の盆栽風の景観を示す。そのまま盆栽になるので昔から盗掘が絶えず、湿原には盗掘跡の小さな窪地が少なくないという。盆栽界でエゾマツと呼ばれるものの大半はアカエゾマツで、直径が数センチでも樹齢数百年を数えるものも珍しくないらしい。 
  • 用途・・・広く一般建築材のほか、良質なものは楽器材として評価が高い。特にピアノやバイオリンの響板として最も良い樹種とされ、丸瀬布には楽器メ-カ-専属の製材工場、日勝峠には「ピアノの森」としてアカエゾマツの純林が保護育成されている。生長が遅く強い剪定にも耐えることから、庭木や盆栽にも用いられている。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「アジサイはなぜ葉にアルミ毒をためるのか」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「葉でわかる樹木 625種の検索」(馬場多久男、信濃毎日新聞社)
  • 「探して楽しむ ドングリと松ぼっくり」(平野隆久ほか、山と渓谷社)