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樹木シリーズ104 コウヤマキ

  • 文化的・宗教的儀礼として重要なコウヤマキ(高野槇、コウヤマキ科)

     1属1科1種という特殊な日本固有種。分子系統学的解析では、メタセコイアやウォレミマツのような「生きた化石」といわれている裸子植物よりも古い年代、およそ2 億2 千年前に分岐したことが示されている。昔は、ただマキと呼ばれ、古墳時代はよく棺がつくられた。また、庭園や寺社の境内に普通に植栽され、宗教儀礼としてその小枝が仏前に供えられるなど、日本の文化的・宗教的な面からも重要な樹木である。樹冠は円錐形で、世界的に優れた造園木として賞賛され、本多静六はヒマラヤスギ、ナンヨウスギと並んで世界の三大庭園樹と名付けた。  
  • 名前の由来・・・高野山真言宗の総本山である和歌山県高野山で多く見られることによる。マキとは、漢字で「真木(マキ)」と書き、真(まこと)の木という意味である。別名ホンマキとは、本当のマキという意味である。 
  • 花期・・・4月頃、高さ40m、直径1.5m 
  • 美しい樹形・・・幹は真っすぐに伸び、狭い円錐形の美しい樹形になることから、造園木として重宝される。世界三大庭園樹の一つ。 
  • ・・・春に雄花が20~30個集まった丸い花穂が立つ。雄花は枝先に1個つく。雌雄同株。 
  • 落下した雄花
  • ・・・やや幅が太い独特の針状葉は、2枚が合着したもので、中央には溝があり、葉先は少し窪み、枝先に束状に集まってつく。 
  • 松ぼっくり・・・長さ6~10cmの球果は松笠状で、鱗のように見える種鱗の縁は丸く反り返る。2年型で、上を向いたまま熟す。秋に熟して開くと、種子を放つが、なかなか落ちない。 
  • 松笠が開いて種を飛ばした後の松ぼっくり
  • 樹皮・・・赤褐色で縦に裂け、長い片となって剥がれる。
  • 木曽五木・・・長野県木曽地方では、ヒノキ、サワラ、クロベ、アスナロとともに木曽の五木の一つとして知られている。 
  • 高野六木・・・和歌山県高野山、奈良県や三重県にまたがる大台ケ原にも比較的多く生えており、高野山では、ヒノキ、モミ、アカマツ、ツガ、スギとともに生育し「高野の六木」の一つに数えられる。高野山では、霊木として保護しており、仏前に供える。 
  • なぜ日本にだけ生き残ったのか①・・・かつては北半球に広く分布していたが、氷期に滅んだと考えられている。日本は、山岳の上部以外は氷期に氷河に覆われなかったことが理由の一つ。 
  • なぜ日本にだけ生き残ったのか②・・・コウヤマキは耐陰性は比較的強いが、生長が極めて遅く、他種との競争に弱い。自生している場所は、生育に不利な尾根筋に多く、崖のような場所にも生えている。他種との競争を回避できる複雑な地形があったからと考えられている。 
  • 古代は棺・・・日本書紀には「マキ(コウヤマキ)は棺を作るのによい」との記述がある。古代の遺跡から、コウヤマキは棺の用材として大変珍重されていたことが分かっている。これは材が耐水性に富み、長期間水湿にさらされても腐らない性質による。 
  • 現在、コウヤマキがわずかしか自生していない理由・・・弥生時代から古墳時代、河内平野の周辺にはたくさんのコウヤマキが生育していたという。ところが、木棺の材料として大量に伐採され、一瞬にして姿を消していった。コウヤマキは、昔から有用樹木であったが、大量に伐採される一方、造林がはかられなかったことによると考えられている。 
  • 高野山の習わし・・・コウヤマキは、弘法大師空海が花の代わりにコウヤマキの枝葉を仏前に供えたと言われている。だから高野山では、仏前に他の供花と一緒に、あるいはコウヤマキだけを供えるのが古くからの慣わしとなっている。特に正月、彼岸、盆には必ず供える。 
  • 材の利用・・・水や湿気に強く、耐久性も優れていることから、古代から有用材として扱われてきた。弥生時代の遺跡などから、コウヤマキの建築材や木棺が発掘されている。今でも、風呂桶や水桶などに使われている。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社) 
  • 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木と木材の図鑑 日本の有用種101」(創元社)
  • 「日本有用樹木誌」(伊東隆夫ほか、海青社)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫ほか、朝倉書店)
  • 「探して楽しむ ドングリと松ぼっくり」(平野隆久ほか、山と渓谷社)