本文へスキップ

樹木シリーズ105 ヒノキ

  • 古くから使われてきた世界最高の建築材・ヒノキ(檜、ヒノキ科)

     古くから日本人の暮らしと文化に深く関わり、スギとともに建築材として広く利用されている。日本書紀には、ヒノキは宮殿に、スギとクスノキは舟に、コウヤマキは棺に使えと記されている。千数百年という長い年月にも腐朽しない耐久性をもち、世界最古の木造建築・法隆寺にも多く使われている。人工林面積は、スギに次いで多い。しかし、スギの人工林と同じく、手入れもされずに放置されているヒノキ林も少なくない。天然分布の北限は、福島県の永戸山及び赤井岳で、東北地方ではここ以外に分布していない。南限は、鹿児島県屋久島の下屋久国有林である。
  • 名前の由来・・・昔、この木をすり合わせて火をおこしたことから、「火の木」に由来するとの説や、天照大神の建物を造る樹木として「太陽の木=日の木」とする説、古代語で「ヒ」という音は「良い」を意味することから、「良い木」の意味に由来するなどがある。古典では、しばしば「真木(まき)」と呼ばれていた。 
  • 高さ20~30m、大きいものは高さ50m、直径2.5mになる。 
  • 樹皮・・・赤褐色で、やや幅広く縦に裂けて剥がれる。 
  • ・・・鱗片状で交互に対生し、先は鈍い。裏面は、上下左右の葉に接するところに白い気孔線があり、Y字形に見える。 
  • ・・・4月に開く。雄花は、楕円球形で、枝先に大量につく。雌花は、球形。近年では、スギ花粉の後に飛散するヒノキ花粉によって、花粉症状をぶり返す人も多いという。
  • 球果・・・球形で、成熟すると赤褐色になる。球果が開くと、中から種子が放たれる。種子は卵形で両側に翼がある。 
  • ヒノキ林が優先することは稀・・・長野県木曽地方には、ヒノキの天然林があるが、これは江戸時代にヒノキ以外の広葉樹を人間が排除することによってできた森だと言われている。自然状態のヒノキは、落葉広葉樹林に点在したり、溶岩や亜高山の岩塊の上のような乾燥した痩せ地に見られ、純林をつくるほど優占することは稀である。
  • スギの生育適地にヒノキを植えると・・・土地が肥沃で水分が多いことから、生育が良過ぎて根元から約2mくらいまでが異常に太る徳利(とっくり)病が発現するという。
  • 人工林面積・・・ヒノキは、建築材などを育成する林業上からも重要な樹木。スギ448万haに次いで、ヒノキ260万ha(平成24年)で、わが国の森林面積の10%を占めている。 
  • 世界最高の建築材・・・色調が良く、光沢や芳香があって、加工しやすく、さらに千数百年経っても腐朽しない耐久性をもっている。これは、ヒノキ材に含まれる香りの成分が、木材腐朽菌の繁殖を抑制し、シロアリも比較的食害しにくくしているからである。ヒノキは、木材として耐久性や保存性が世界最高水準と言われている。 
  • 宮殿造営・・・日本書紀に「ヒノキは宮殿に使え」と記されているとおり、ヒノキ材は平城京跡から61%、御子ヶ谷遺跡から64%という高い頻度で使用されていた。ヒノキに次いで多用されていた樹種は、コウヤマキである。
  • 古代の大氾濫・・・古代のヤマト政権時代は、天皇が交代するたびに、政治の中心地が移動していた。その度に、宮殿材料であるヒノキやコウヤマキを伐採したことから、飛鳥の上流の南淵川や細川山などでは、伐採に次ぐ伐採ではげ山状態になった。「世の中は何が常なる飛鳥川 昨日の淵が今日の瀬となる」と、和歌に詠まれるほどの大氾濫を繰り返すようになっていたという。
  • 総檜造り・・・総檜造りと言えば、日本の家屋の理想とされてきた。世界最古の木造建築物である法隆寺はその代表である。宮大工の西岡常一氏が法隆寺を改修した時、千三百年以上の年月を経て表面が灰色をした寺の柱の表面を、2~3mm削ると、ヒノキの香りがしたという実話は有名である。
  • 伊勢神宮・式年遷宮・・・平成25年、伊勢神宮では、20年に一度の式年遷宮が行われた。「式年遷宮」は、一定期間ごとに新殿を建て、旧殿から御神体を移す行事である。その用材のほとんどはヒノキ材で、主に長野県木曽地域の国有林等から伐り出された。 
  • 檜皮葺(ひわだぶき)・・・ヒノキの樹皮は、「檜皮」と呼ばれ、屋根葺きの材料とされてきた。他の植物性の屋根葺き材料に比べ、最も耐用年数が長く、優美な材料である。国指定文化財建造物のうち、2割が檜皮葺である。檜皮の生産地は、丹波地方が最も多い。(写真:上賀茂神社)
 
  • 下鴨神社の檜皮葺き・・・下鴨神社は、本殿を始め55棟の建物は全て桧皮葺で、30センチに切りそろえた桧皮を竹釘で留めている。桧皮の奉納は一口千円。
  • 世界文化遺産貢献の森林・・・木造文化財等の修復に必要な檜皮やヒノキなどの資材の供給などを目的に、京都市内や宮島、奈良盆地周辺、紀伊山地の霊場と参詣道周辺の国有林4779haを設定している。(写真:熊野古道のヒノキ林)
  • 仏像彫刻・・・仏像の彫刻材は、飛鳥時代まではほとんどがクスノキであったが、奈良時代からヒノキが使われるようになり、平安時代にはヒノキが主流になった。彫刻材としての特徴は、「材質が均一で、春材と秋材の区別が少なく、刃当たりもなめらかで削りやすい。またねばり強くて、欠けることが少なく、狂いも小さく、仕上がりが美しいから、彫刻師がひとたびヒノキを使うと、もはや他の木を使うことができにくいであろう」(「日本人と木の文化」小原二郎)と、高く評価されている。 
  • 檜風呂・・・ヒノキの香りには、疲れがとれ気分がやすらぐ鎮静的な作用がある。ヒノキの葉のさわやかな匂いは、頭をすっきりさせる覚醒作用がある。 
  • ヒノキチオール・・・ヒノキ科の樹木から抽出される物質で、多くのカビや菌に対して強い抗菌、抗カビ作用がある。台湾ヒノキから初めて発見されたので、ヒノキチオールの名前になったが、主としてヒバ材の精油に含まれ、日本産のヒノキには含まれないとされていた。ところが最近の研究では、岐阜産ヒノキのヒノキチオールの含有量は、青森ヒバ材の10分の1程度含まれていることが分かっている。 
  • 檜図屏風(東京国立博物館蔵)・・・安土桃山時代の絵師・狩野永徳(1543-1590)が描いた「檜図屏風」。圧倒的な量感をもったヒノキの巨木が屏風の画面一杯に描かれている。 
  • はらはらと木の実ふるなり檜木笠 正岡子規
  • 春雨の檜にまじるあすなろう 飯田龍太
  • 七夕や檜山かぶさる名栗村 水原秋桜子
  • 雪晴や檜葉かさなりて濡れに濡れ 米谷静二
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社) 
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「資料 日本植物文化誌」(有岡利幸、八坂書房)