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樹木シリーズ108 ズミ(コリンゴ)

  • 白い花と赤い実をたくさんつけるズミ(酸実、バラ科)

     リンゴに似た花を咲かせるバラ科リンゴ属の落葉高木。初夏、木全体が白く見えるほどたくさんの花を咲かせる。秋には真っ赤な実をたくさんつける。山野の日当たりが良く栄養のある湿原、河畔、草原にしばしば群落をつくる。特に上高地や戦場ヶ原が有名。分布は、北海道から九州まで広く分布。明治初期からリンゴの接木の台木として利用された。 
  • 名前の由来・・・果実に酸味があることから、「酢実(すみ)」が転訛したとの説がある。また、樹皮から黄色の染材をとったことから、「染(そ)み」から転訛したとの説もある。赤または黄の小さなリンゴのような実をつけることから、別名コリンゴとも呼ばれている。他にコナシ、ミツバカイドウなど別名が多く、それだけ昔から親しまれている証。 
  • 花期・・・5~6月、高さ10m 
  • ・・・花弁は5個で、リンゴに似た白または淡い紅色の花が5~7個散形状に咲く。 
  • 雄しべは20個。花柱は3~4個で基部に白い毛がある。満開になると、木全体が真っ白になるくらい、びっしりと花を付け、辺りは花の甘い香りに包まれる。 
  • 花言葉・・・追憶 
  • ・・・花のつく枝の葉は、長楕円形または卵状長楕円形で、基部は円形またはクサビ形。縁には細い鋸歯があり、両面に軟毛がある。長枝の葉は、やや大きく、3~5中裂するものが多い。 
  • 樹皮・・・黒褐色で縦に割れ目が入り、短冊状に剥げる。 
  • 果実・・・長い柄をつけた実がたわわに実り、赤く熟す。黄色に熟すものはキミズミという。 
  • 生食・・・酸味と渋味が強いが、かすかにリンゴの味がする。香りは上品。霜にあたると渋が抜けて柔らかく熟れ、生食できる。 
  • 果実の利用・・・秋に赤く熟した果実を採取し、生食、ジャム、果実酒に。 
  • 果実を食べる野鳥・・・大きさはリンゴよりずっと小さいが、鳥には食べやすい大きさで、レンジャク類やアカハラ、カワラヒワなどが好んで食べる。上の写真は、鳥たちに食べられて残り少なくなった実。鳥たちは、赤い実を丸呑みして、糞と一緒に種子を散布してくれる。だから、ズミの実は、人ではなく、鳥に食べてもらいやすいように進化したと言われている。 
  • 湿原が草原化すると増える・・・奥日光の戦場ヶ原(上の写真)では、湿原が減少して草原化するにつれて、ズミの群落が大きくなっているという。その高さが5mほどに達すると、車道や木道から湿原の景観が遮られてしまった。栃木県では、過去に200本程度のズミの伐採を行った。 
  • リンゴの台木・・・明治初期、リンゴが日本に導入されたとき、リンゴと近縁な種であるズミをリンゴの台木として使った。接ぎ木をすれば、実生から育てるよりも実がなるのが早いからである。 
  • ズミの台木が消えた理由・・・ズミの台木は、挿し木による繁殖が難しいのに加え、「そひ病」という病気に弱い。1970年代以降、中国原産のマルバカイドウがよく使われるようになった。現在は、背丈が低い矮化栽培(上の写真)が主流になっているので、成長が良くて高くなり過ぎるズミは忘れられた存在になっているという。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「きのこ・木の実・山菜カラー百科」(主婦の友社)
  • 「樹木19種の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)