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樹木シリーズ110 ナンテン

  • 真赤な実をつけ、「難を転じる」縁起の良い木・ナンテン(南天、メギ科)

     古くから「難を転じる」縁起の良い木として親しまれ、庭木や盆栽として利用されているほか、寺院などにもよく植えられている。晩秋から初冬にかけて赤く色付く実が美しい。この果実は、咳止めの薬や雪兎の目、縁起植物として正月の床の間に飾られたりする。暖地の山地に野生もあるが、元々は中国原産で、薬用植物として渡来したとの説もある。
  • 名前の由来・・・ナンテンの名は、漢名の「南天竺」に由来し、その略で「南天」と書く。天竺とは、インドのこと。本来、中国の山東省から貴州省にも分布しているが、南のインドから来たものとしてつけられた。他に「南天燭」説は、秋に赤く熟す実を灯火見立てたもの。「南天竹」説は、幹の黒い節を竹に見立てたものである。 
  • 花期・・・5~6月、高さ2m 
  • ・・・茎の先に大形の円錐花序をだし、白い花を多数つける。花弁は6個。雄しべは6個で葯は黄色。雌しべは1個。 
  • ・・・3回3出複葉で、茎の上部に集まって互生する。小葉は、細長い菱形。革質で表面は光沢があり、先は鋭く尖る。 
  • 果実・・・球形で、11~12月に赤く熟すと、観賞用としても美しく、さらに縁起の良い木として、庭木や盆栽として人気が高い。 
  • 樹皮、樹形・・・樹皮は褐色で、縦の溝があり、上部に枯れた葉の基部が残る。樹形は、株元からたくさんの細い幹をまっすぐに伸ばして株立ち状になる。生長は遅く、5cmを超える太さになるには、かなりの年数を要することから希少価値があり、床柱として賞用されてきた。 
  • 縁起木・・・「難を転じて福となす」、あるいは火災避け、悪魔除けの効果もある縁起木として、門口や戸口、鬼門に植えたほか、不浄を清めるとしてお手洗いの側に植えた。また、縁起物として門松や南天の床柱、南天箸などに使われている。 
  • 戦勝祈願と南天床柱・・・昔、武士が出陣する時、ナンテンの葉を鎧櫃の中に納め、枝を床に飾って戦勝を祈願したという。このような風習があったことから、昔の豪邸や京都金閣寺の茶室などの床柱にナンテンが使われている。また映画「男はつらいよ」でお馴染みの東京葛飾柴又帝釈天(上写真)の南天の床柱は、幹が太く見事である。 
  • 南天箸・・・食あたりなどの諸毒を消し、長寿を祈願するとして好まれるが、市販されているものは、イイギリ材がほとんど。その理由は、イイギリは赤い実が垂れ下がり、ナンテンに似ることから「ナンテンギリ」と呼ばれ、代用にされているからである。 
  • 防腐効果・・・赤飯を炊いて重箱に入れてナンテンの葉を載せ蓋をすれば、葉に含まれるナンジニンは、赤飯の湯気で加水分解され、チアン水素を発生させる。それが防腐効果を発揮し、長期保存用に使われた。他に、食べ物の下に敷いたり、米びつなどに入れたりした。
  • 薬用・・・果実を乾燥したものを「南天実(なんてんじつ)」と呼び、咳止めなどの薬用に用いられる。ただし、ナンテンの実や葉にはアルカロイドの成分が含まれているので、多量に摂取すると知覚麻痺などを起こすので注意。 
  • ナンテンの実と野鳥・・・冬、良く目立つ赤い実に、ヒヨドリやジョウビタキ、ツグミなどが何度もやってくる。
  • 異なる迷信・・・紀伊、伊勢、鳥羽ではナンテンが家の軒より高くなると家運が衰えると言われるが、羽前では逆に長者になると言われている。近江では、ナンテンが算盤珠の音を嫌うので、商家に植えても育たないと言われる。 
  • 南天をいつまでも挿し怪しまず 山口誓子
  • 南天の実に惨たりし日を思ふ 沢木欣一
  • 存命の父母を軽んず実南天 正木ゆう子
  • 南天の花の向こうの庭木かな 草間時彦
  • 南天の花ほろほろとそぞろ雨 福田葉子 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「季語 早引き辞典 植物編」(監修 宗田安正、学研)
  • 「樹木と木材の図鑑 日本の有用種101」(創元社)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)