本文へスキップ

樹木シリーズ113 ハリギリ(センノキ)

  • 有用な材がとれる大木・ハリギリ(針桐、ウコギ科)

     北海道から沖縄まで日本全土にわたって広く分布する。肥沃地を好み、土地の肥沃度を判定する指標樹とも言われている。成長が速く、大きくなると、堂々たる風格があり、樹皮も縦に深く裂ける。キリに似ていて、若い幹や枝にトゲがあるのが名前の由来。ウコギ科の中では、例外的に良質で有用な材がとれ、林業家の間では、もっぱらセンとかセンノキと呼ばれている。若葉は、山菜として珍重される。 
  • 名前の由来・・・枝に針のような刺があり、キリのように成長が早く、材や大きな葉が似ていることから、「針桐」と書く。林業関係者や木材を扱う業者の間では、センとかセンノキの別名で呼ばれているが、その名の由来は不明。
  • 花期・・・7~8月、高さ20~25m 
  • 樹皮・・・黒褐色~暗灰色で、若いうちは平滑で幹にもトゲがあるが、徐々にトゲは消え、縦に深く裂ける。太い幹には、トゲが消えた跡がイボのように残る。
  • 枝には太く鋭い刺がたくさんつく。
  • ・・・大きいものは30cmくらいになり、掌状に5~9裂し、枝先に集まってつく。ただし葉の形は変異が多い。縁には鋭い細鋸歯がある。葉の形から、天狗の羽団扇(ハウチワ)とも呼ばれている。
  • 若葉・・・同じウコギ科のタラノキ同様食用になる。タラノキに比べるとアクが強く、味が劣ることから、アクダラ、イヌダラと呼ぶ地方もある。 
  • 山菜・・・高木ではなく、幼木の葉先を利用する。葉が展開する前の若芽を折り取って利用する。天ぷら、おひたし。 
  • ・・・枝先に球形の散形花序を総状に多数つけ、淡黄色で直径5mmほどの小さな花を多数開く。一見、線香花火のようにも見える。花弁と雄しべは4個、花柱は2裂する。 
  • 果実・・・球形で径4~5 ㎜、球状に多数集まってつく。はじめは黄緑色だが、10月頃、黒く熟す。 
  • 果実と野鳥・・・果実は、晩秋から初冬に熟し、冬を越す。他の果実が食べ尽くされたころ、ヒヨドリ、メジロ、シロハラ、ツグミなどがよく食べる。基本的に野鳥に食べてもらい、糞とともに種子散布してもらうのがハリギリの戦略。 
  • 広い分布拡大の理由・・・寒さ暑さに強いだけでなく移動能力が高い。鳥に散布された種子は、翌年発芽するが、果肉が除去されない種子は、翌々年以降にならないと発芽しない。従って、母樹の下に落ちた種子は長い休眠に入り、母樹が倒れるのを待つ。一方、鳥が散布した種子は、ギャップを利用して着実に広がっていった結果、北海道から沖縄まで日本全土に分布。
  • 黄葉・・・秋、黄色に黄葉する。葉の形がまるで別種と思うほど変異があるので、葉柄や枝にある鋭いトゲで判別するのがコツ。
  • 寒さに強い・・・ハリギリの冬芽は、マイナス70℃まで耐えられる。日本の広葉樹では、最も寒さに強い樹木の一つ。だから北海道は、競争相手が少ないハリギリの楽園と言われている。同程度の耐寒性を有する広葉樹には、ダケカンバやナナカマド、ハルニレなどがある。ちなみにケヤキやブナが耐えられる限度は、マイナス30℃程度。
  • アイヌとハリギリ・・・北海道は良質なハリギリ大径木の産地として知られていた。アイヌの人々は、トゲのあるハリギリを病魔が村に入ってこないように村の分かれ道や家の入り口、窓にイヌエンジュなどの悪臭をもつ木と一緒に立てて魔除けにした。大木は、お盆や木鉢、臼、杵、丸木舟などに多用した。 
  • 松前誌・・・「木色白くて木理欅(キリケヤキ)に異ならず」「漆以てこれをふけば欅にまがう処なし」と記されている。近代には、北海道産ハリギリはミズナラとともにヨーロッパへ盛んに輸出されていたという。特に合板の原木として評価が高く、現地では「セン合板」と称され珍重された。 
  • 木材・・・キリより重いが、丈夫で加工しやすい。ニセケヤキのの異名があるとおり、木目はケヤキに似る。しかし、ケヤキの材面が橙色を帯びるのに対し、白みが強い。光沢があり、建築内装材や家具材、合板の突板、楽器、彫刻などに用いる。かつては下駄材としてキリに次いで喜ばれた。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「別冊趣味の山野草 日本の山菜100」(加藤真也、栃の葉書房)
  • 「日本有用樹木誌」(伊東隆夫ほか、海青社) 
  •   「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)