本文へスキップ

樹木シリーズ115 シラカンバ(シラカバ)

  • 攪乱地にいち早く芽生えるシラカンバ(白樺、カバノキ科)

     冷涼な山地に生え、北海道などの寒冷地では平地にも生える。真っ白な幹と新緑、黄葉とのコントラストが美しく、ヒメシャラ、アオギリと並んで三大美幹林。ダケカンバと同じく、樹皮が剥がれやすく、昔は焚き付けや松明などにも使われた。ほのかな甘味のある樹液は飲料にもされる。また、樹液には多くのミネラルが含まれているので、利尿、便通、痛風などの効能があるとされている。アイヌの人々は、山奥へ狩猟に行ったとき、シラカンバの樹皮で鍋をつくり汁物料理に使った。その他樹皮を使っておわんや桶、柄杓、小物入れなどの容器をつくった。分布は北海道から本州・中部地方以北。
  • 見分け方・・・ダケカンバと混生していると、一見判別が難しい。シラカンバの樹皮はほぼ真っ白だが、所々に「へ」の字形をした黒っぽい枝痕がついているが、ダケカンバの樹皮には「へ」の字模様はないので区別できる。葉は、ダケカンバの方が少し細長く、基部が湾曲していることが多い。 
  • 名前の由来・・・樹皮が雪のように白いカンバであることから、標準和名は「シラカンバ」。カンバは、カバノキ類の古名カニハの転じたもの。カバは、カンバの略称。他にシラカバ、ガンピ、シロザクラなどとも呼ばれる。 
  • 高原の白い貴公子・・・高原を象徴する明るく爽やかな印象を与えることから、高原の白い貴公子と呼ばれている。 
  • 花期・・・4月、高さ20m
  • ・・・葉が開くのとほぼ同時に、雄花序は尾状に垂れ下がる。小さな緑色の雌花序は短枝に4cmほどの花穂をつける。雄花序より短くて細い。 
  • 新緑
  • 果穂・・・雌花序が成熟すると果穂となって垂れ下がる。果穂には、種子を挟み込んだ果鱗がぎっしりすき間なく円柱形を構成し、熟すと果軸を残して翼果と果鱗がバラバラに崩れて、ヒラヒラと風に乗って広範囲に飛ぶ。 
  • 樹皮・・・幹は白く、薄い紙状に剥がれる。幹には「へ」の字の形の落枝痕が目立つ。
  • 樹皮の抗菌効果・・・樹皮にはベチュリンと呼ばれる抗菌作用のある物質が含まれていることから、倒れて腐っても樹皮だけは残るという。この物質は、抗菌効果やシロアリを殺す効果、ヘルペスウイルスの増殖抑制効果、発がんを促す物質の抑制効果などがある。
  • ・・・基部はまっすぐで、おむすびのような三角形。鋸歯は所々飛び出すことがある。側脈はダケカンバより少なく5~8対。
  • 黄葉・・・秋、黄色に黄葉する。
  • 代表的な先駆種・・・翼のついた軽く小さな種子を大量に作り、風に乗せて散布する。風に乗って散布された種子は、山火事跡などの攪乱地に定着して大きくなる。明るい土地では、強い光を利用できるので、急成長することができる。 
  • 山火事に適応・・・種子は休眠性をもっている。山火事になると、地中は70℃~80℃程度まで温度が上昇する。その高温を合図に、一斉に目を覚まし発芽する能力を持っている。だから、山火事の跡地に一斉に育って、しばしば純林をつくることができる。 
  • 寿命が短い・・・種子は若い10年程度からつけ始め、生長が速い代わりに寿命は70年程度と短い。萌芽力も弱く、短いサイクルで世代交代を行う。先駆種であるシラカンバの森は、何百年も続くことはなく、やがてミズナラやブナなどの森に変わってゆく。 
  • シラカンバの樹液・・・春先の水の吸い上げはめざましい。小枝を切ったり、幹に傷をつけると樹液が滴り落ちる。北海道美深町では、シラカンバの樹液を100%ボトルに詰め「森の雫」として販売している。また、この樹液からシロップをとり、それを煮詰めて白樺糖や酒がつくられる。シロップはロシア名物の一つ。(注:写真はイメージ)
  • ・・・黄白色から淡黄褐色の淡い色をしている。材質は軽く、やわらかく、腐朽しやすい。立木、丸太とも菌の害を受けやすく、変色をしていることがしばしば。用材として使われるケースは少ない。木材としての価値より、高原の風物詩としての観賞価値の方が高い。
  • 用途・・・樹皮はよく燃えるので松明に。材は腐りやすいが、白い樹皮をそのまま使って山小屋の内外装やベランダの手すり、デッキ、棚などに使われる。また、美しい樹皮をいかして、創作こけしや民芸品に好んで使われる。 
  • 白樺の樹皮で作った鍋「yarsu」(アイヌ文化)・・・春先の堅雪のころのクマや初雪が降ってから特に12 月~ 1 月のシカ、ウサギ、エゾリスの狩りのとき、夫婦で山へ入り仮小屋を建てる。そばにある白樺の皮をはいで火であぶりながら鍋を作った。白樺は弾力があって折り曲げるのに都合がいい。たき火の上に木鈎を下げ白樺樹皮の鍋( yarsu) を吊るし、おき火で煮炊きする。鍋の中へギョウジャニンニクや菱の実、ウサギの肉などを入れ塩味の汁にして食べた。白樺樹皮の鍋は火にかけると初めのうちは焦げてすすがつくが、何回も使っているうちに鍋底がタール状になって丈夫になるから 10 回~ 20 回ぐらいは使えた。つぶれたり使えなくなったりしたものは燃やす。使えるだけ使う。長持ちする点からいうとウダイカンバは木の皮が厚く丈夫なので鍋に使いたいが、よほど山奥へ入らなければ手に入らない。それに比べて白樺はそのへんにいくらでもあるし、その場所ですぐ鍋を作ったり、柄杓にすることができた。(引用文献:「上川アイヌの研究――伝承者と生徒たちの交流記録――」杉村満)
  • 「白樺日記」(作詞 阿久悠、唄 森昌子)・・・白樺林の細い道/名前を刻んだ木をさがす/心でどんなに叫んでも/今ではとどかぬ遠いひと/忘れられないお兄さん/想い出ばかりのお兄さん 
  • 北国の春(作詞:いではく)・・・白樺 青空 南風/こぶし咲くあの丘/北国のああ北国の春/季節が都会ではわからないだろうと/届いたおふくろの小さな包み/あの故郷へ帰ろかな帰ろかな
  • 耳聡き犬に白樺の花散るも 堀口星眠
  • 白樺の花のこぼるる丸木橋 福田甲子雄
  • 樺の花アイヌは和人より清し 飯田龍太
  • 朝の日は真水のひかり樺の花 鷺谷七菜子
  • 白樺の花岳人に独語なし 小川軽舟
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「葉・実・樹皮で確実にわかる樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「葉でわかる樹木 625種の検索」(馬場多久男、信濃毎日新聞社)  
  • 「上川アイヌの研究――伝承者と生徒たちの交流記録――」杉村満)