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樹木シリーズ⑫ ウワミズザクラ 

  • 異色のサクラの仲間・ウワミズザクラ(上溝桜、バラ科)

     花だけ見ると、とてもサクラの仲間とは思えない。コップを洗う細長いブラシのような白花を咲かせる。ソメイヨシノもヤマザクラも花を落とした頃に開花する異色のサクラである。果実は、食用になる。また、鳥類やツキノワグマも大好物で、その実を食べて移動した後、糞とともに種を散布し、分布を拡大してきたことから、山野の至る所に自生している。 
  • 名前の由来・・・古代、シカの肩甲骨の裏に溝を彫り、この樹皮で焼き、溝の周辺に生じる割れ目を見て吉凶を占ったという。この裏溝が転じて「上溝桜(ウワミゾザクラ)」と書き、それが転訛してウワミズザクラと呼ぶようになった。古名は、古事記の「天の岩戸」に出てくる波波迦(ははか)という。 
  • 花期・・・5~6月、高さ15~20m 
  • ウワミズザクラの花穂・・・葉が出た後に細長い穂状の白い花を一斉に咲かせるので、よく目立つ。 
  • 花のアップ・・・1個の花は5弁で雄しべが長く伸び、多数、密につく。花をアップで撮ると、穂状に咲くコバイケイソウと同じく、その美しさと花の数に驚かされる。 
  • 花のツボミは食用・・・新潟では、このツボミや未成熟果を塩漬けにしたものを、杏仁子(あんにんご)と呼び、食用にする。アンニンゴとは、アンズの種子からつくる生薬のことで、香りが似ていることからアンニンゴと呼ばれるようになったという。 
  • 緑色の未成熟果を塩漬けにして食用に。葉柄は赤みを帯びる。新潟県越後川口では、特産「あんにんごの塩漬け」が売られているらしい。
  • ・・・互生し、卵形で葉先が長く伸びる。基部は丸く、葉柄は短い。葉脈のくぼみが大きく、裏面に大きく浮き出る。
  • 解説①「葉柄(ようへい)」・・・葉と茎をつなぐ柄の部分。
  • 解説②「葉脈(ようみゃく)」・・・葉の中に伸びる筋。中心の葉脈を主脈、そこから左右に伸びる葉脈を側脈という。
  • 果実・・・夏に赤くなった後、黒く熟す。長さは6~7mm。黒く熟した実は、結構美味しい。果実酒は、梅酒のように健康ドリンクとして昔から利用されている。 
  • ウワミズザクラの実を食べるヒヨドリ・・・ウワミズザクラの実は、鳥だけでなく、ツキノワグマにとっても夏のご馳走で、よく木の上にクマ棚をつくる。
  • 実を食べる野鳥・・・ヒヨドリ、ムクドリ、オナガ、キジバト、アカゲラ、アオバトなど。
  • 鳥類に食べられた跡・種子散布・・・鳥たちは腹の中に未消化の果実を詰め込んだまま、どこかへ飛んでいく。そして他の木に止まって糞をし、種子を散布してくれる。
  • ジャンゼン-コンネル仮説・・・種子が鳥に散布してもらわなければ生き残れない理由は、「親木から散布された種子は親木の近くでは数は多いものの、そのほとんどが昆虫や病原菌などの天敵によって死亡してしまう。しかし遠くに散布された種子や実生は生き残る。・・・親木の下では自分の子供の代わりに他種が生き残り、種の多様性が作られる」
  • 種の多様性・・・仮に近くに散布された種子も、遠くに散布された種子も同じ確率で生き残るとすれば、特定の種が寡占するようになる。しかし、「親から離れた子どもだけが大きくなる」という現実は、一種だけで空間を独占しないで他の樹種と共存できるようになり、種の多様性が創られていく。
  • 樹皮・・・若木の樹皮は紫褐色で、横にサクラ特有の皮目がある。老木になると、茶褐色を帯び、縦にひび割れたり網目状に裂ける。樹皮は桜皮細工や染料に利用される。
  • 材の利用・・・材は堅く緻密なことから、漆器の木地、印材、版木、建築材、傘の柄、ナタの柄、薪炭など。
  • クマリンの香り・・・桜餅特有の香りは、「クマリン」という香成分の一種。ウワミズザクラの樹皮を傷つけると、そのクマリンの香りがする。「あんにんごの塩漬け」は、クマリンの香りがプンプンするらしい。そういわれると、塩漬けにした桜餅の葉も香りが際立っている。
  • 省エネ耐陰生活・・・親木から離れた稚樹は、順調に育つが、森の中では2~3m以上には育たない。もっと大きくなるには、林床が暗すぎる。ギャップができるまで、どうやって耐えるのだろうか。上から降り注ぐ光をなるべく多く受け取るために、幹を少し斜めに傾げて、お互いの葉が重ならないようにしている。さらに、古くなった幹は枯らして、呼吸による炭素消費量が増えるのを防ぎながら、暗い林床でも生き延びているのである。
  • ギャップができ明るくなると・・・上の方にグングン伸びていく。今度はシュート(枝)を落とさず、毎年新しいシュートを古いシュートの上へ積み重ねながらどんどん上に伸びて、ついには樹冠層に到達して花を咲かせる。樹冠層で花を咲かせている樹齢は、75年~90年余りで、細い割には老齢だという。
参 考 文 献 
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社) 
「樹は語る」(清和研二、築地書館)
「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)