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樹木シリーズ124 ザクロ

  • 花も実も楽しめ薬用にもなるザクロ(石榴、ザクロ科)

     西南アジア原産のザクロは、シルクロードを経て中国から平安時代に薬用として渡来したと言われている。原産地や欧米では果樹として栽培が盛ん。鮮やかな朱赤色の花を咲かせ、観賞用に八重咲や白花品種もある。市販されているザクロは、アメリカ産、イラン産がほとんど。栄養価が高く、疲労回復効果、生活習慣病の予防、骨を丈夫にする効果があるとされている。また果皮は咳、下痢、果実はのどの痛み、下痢に効果があるとされている。 日本では、主に観賞用として庭木、盆栽として利用されるほか、鏡を磨くのに利用された。真っ赤に熟れた果実は、鳥や虫たちの好物。種が多いことから、ギリシャ・ローマ時代には「豊穣のシンボル」と呼ばれた。
  • 名前の由来・・・中国の古書によると、安石国(イラン)から種子を持ち帰ったとある。安石国から薬用目的で伝来した果実が、瘤(こぶ)のように見えたことから、「安石榴」と名付けられ、その安字が略され「石榴」と書く。
  • 和名「ザクロ」は、「石榴」の音読みシャクリュウから転訛して、ジャクリュウ→ジャクロ→ザクロに変わったとの説がある。他に中国人が、ペルシャ湾の東・ザクロス山脈から持ち帰ったことによるとの説などがある。
  • 江戸時代の銭湯「ざくろ口」・・・江戸時代の銭湯は、湯がさめるのを防ぐために、洗い場と浴槽が「ざくろ口」と呼ばれる小さな入口で仕切られていた。上の絵には、手前に脱衣場、洗い場、その奥中央に「ざくろ口」が描かれ、狭いざくろ口の奥に入ると浴室がある。「ざくろ口」は、高さが90cmほどしかなく、かがんで潜らなければならなかった。その「ざくろ口」の名の由来は、当時、ザクロの果汁からとった酢で鏡をみがいていたので、「鏡に要る」と「かがみ入る」をかけたシャレから生まれたという。(出典:「職人尽絵詞」国立国会図書館デジタルコレクション)
  • 余談・・・江戸時代の銭湯は、当初、男女混浴が当たり前であったが、風紀を乱すという理由で、江戸後期には男湯と女湯が分離されている。料金は、8~10文(約200~250円)と手頃だったことから、庶民でも気軽に銭湯に通った。
  • 花期・・・6月、高さ5~6m
  • ・・・長楕円形で強い光沢があり全縁。 
  • 樹皮・・・淡い灰褐色で、不規則に剥がれる。幹にはコブのような突起ができる。 
  • ・・・朱赤色の花を開く。花弁は6個で、薄くしわがある。
  • 紅一点・・・たくさんの男性の中に女性がたった一人いることを「紅一点(こういってん)」と言う。その語源は、中国の詩人・王安石の詩「石榴詩」にある。一面の緑の草原の中に一輪だけ咲いている赤いザクロの花を詩いあげたものである。
  • 鳥媒花・・・赤い色と丈夫なガクは、本来、鳥に花粉を運んでもらう鳥媒花であることを示しているという。
  • 果実・・・球形で先端にガク片が残る。 
  • 果皮は厚く、熟すと不規則に裂け、赤い宝石のような種子が現れる。その姿は、「ザクロのように頭がかち割れ・・・」などと表現されることがある。
  • 可食部・・・種子の外皮部分。透明で甘酸っぱい 
  • 栄養価が高い・・・ビタミンB1、ビタミンC、ナイアシン、カリウム、エラグ酸、クエン酸など各種成分が幅広く含まれている。疲労回復効果、生活習慣病の予防、骨を丈夫にする効果があるとされている。 
  • 薬効・・・生薬は、果実の皮を石榴皮(せきりゅうひ)、根の皮を石榴根皮(せきりゅうこんぴ)と呼び、かつては条虫駆除薬として用いた。民間薬として、果皮は咳、下痢、果実はのどの痛み、下痢に効果があるとされている。
  • ザクロブーム・・・2000年頃、マスコミ報道で、「ザクロに含まれるエストロゲン(女性ホルモン)には、更年期障害の予防・改善効果があり、男性の抜け毛予防にも役立つ!」との報道で空前のザクロブームが起こった。その後、国民生活センターが「こうした食品からはエストロゲンが一切検出されなかった」とする調査結果が出るなど、エストロゲン(女性ホルモン)効果に疑問符が付き、いつの間にかブームは沈静化した。 
  • 果実の利用・・・ジュース、シロップ。シリアとレバノンでは、ザクロの果汁を濃縮して料理の味付けやサラダドレッシングに。
  • 日本のザクロ・・・日本で育てられた品種は実が非常に酸っぱく、食べるというより観賞用として庭木、盆栽として利用されている。 
  • 輸入品がほとんど・・・ザクロは日本での栽培は非常に少ない。市場に流通しているものは、アメリカ・カリフォルニア産、イラン産を中心とした輸入品。 
  • 鬼子母神伝説・・・鬼子母神は、500人もの子供を持つ美しい神様だったが、自分の子供達を育てるため、人間の子供をさらっては食べていた。これを知ったお釈迦様は、鬼子母神の末っ子を神通力によって隠してしまう。鬼子母神は嘆き悲しみ、必死に我が子を探すが見つからず、困り果ててお釈迦様に助けを求めた。お釈迦様は「お前は500人も子供がいるのに、たった1人がいなくなっただけでこんなにも嘆き悲しんでいる。たった数人しかいない子供をお前に奪われた人間の親の気持ちが、これでお前にも分かっただろう」と言って鬼子母神に子供を返した。そして、「今後、どうしても人の子が食べたくなったら代わりにこれを食べよ」と与えられたのがザクロだったという伝説。だから鬼子母神は、左手に子供、右手にザクロを持っている。
  • 豊穣のシンボル、子孫繁栄「吉祥果」・・・ザクロの種が多いことから、ギリシャ・ローマ時代には「豊穣のシンボル」と呼ばれた。また、子孫繁栄をあらわす縁起の良い果実とされ、仏教では「吉祥果」と呼ばれている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)