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樹木シリーズ139 ハンノキ

  • 湿地を好むハンノキ(榛の木、カバノキ科)

     「水辺の旅人」と形容されるほど湿地を好む樹木。湿地は、樹木の生育に適さないが、その分競争相手が育ちにくいので、ハンノキにとっては住みやすい場所である。肌寒い季節に枝一杯に穂を垂らすのが特徴。また、松かさ状の果実は、ほぼ一年中見られ、冬鳥のマヒワやカワラヒワ、コガラなどが好んで食べる。材は良質な木炭の材料として、タンニンを含む果実は染料として利用される。同じ仲間として山地に生えるヤマハンノキ、若枝や花序に毛が多いケヤマハンノキ、亜高山帯から高山帯に生えるミヤマハンノキなどがある。 
  • 見分け方・・・葉で見分ける。ハンノキの葉(上の上段写真)は細い卵形で鋸歯は小さく目立たないが、ヤマハンノキ(上の下段左)とケヤマハンノキは広い卵形で縁は不揃いの深い鋸歯があり、ミヤマハンノキ(上の下段右)は卵形で葉先は尖り細かい重鋸歯があるので区別できる。 
  • 名前の由来・・・ハンノキは、地下水位の高いところに生えるために、水田を開墾する際の適地の目印とされた。また、ハンノキを利用して土地改良を行ったり、水田の周囲にこの木を植え稲の肥料にも利用した。そこから「開墾」の一字「墾」をとり「墾の木(ハリノキ)」から転訛したとの説がある。 
  • 花期・・・2~3月、高さ約20m 
  • 樹皮・・・紫褐色で不規則に浅く裂けて剥がれる。 
  • ・・・細い卵形で、葉先は細長く、鋸歯は小さく目立たない。基部はクサビ形で葉柄は長め。 
  • ・・・雄花は細長い穂状で枝先に垂れ下がって咲き、花粉を飛ばす。雌花は雄花の下部につく。雌花は、長さ5mm程度の楕円球形で上向きにつく。 
  • 球果・・・1.5~2cm程度で、緑色から熟すと暗い茶色になる。球果は冬になっても枝についてなかなか落ちない。 
  • 風や水流に乗せて大量散布・・・種子は翼をもったごく小さなもので、風で母樹の周辺に大量に散布される。また、湿地に流れや洪水流などによっても散布される。 
  • ハンノキと野鳥・・・球果は10月頃に熟すが、種子のある部分は小さいのでクチバシの先が細く尖ったマヒワやヒガラ、カワラヒワなどが好んで採食する。種子が地上に落下するようになると、カシラダカなどのホオジロ類もよく食べるようになる。 
  • 湿地に耐えられる秘密・・・根が冠水する湿地は、土壌中の酸素が欠乏すると、普通の樹木は枯死してしまう。ハンノキは、一年中水に浸かっていても、ある程度水が流れ、酸素が供給されれば生育できる。その理由は、幹に散在する小さな通気口「皮目(ひもく)」から酸素を吸い込み、根に送り込む能力が高いほか、根に空気を取り込む器官「肥大皮目や不定根」を発達させて、酸素を吸収する能力を高めている。 
  • 肥大皮目・・・ハンノキなど湿地に耐えられる木は、根際の幹や根からたくさん出している突起。この肥大皮目は、酸素を取り込む通気口の役割があり、酸欠に苦しむ根に、酸素を効果的に供給している。 
  • 不定根・・・ハンノキが水に浸かると出てくる細い特殊な根。不定根は、多くの孔が開いていて、この孔から根が呼吸するための酸素が取り込まれている。 
  • 萌芽再生・・・ハンノキは、根に放線菌を寄生させることによって窒素を確保し、痩せ地でも生育できる。さらに土壌養分が非常に少ない、あるいは酸素が非常に少ない場所では、例え主幹が枯れても、根際から萌芽枝を出し、それが伸びることによってて再生できる。 
  • 葉は使い捨て・・・春に出た葉の4割ほどは夏までに落葉させ、夏には新たな葉を出しながら生長していく。このように葉を使い捨てする性質があることから、耐陰性が弱く、初期成長もあまり速くない。
  • 加湿な環境に純林をつくる・・・ハンノキ以外に湿性に生える木は、ヤチダモ、ハルニレ、エノキ、ムクノキがある。これらの樹木は、ハンノキほど加湿な環境に強くない。ハンノキは競争力は弱いが、湿地の中では、最も加湿な環境に耐えられることから、純林を独占的に作ることができる。
  • 弥生時代以降ハンノキは減少・・・縄文中期から晩期にかけて、ハンノキは増大した湿地に広がり優占した。ところが、弥生人は、ハンノキを伐採し、湿地を水田に変えていった。さらに人口増加に伴い、新たな水田開発、河川改修によって湿地もハンノキ林も希少な存在となってしまった。ところが近年、耕作放棄地の増大とともにハンノキ林が増えているらしい。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「続・読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)