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樹木シリーズ140 サイカチ

  • 鋭いトゲと秋にねじれた大きなサヤをつけるサイカチ(皁莢、マメ科)

     山野の沢沿いや川辺などに稀に生える落葉高木。木全体にあるトゲは、枝が変形したもので、何回も枝分かれを繰り返す。果実は大きいもので30cmにもなり、ねじれくねったサヤが多数ぶら下がる。昔は、この実を薬用、サヤを石鹸の代用にした。若葉は食用。秋田藩では、一里塚の標識木としてサイカチを植えていた。 
  • 名前の由来・・・漢方で種子を「皂角子 (ソウカクシ) 」といい、そこから生まれた「西海子(サイカイシ)」という名前が転訛して、「サイカチ」になったと言われている。  
  • 花期・・・6月、高さ20m
  • 樹皮・・・トゲは枝が変形もので、何度も枝分かれする。独特の形をしたトゲは、忍者が使う武器「マキビシ」を大きくしたような形をしている。
  • 鋭いトゲがあるのはなぜ・・・幹に生えた鋭く堅いトゲは、草食動物から身を守るためだと言われている。不用意に近づくとケガをしかねないだけに、街路樹には適さない。
  • 老木になると・・・トゲがなくなる。ただし細い枝には鋭いトゲがある。
  • ・・・先端の小葉がない偶数羽状複葉で、楕円形の小葉が4~12対つく。鋸歯は小さく全縁に見える。
  • 若葉は食用・・・サンショウに似ており、食用になる。
  • ・・・若葉の間から総状花序を出し、淡い黄緑色の小さな花をつける。
  • 雄しべ、雌しべ・・・花弁は4個。同じ株に雄しべは8個、雌しべは1個つく。 
  • 豆果・・・大きなサヤは、長さ約30cmで、ねじれる。中には直径1cmほどの豆状の種子が10~25個ほど入っている。水辺に生えるのは、種子が水に流されたからとか、かつてその実を使って洗濯に使ったので、人が水辺に植えたからとも言われている。 
  • 石鹸の代用・・・昔は、顔をそる時、この実のサヤをゴシゴシもんで泡を出し、そったほど石鹸の代用にしていた。脂類のついた食器や洗濯などにも使われた。
  • 絶滅したナウマンゾウ散布説・・・アフリカでは、同じマメ科の植物をゾウが種子散布をしており、さらにサヤの形状も幹のトゲもよく似ていることから、約2万年前に絶滅したナウマンゾウが種子を散布していたとの説がある。 
  • サイカチマメゾウムシ・・・サイカチは、水辺に生えているので、鞘ごと落ちた種子は水に流されて分布を拡大する。その種子だけを食べる昆虫が、サイカチマメゾウムシである。若いサイカチの鞘に卵を産み、幼虫は種子の中に潜り込んで子葉を食べる。 
  • サイカチの発芽を促進・・・サイカチの種子は、堅い種皮をもち、通常は吸水しない。マメゾウムシが子葉を食べるために種皮に穴を開けると、そこから吸水して発芽できるようになる。つまり、サイカチマメゾウムシは、サイカチの発芽を促進していると考えられている。
  • 一里塚とサイカチ・・・秋田藩では、1604年3月~5月、一里塚を築いている。その構造は、土を数尺盛り上げ、その上にサイカチ、ケヤキなどを植えて標識とした。仙北市神岡町の三本杉一里塚は、昭和34年1月に県文化財史跡として指定されたサイカチの古木。「奥羽街道控」によると、国境杉峠から久保田町までの一里塚に利用された樹種は、サイカチ25ヵ所、ケヤキ5、エノキ2、サクラ2、イタヤ2、その他ナシ、ウルシ、ヤナギ、ミズキが各1ヵ所。 
  • 俗信・・・春、サイカチの実をたけば狂人が出るとか、門前にサイカチの木があると病人が絶えるなどと言われた。
  • 菅江真澄絵図「舟繋ぎのサイカチ」・・・舟繋ぎのサイカチは、横手市増田町縫殿にある樹齢620年、高さ12mもの大樹である。幹を道路上に斜めに伸ばし、いかにも舟を繋ぎやすい姿で現存している。むかし、成瀬川の川べりにあって往来する舟を繋いだ木であり、真澄は『雪の出羽路平鹿郡』の中に大樅、大榧とともに増田の三大古木大樹の一つだと記録している。 
  • サイカチの群生林(潟上市指定天然記念物)・・・潟上市天王の東湖八坂神社の境内には、推定樹齢100~150年のサイカチが20本ほど群生している。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「秋田農村歳時記」(滑博、秋田文化出版社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「森の花を楽しむ101のヒント」(日本森林技術協会編、東京書籍)
  • 「菅江真澄研究第56号 菅江真澄が見た樹木」(菅江真澄研究会)