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樹木シリーズ142 ケンポナシ

  • 山の奇妙なフルーツ・ケンポナシ(玄圃梨、クロウメモドキ科)

     山地の湿った渓流沿いの斜面などに多いが、特に東北地方に多い。最大の特徴は果実。秋に果柄が肥大し灰色の実とつながり、何とも奇妙な形の実ができる。この肥えた果柄が甘く、その名のとおりナシの味に似ている。ビタミンCが豊富で疲労回復に効果がある。生食のほか、果実酒に。昔は、悪酔い、二日酔い、嘔吐を止める作用があると言われていた。
  • 花期・・・6~7月、高さ15~20m
  • 花のツボミ
  • 名前の由来・・・果柄が肉厚に太ってナシのような味がし、ゴツゴツと折れ曲がる様が手の指のように見えることから「手棒梨(テンポナシ)」が転訛してケンポナシになったと言われている。別名テンポナシ、ケンプナシ、ケンポなどと呼ばれている。 
  • ・・・葉のつき方は、枝の片側に左左、右右と二枚づつ交互するコクサギ型葉序を示す。葉の基部から三つの分かれる葉脈が目立つ。葉に含まれるホタロシドは、一度口にすると約30分間甘味を感じさせなくする甘味阻害成分がある。 
  • 樹皮・・・淡い黒灰色で縦に浅く裂け、鱗片状に剥がれる。 
  • ・・・枝先に集散花序を出し、淡い緑色で小さな花を多数開く。花弁、雄しべ、ガク片はともに5個。 
  • 果実・・・直径約7mmの球形で黒紫色に熟す。太く肉質になった果柄は甘味があり、完熟すると味はナシにそっくり。特有の香りがある。 
  • 昔は子どもたちのおやつ・・・東北地方では、アマサギ、アマカゼなどと呼ばれ、熟すと肥えた果柄ごと落下する。それを子どもたちが拾って、おやつ代わりに利用した。 
  • 食べ方・・・生食のほか果実酒に。9~10月頃、肉質部の果柄を種子ごと採り、よく水洗いして乾かし、砂糖は少なめにして35度以上のホワイトリカーに漬ける。半年以上してから布でこし、中身を除いて用いる。ビタミンCが豊富なので、疲労回復に効果があるとされている。 
  • 漢方・・・果柄は、解毒や止嘔、通便の効能があるとされている。民間では二日酔いの薬としてよく使われた。 
  • 種子散布・・・臭覚に優れたほ乳類動物を香りで誘い、果柄とともに果実を食べさせ、糞として散布してもらう戦略をとっている。 
  • 材の利用・・・漆を塗ると、ケヤキそっくりになることから、ケヤキの模擬材として扱われることがある。杢が出て、表情も豊かで、細かい細工も、加工もしやすい。昔から指物などの和家具、工芸品に用いられた。強くはないが、正露丸のような薬っぽい独特の材の匂いがする。(写真:名刺入れ、左からケンポナシ、ダケカンバ、ハンノキ科) 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社) 
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「続・読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「山菜ガイド」(今井國勝ほか、永岡書店)
  • 「樹木と木材の図鑑 日本の有用種101」(創元社)
  • 「きのこ・木の実・山菜カラー百科」(主婦の友社)