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樹木シリーズ144 ツタ(蔦)

  • 紅葉が美しいツル植物・ツタ(蔦、ブドウ科)

     山野に生えるツル性の落葉樹。北海道から九州まで広く分布。ツルから出る巻きヒゲの先端に丸い吸盤があり、そこから粘液を出して張り付き、木や壁を登っていく。葉を落としたツルから出る樹液は甘く、昔はこれを煮詰めて甘味料にした。葉は、秋に見事に紅葉する。幹を覆い尽くす新緑もまた美しい。別名ナツヅタ。非常に成長が速く木や壁面を覆い尽くすことから「壁面緑化」に利用されるほか、昔から風呂敷の唐草模様、家紋などに利用されている。 
  • 名前の由来・・・樹木の幹や岩壁を「伝う」ようにスルスル攀じ登ることから名付けられた。漢名は、「草冠」が大地を、その下にある「鳥」が空を表している。ツタは、地面から生え、どんどんツルを延ばして上へ空へと昇っていく様子を表している。 
  • 別名ナツヅタ・・・常緑で冬も葉を落とさないフユヅタに対して、落葉する本種をナツヅタと呼ぶ。
  • 花期・・・6~7月 
  • ・・・浅く3裂し、先端は鋭く尖る。やや厚く、光沢があり、葉脈は窪む。基部はハート形に深く窪む。葉柄は長い。 
  • ツル・・・1年目の茎から出るツルには巻きヒゲがあり、先端に吸盤がある。そこから粘液を出して張り付き、木や壁を登っていく。もう一つは、2年目以降の茎から出る付着根で張り付く。その繁殖力はすさまじく、「垂壁のクライマー」などと呼ばれている。
  • ・・・集散花序を出し、黄緑色の小さな花を多数つける。花弁は反り返り、雄しべは5個。雌雄同株。
  • 果実・・・直径約6mmの球形で、10月頃に黒紫色に熟すと、ブドウ科だと分かる。中には3つの種子がある。 
  • 紅葉・・・「蔦紅葉」と称賛されるほど紅葉が美しい。
  • 甘味料・・・ツタやブドウなどのブドウ科の植物は、木部樹液に糖分などを溶かし込んで根圧によって水分を押し上げる機構があるので、茎を切断すると樹液がしたたり落ちる。平安時代には、この樹液を煮詰め、「甘蔓(アマヅラ)」と呼ばれる甘味料を作った。 
  • 壁面緑化・・・非常に成長が速くビルディングの壁全体を覆うように成長する。特に甲子園球場の外壁のツタが有名。 
  • 唐草模様・・・ツタは古くから唐草模様として描かれるなど、人間生活に密着した植物であったことが伺える。 
  • 家紋・・・葉を大いに繁らせ、新緑、紅葉ともに美しく、木や壁を這って覆い尽くすたくましさなど、「子孫繁栄」を連想させることから、家紋として使用されるようになったと言われている。日本十大紋の一つ。戦国時代の武将・松永久秀や藤堂高虎がこの紋を用いたほか、八代将軍吉宗が出た紀州徳川家が替紋として蔦を用いたことから、権威のある家紋として認知され普及したと言われている。
  • 俳 句
    岩山や空に這ひつく蔦紅葉 正岡子規
    松の木をがんじがらめの蔦紅葉 永川絢子
    子規堂にのぼりつめたる蔦紅葉 河野あきら
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「拾って楽しむ 紅葉と落ち葉」(平野隆久ほか、山と渓谷社)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)