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樹木シリーズ146 イボタノキ

  • 白いロウの塊は高級ワックスに使われるイボタノキ(水蠟の木、モクセイ科)

     里山の雑木林に生える落葉低木。初夏、枝先に甘く香る白花を多数咲かせる。その花の蜜にはチョウやガ類、花粉にはハナバチの仲間など多くの昆虫が訪花する。葉は、対生してスプーンの先のような長楕円形。この木に寄生するイボタロウムシが枝に白いロウの塊がつくる。この虫の出すロウ物質は、イボタロウといい、薬用や戸の滑りをよくしたり、家具の艶出し、ロウソクなどに使われた。また葉には昆虫の発育を不可能にする成分が含まれているが、それを克服したウラゴマダラシジミ、イボタガ、スズメガ類が食草にしている。北海道から九州まで広く分布。
  • 名前の由来・・・この木に寄生するイボタロウムシが分泌するイボタロウが、皮膚にできたイボを取るのに効果があるので「イボトリノキ」と呼ばれ、それが転訛し「イボタノキ」。 
  • 別名コバノトネリコ(小葉戸ねり粉)・・・枝にはイボタロウ虫がガマの穂のようにくっつくので、この殻を採って戸滑りに使ったのでこの名がついた。 
  • 花期・・・5~6月 
  • よく分枝して、高さ2~3mになる 
  • ・・・対生し、長楕円形で縁は全縁。葉先は丸い。主脈の窪みが目立つ。 
  • 樹皮・・・灰白色~灰褐色で丸い皮目がある。 
  • ・・・本年枝の先に白い花が総状に多数咲く。花は筒状で先が4つに開き、甘く香るので、多くの昆虫たちが集まる。
  • 甘い香りに誘われてやってきたミドリヒョウモン
  • 同サトウラギンヒョウモン
  • 同クマバチ
  • 虫媒花・・・コマルハナバチやトラマルハナバチなどのマルハナバチをはじめ、クマバチや小型のハナバチ類、チョウなど驚くほどたくさんの昆虫がやってくる。
  • 果実・・・長さ約7mmの楕円形。 
  • 果実は緑色から黒紫色に熟す。 
  • 白ロウ・・・枝がびっしりと白い粉状のもので厚く覆われる。晩秋、落葉後に発生に気づくことが多い。その白い部分は、ロウの塊でを「白ロウ」と呼ばれている。
  • 昆虫 信じられない能力に驚く本」 (KAWADE夢文庫)・・・「それはまるで、秋田名物きりたんぽのようだ。イボタロウムシのオスの幼虫は、このロウ塊の中で外敵に襲われることなく安心してサナギ時代を迎えるのである」
  • イボタロウムシ・・・日本にも生息する「イボタロウムシ」は、モクセイ科の樹木に寄生するカタカイガラムシの仲間で、イボタカイガラムシという。イボタノキやライラック、トネリコなどに見られる。なお、イボタロウムシの名前は、「イボタノキ」につく「ロウ虫」の意味である。 
  • イボタロウムシのメス・・・枝の白色の部分に、茶色の球状のものが貼りついているはメス成虫の死骸。 
  • イボタロウ・・・枝にイボタロウムシが寄生して、メスの成虫が球形の貝殻をつける。5月頃、貝殻に数千個の卵を産み、6月頃孵化。オスの成虫が7月頃、葉から枝に移り、白ロウを分泌して群生する。その白ロウの中でサナギになり、9月頃、羽化して白ロウに小穴を開けて外に飛び出す。枝葉には、ロウの部分が抜け殻のように残る。この枝や幹の白い粉を削り、加熱してロウ分を溶かし、布で漉してから冷やして凝固させたものを「イボタロウ」という。イボタロウは融点が高く、夏でもべとつくことがないので、様々な用途に使われた。 
  • イボタロウの生産・・・かつては福島県の会津地方(会津蝋)や富山県の射水地方が主産地で、農家が副業で盛んにロウを採っていた。中国では古くから四川省を中心に、この昆虫を人為的に増やし、多量の蝋を生産していた。現在、流通しているイボタロウは全て中国産だという。
  • 精製されたイボタロウの利用・・・薬用のほか、敷居に塗って戸の滑りを良くしたり、家具や工芸品のつや出し、潤滑剤、刀剣や刃物の錆止めに使われてきた。長野県では、藩政時代にイボタロウで和蝋燭を作った記録がある。
  • 生薬名「イボタ蝋」・・・強壮、利尿、止血、いぼとり 
  • イボタガの食草・・・早春に出現する蛾の仲間で、食草はイボタノキのほか、キンモクセイ、トネリコなど。
  • 植物と昆虫との攻防は凄まじい・・・植物は昆虫たちに食べられっぱなしではない。その好例がイボタノキ。イボタノキは、昆虫に葉を食い荒らされないよう、他の植物にはない非常に強いタンパク質変性活性という技を編み出した。このタンパク質変性作用は、昆虫の食害を受けると活性化し、栄養価の減少を引き起こし、昆虫の発育を不可能にするという。だからほとんどの昆虫は、食べることができない。しかし、イボタノキを専門に食べるイボタガなどの少数派の幼虫は、消化液中にグリシンや GABA などの遊離アミノ酸を多量に分泌することで、その変性作用を中和してしまうという技を編み出した。
  • その他食草・・・ウラゴマダラシジミ(上の写真)、スズメガ類が食草にしている。
参 考 文 献 
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「葉・実・樹皮で確実にわかる樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「植物民俗」(長澤武、法政大学出版局)
  • 昆虫 信じられない能力に驚く本」 (KAWADE夢文庫)
  • 「蛾の図鑑」(今井初太郎、メイツ出版)