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樹木シリーズ120 モ ミ

  • 秋田が北限のクリスマスツリー・モミ(樅、マツ科)

     日本特産の常緑針葉樹で、山地の尾根などに生える。本州では秋田が北限で、四国、九州に分布。能代市桧山母体地区には約1haの範囲に貴重なモミ林が自生しており、県天然記念物に指定されている。日本産モミ属には、モミのほかにウラジロモミ、オオシラビソ、トドマツなどがある。いずれも大きさはモミより小さい。生長が速く、100年で直径50cm以上、高さ30m以上に育つ。ただし壽命は100~150年程度と短い。整った円錐形の樹形が美しく、ドイツトウヒやウラジロモミなどとともにクリスマスツリーに利用される。 
  • 見分け方・・・ウラジロモミとよく似ているが、本種の若木は葉先が二股に分かれて尖り、茶色の枝には短い毛があり、葉裏の気孔帯が薄い。ウラジロモミは、枝に毛がなく、その名のとおり、葉裏の気孔帯が白く目立つ。 
  • ウラジロモミ・・・枝に毛がなく、葉裏は白く目立つ。葉先も二つに分かれない。
  • 名前の由来・・・大木で神聖な木として民間信仰の対象にもなっていたことから、「臣(オミ)」の木と呼ばれていたのが転訛したというのが通説。他にモミ類の朝鮮語名「ムンビ」が転訛したとの説もある。 
  • 花期・・・5月 
  • 巨木になる・・・高さ40m、直径2mにもなる。だから祭事と縁が深い。
  • ・・・線形で互生し、長さ2~3cm、幅2~3.5mm。若木の葉は先が深く2裂し、鋭く尖る。老木は凹形か円形である。
  • 樹皮・・・灰白色で、生長とともに網目状に裂ける。 
  • ・・・雄花は黄緑色、雌花は緑色。 
  • 球果・・・上向きにつくのが特徴。円柱形で、長さ10~15cm、径3~5cm。球果は付け根から丸ごと落下せず、先に果鱗がバラバラに落ち、球果の軸だけが遅くまで残る。 
  • ウラジロモミの球果との違い・・・モミは、苞鱗が種鱗の間から突き出て、球果の表面が針状に覆われているように見える。ウラジロモミは、苞鱗が出ず、滑らかな球果であることから区別できる。
  • モミの黄葉・・・黄色に黄葉する。葉の寿命が5年以上と長く、10年近くもつものもあるという。だから黄葉するのは古い葉に限られるので、黄葉は一部に過ぎず、遠目には余り目立たない。
  • モミが尾根に多い理由・・・後発の広葉樹より競争力が弱く、生育環境の悪い尾根に追いやられた結果だという。また、海岸に近い台地や丘陵にもかなり生育していたが、大気汚染や害虫、人為的な伐採によって減少したと言われている。
  • モミは陰樹・・・アカマツ、クロマツは陽樹だが、モミは陰樹。モミ林の林床には稚樹がたくさん見られることが多い。稚樹は、光の当たる面積を広くしようと、水平に枝を張り出し、傘あるいはキノコのような樹形になる。暗い林床で数十年も生き延び、高木が倒れると、急速に生長してその場を占有する。マツ類は種子を広く散布し、明るい場所に定着させる先駆種として生きているが、モミは暗い林内で次の世代を育てる極相種として生きている。 
  • 利用・・・加工しやすく、色白で木香が弱く、清潔感がある。そのため棺や卒塔婆などの葬祭具として重用され、建築の内装や建具、パルプ材として多用されてきた。また、虫やネズミに強いとも言われ、食品の保管箱や漬物樽、米びつなどの生活用具材としても好まれた。
  • ヨーロッパでは、トウヒ類やモチノキとともにヨーロッパモミがクリスマスツリーに使われる。 
  • 能代市桧山母体地区のモミ(県天然記念物)・・・モミは主としての暖温帯上部から冷温帯下部の移行帯に生育する樹種であり、本州(秋田県、岩手県)から南九州(屋久島)まで分布している。北限に位置する能代市檜山地域の「母体のモミ林」は、檜山川の支流、湯の沢付近に約70本が生育。暖かい地方に生育するモミは、日本海側では富山以北で極めて稀で、学術上貴重として県指定天然記念物に指定されている。(写真:能代市檜山浄明寺のモミ)
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社) 
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「日本有用樹木誌」(伊東隆夫ほか、海青社)
  • 「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)