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樹木シリーズ121 クロビイタヤ(ミヤベカエデ)

  • カエデ科の希少種・クロビイタヤ(黒皮板屋、ムクロジ科)

     クロビイタヤは日本固有種で、好む生育地は、低標高の河川に沿った湿った土地である。人為的な土地利用を受けている地域では、生育地が断片化していることから、環境省レッドリストランク絶滅危惧Ⅱ類(VU)、秋田県では絶滅危惧種1B類に指定されている希少種。北海道南部(十勝・日高・胆振・石狩・渡島支庁)、東北北部(青森・秋田・岩手県)、中部山岳(福島・群馬・長野県)とに隔離分布している。能代市二ツ井町七座神社境内に生息するクロビイタヤの幹回りは263cmで日本一。 別名ミヤベカエデと呼ばれているが、その名は、本種を発見した宮部金吾博士(北海道大学植物園初代園長)に由来する。
  • クロビイタヤの見分け方・・・カエデの仲間の翼果はU字形に開くが、クロビイタヤは水平に開き、まるでブーメランのような形をしている。また葉の形も独特。直径7~15cmで掌状に5中裂し、裂片の先はやや尾状に尖り、中央部に大きな鈍歯牙がある。 
  • 名前由来・・・同属のイタヤカエデやカジカカエデの樹皮が白っぽいのに対して、樹皮が黒っぽいので、「黒皮板屋」と書く。 
  • 別名ミヤベカエデ・・・明治17年、北海道の日高で本種を発見した宮部金吾博士に由来する。宮部博士は、植物研究のため馬に乗って新冠牧場を静内に行く途中、小道のほとりに花をつけた一本のイタヤの木を発見した。今まで見たことがなかったことから、植物学の権威であるロシアのマキシモビッチ博士に照会したところ、新種として学会に発表されるに至った。
  • 学名「Acer miyabei Maxim」・・・発見者の宮部博士とマキシモビッチ博士の名前に由来する。なお宮部博士は、北海道大学植物園の初代園長であったことから、クロビイタヤはこの植物園のシンボルマークになっている。
  • ・・・直径7~15cmで掌状に5中裂した偏五角形。基部は心形。裂片の先はやや尾状に尖り、中央部に大きな鈍歯牙がある。 
  • 黄葉・・・黄色に黄葉する。
  • 高さ・・・10~20m
  • 花期・・・5~6月、淡い黄色の小さな花を開く。雄花と両性花は別々の花序につくる。雌雄同株。なお、クロビイタヤの花粉は虫によって運ばれる。希少種・クロビイタヤにとって、河川周辺の森の消失は、訪花昆虫の量を減少させ、遺伝子流動を阻害していると推測されている。
  • 樹皮・・・黒灰色で縦に不規則な裂け目がある。 
  • 翼果・・・長さ2~3cmで汚黄色の毛が密生し、水平に開く。翼果に毛のない変種をシバタカエデという。 
  • 日本一のクロビイタヤ・・・2016年9月20日、東北巨木調査研究会の調査で、能代市二ツ井町小繋の七座神社境内に生息するクロビイタヤの幹回りが263cmで、日本一であることが分かった。ムクロジ科カエデ属の希少種クロビイタヤは、七座神社社叢に11本、対岸に4本で、計15本が確認されている。 
  • 七座神社周辺に希少種・クロビイタヤがまとまって生育している理由
    1. 河川改修、伐採など人為的攪乱を受けていないこと
    2. 湿潤であること(水の補給が常に確保されうること)
    3. 寒冷であること
    4. 側に河川などがある緩やかな傾斜地であること 
  • 菅江真澄図絵「七座山の松座と七座神社」(秋田県立博物館蔵写本)・・・現在の七座橋付近から米代川下流方向を眺めた図絵。米代川左岸が原生林の七座山の松座、右岸が七座神社の森、中央にきみまち阪が描かれている。当時、米代川周辺には、今では希少種となったクロビイタヤがたくさん生育していたのであろう。
  • クロビイタヤの好む生育地・・・河川に沿った湿った土地である。特に、河川の周りの自然堤防などに多く見られることから、河川撹乱にともなって更新していると思われる。母樹の周りには稚樹がよく見られ、林冠ギャップができて明るくなると、成長して林冠に達すると考えられる。
  • 衰退要因・・・豊かな河辺林が残されている地域ではクロビイタヤは多く見られるが、人為的な土地利用を受けている地域では、生育地が断片化している。つまり河川改修や道路開設、集中豪雨に伴う災害復旧工事によって伐採対象となることが多いことが、衰退の主な要因になっている。また、農地や住宅地によって断片化した集団を調べた調査によると、個体数の少ない集団の果実ほど種子充実率が低いことがわかっている。
  • 七座山自然観察教育林 面積99ha・・・上の写真は、七座神社の川向かいにある七座山天然林。この一帯は、藩政時代に御直山(おじきやま)として保護された原生的な天然林で、天然秋田スギを主体にブナ、イタヤカエデ、ミズナラ、トチノキ、カツラなどの老木が鬱蒼と生い茂り、潅木の種類も多い。コブシ、エゴノキ、ウリノキ、ミツバウツギ、ヤマツツジ、ハナイカダ、ムシカリなどの花々が咲く。こうした森が広い面積で残されているからこそ、希少なクロビイタヤが残っている理由であろう。
参 考 文 献