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樹木シリーズ161 ハマナス(ハマナシ)

  • 北国の夏を代表する野生バラ・ハマナス(浜梨、バラ科)

     海岸の砂浜に群落をつくる野生バラ。地下茎で増え、地上部はよく茂る。茎にはトゲが密生する。紅色から紅紫色の大きな花を咲かせ、花から良い香りが漂う。その目立つ花と香りに誘われて、多くの昆虫たちがやってくる。その昆虫たちに受粉してもらったお陰で、真っ赤な実をたくさんつける。生食のほか、ジャムなどに利用される。花は香水の原料に、根は染料に利用する。秋田県特産「秋田八丈」は、これで染めたものである。分布は、太平洋側では茨城県以北、日本海側では鳥取県以北。
  • 名前の由来・・・実が甘酸っぱく、梨に似て生食もできることから、「浜梨(ハマナシ)」と呼ばれ、これが東北訛りで「ハマナス」になったとの説がある。東北には、トマトを赤ナスと呼ぶ地方があり、赤い実をトマトに例えて「浜の赤茄子」が転訛したとの説もある。
  • 花期・・・5~8月
  • 高さ・・・幹は叢生してよく枝分かれし、高さ1~1.5mになる。野生のハマナスは、海岸の風や砂の影響を受けて丈が低いが、栽培するとやや丈が高くなる。
  • 枝には短い軟毛とトゲが多く、トゲにも毛が密生する。
  • ・・・奇数羽状複葉で互生する。縁に鋸歯があり、表面にはシワがある。
  • ハマナスの葉を食害するドクガの幼虫(チョウ目ドクガ科)・・・幼虫(毛虫)は、4月から6月に見られ、体の色は黒色で背中と側面に橙色の斑紋がある。幼虫は秋に孵化してから、落ち葉の下などに集まって越冬する。集団越冬した幼虫は4月頃に活動を再開、数回の脱皮を繰り返し成長する。幼虫は雑食性で、サクラ、コナラ、ハマナス、ウメ、バラ、ツツジなどさまざまな庭木や街路樹の葉を食害する。
  • ・・・夏、枝先に大輪の5弁花を開く。直径10cmぐらいあり、開き切った花の中心に黄色の雄しべが目立つ。
  • 北国の花だが、印象は南国的な花である。
  • 雄しべ、雌しべ・・・同心円状に雄しべが密集し、その先端に黄色い葯がある。咲き初めは鮮やかな黄色だが、数日後には茶色へと変色していく。中央の花床が壷状になって多数の雌しべを包んでいる。柱頭が壷の外に伸び出している。
  • 虫媒花・・・芳香と目立つ大きな花に誘われて、クマバチや小型のハナバチ類、ハナアブ、ハナムグリなど多くの昆虫が集まる。
  • 白いハマナスの花
  • 果実・・・直径2~3cmの扁球形で、8~9月に赤く熟し、食べられる。
  • 食用・・・赤く熟したものを摘み採り、生食のほかジャムに。種子をとり、ひき肉を詰めて焼いた肉詰め料理に。
  • 薬用・・・果実はビタミンCの含有が多いので、薬酒にすると疲労回復に効果があるとされている。約5個の果実にグラニュー糖150g、ホワイトリカー720mlを加えて、半年以上熟成させる。これを布でこして、1回量30ccを限度に用いる。
  • 知床旅情・・・森繁久彌が元歌をつくり、後に加藤登紀子が歌った知床旅情、「知床の岬に ハマナスの咲くころ」の大ヒットで全国に知られるようになった北国を代表する花である。
  • 石川啄木「浜薔薇(ハマナス)」・・・潮かをる北の浜辺の/砂山のかの浜薔薇(ハマナス)よ/今年も咲けるや
  • 秋田県特産「秋田八丈」(画像出典:ウィキメディア・コモンズ)・・・秋田八丈特有の発色に不可欠な自生ハマナスの根皮は、花の咲く時期に採集し枯らしておき、二、三年後に釜で煎じて色出しをして、およそ一週間かけて糸染めする。その茶色と黄色を基調色とした秋田八丈は、全て天然の植物染料で染め上げる純粋な草木染である。赤みを帯びた茶色はハマナス、黄色はカリヤス、ヤマツツジの葉で染める。また黒地はハマナスにロッグウッドを混ぜ、赤地にはスオウを用いる。
  • 江戸時代末期には、大阪、京都にも販路を広げ、秋田藩の重要な産業の一つとなった。最盛期は、明治27年頃で、機業場は秋田市内に27軒にも及び、年産6万反にも達したという。多種多彩な縞模様の平織、秋田畝織を生産し、着尺地のほかネクタイ、財布などの小物類が主な製品である。昭和55年、秋田県無形文化財に指定。
  • 俳 句
    はまなすの吹きしぼらるる大輪よ 山口青邨
    はまなすのひと恋しげに百人浜 鷹羽狩行
    はまなすの花ひとつとて花の園 角川源義
    はまなすのかをりは遠き薔薇のかをり 中村草田男
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「秋田の山野草」(秋田花の会)
  • 「山野草カラー百科」(主婦の友社) 
  • 秋田ふるさと村 伝統工芸品コーナー「秋田八丈」