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樹木シリーズ162 ウバメガシ

  • 紀州備長炭の材料として有名なウバメガシ(姥目樫、ブナ科)

     温暖な海辺の急斜面に多い常緑樹。潮風が吹き付ける斜面は、樹木の生育にとって厳しい環境だが、その逆境に耐えることによって生き残って来た樹木と言われている。それがために、材は堅く、良質な炭ができるので、最高級の紀州備長炭の材料として有名である。生け垣や街路樹にもよく植えられる。楕円形の葉が枝先に車輪状にまとまってつく。分布は、房総半島、三浦半島、伊豆半島以西の太平洋側、四国、九州、沖縄。
  • 名前の由来・・・芽だしの色が茶褐色になり、 姥の目に似ていることから。馬の目にも似ていることから、別名馬目樫(ウマメガシ)とも呼ばれている。
  • 花期・・・4~5月、高さ5~7m、大きいものは高さ18m
  • ・・・楕円形で光沢があり、質感がパリパリしている。縁に小ぶりな鋸歯がある。互生で枝先に放射状につく。葉柄や若い枝には淡い茶色の細かい毛が生えている。
  • 塩分に強い葉・・・葉の表面は、ワックスの層が厚くコーティングされ、葉の内部の水分が蒸発するのを防ぐ。ワックスの層は、塩分の侵入も防ぐ。
  • ムラサキシジミの食草・・・ウバメガシ、アラカシ、イチイガシ、コナラ、クヌギ、カシワ、ミズナラなどのブナ科植物。
  • ・・・本年枝の下部に長さ2~2.5cmの雄花序を垂らし、上部の葉の脇に1~2個の雌花をつける。
  • 樹皮・・・よく枝分かれし、樹皮は黒褐色で、老木になると縦に浅い裂け目がある。
  • ドングリ(出典:ウィキメディア・コモンズ)・・・果実はドングリ。殻斗には、ナラ類の殻斗に共通なウロコ模様が見られる。名前は「カシ」だが、実はナラの仲間である。
  • 硬い木・・・潮風が吹き付ける急斜面は、樹木の生育に支障となるが、一方で競争相手が少ない場所でもある。ウバメガシは、生長は極めて遅いが、潮風にも耐え強風にも折れにない堅い幹をもつことによって、生き残りの活路を見出したと言われている。
  • 劣悪な環境に適応(出典:ウィキメディア・コモンズ)・・・暖地の海辺の斜面には、スダジイがしばしば優占する。一方、ウバメガシは、スダジイが生きていけないような急傾斜地、岩が露出した場所、風当たりの強い場所に、しばしば純林をつくる。萌芽力も強く、水不足で幹が枯れたり、風で幹が折れると、根元からの萌芽によって再生することができる。厳しい環境下では、低木のまま生きていける能力も有利。
  • 生長が極めて遅いが、その分、幹が非常に堅く、高級な備長炭の原料になる。
  • ウバメガシを材料にした備長炭(白炭)の名前の由来・・・備長炭の名前の由来は、江戸時代の紀州の炭問屋「備中屋長左衛門」に起源すると言われている。元は熊野炭で、これを田辺市秋津川付近の人たちが改良して今の紀州備長炭の焼き方を編み出した。この炭を一手に扱い、江戸に送り出していたのが備中屋長左衛門である。以来、ウバメガシを材料にしたかたい炭のことを備長炭と呼ぶようになった。
  • 農林規格による備長炭の定義は「硬さ」(出典:ウィキメディア・コモンズ)・・・硬度15度以上とされている。紀州産に限らず、その規格をクリヤーした白炭は、秋田備長炭、豊後備長炭、土佐備長炭、日向備長炭などと呼ばれている。
  • 備長炭(白炭)の特徴と用途
    1. 焼き上がる頃、口を開けて約千度の高熱で焼き、まだ赤々とした炭を窯から出した後、素灰を掛けて消化させる。その消し粉をかけた時に白い粉が付くので、備長炭は白炭と呼ばれている。
    2. 非常に硬く、叩くと高い金属音がする。
    3. 着火しにくいが、安定した温度を長時間保ち、新しい炭を途中補填しても、温度が下がらず焼きムラもできない。
    4. 蒲焼きや焼き鳥など炭火焼にこだわる飲食店で使われている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)