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樹木シリーズ176 イチイ

  • 針葉樹でも美味しい実をつけるイチイ(イチイ科)

     日本全土の山地に自生する常緑針葉樹。東北、北海道では、アララギ、オンコと呼ばれている。針葉樹なのに球果はつけず、人にも野鳥にも好まれる赤い液質の仮種皮をつける。ただし、その中にある種子にはタキシンという猛毒のアルカロイドが含まれているので注意。北東北、北海道では、サカキやヒサカキの代用品として御玉串などの神事に用いられたことから、神社の境内に植えられた。日本海側に分布するものは、低木性で幹が地を這う樹形の変種でキャラボクという。
  • 名前の由来・・・伝説によると、鬼神が降伏した標(しるし)として、イチイの木でつくった笏(しゃく)を仁徳天皇に献上した。313年、仁徳天皇はイチイに笏をつくる高貴な木として「正一位」を授けたことから「一位」と呼ばれるようになったという。 
  • 花期・・・3~4月、高さ20m 
  • ・・・長さ1.5~2.5cmの線形で、らせん状につく。横に伸びた枝では、左右2列に並ぶ。 
  • 樹皮・・・赤褐色で縦に浅く裂ける。 
  • ・・・雌雄異株。雄花は淡い黄色で9~10個の雄しべが球状に集まる。雌花は緑色。 
  • 赤い仮種皮・・・イチイは裸子植物。美しい花を咲かせる被子植物の果肉と成り立ちが違うため、果肉の部分を「仮種皮」と呼ぶ。9~10月、熟すと赤い肉質の仮種皮が種子を覆うが、先端は開いている。仮種皮は甘くて食べられる。種子は猛毒で、数粒を食べただけで死に至るという。間違って種子まで食べ、中毒を起こす事故が後を絶たないらしいので注意! 
  • 仮種皮の食べ方・・・生食は、種子を噛まずに吐き出す。果実酒にも種子の無傷のものを選んで仕込む。 
  • 鳥が散布・・・鳥が好んで食べ、種子を運んだことから、日本の広い範囲に分布するようになったと考えられている。秋に熟すと、ヒヨドリ、ムクドリ、ツグミなど様々な種類の鳥が食べる。イチイの実は、鳥が丸呑みできるサイズで、種ごと呑み込み、移動した後、糞とともに種子を散布する。
  • ヤマガラは、果実をつまみ取ると、近くの枝に止まり、赤い果肉を器用に取り外して捨ててしまう。本命は栄養豊富な種子を割って食べる。けれどもヤマガラは、冬や来春に備えて頻繁に「貯食」行動をするので種子散布に貢献している。
  • イチイにとって迷惑な鳥・・・シメなどのアトリ類は、太いクチバシで種子を割り中身を食べてしまうだけなので、種子散布には貢献しない。 
  • 利用・・・材質は緻密で粘りがあり、極めて優良とされる建築材の中でも天井板や床板に使われるほか、工芸材としても使われる。現在でも重要な林業樹種として植林されている。また生け垣や庭木、公園樹として植えられる。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「゛読む゛植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「見つけたその場でわかる山菜ガイド」(今井國勝ほか、永岡書店)