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樹木シリーズ⑲ コナラ 

  • 里山を代表する陽樹・コナラ(小楢、ブナ科)

     かつて里山は、薪炭林として繰り返し伐採されたが、その切り株から「ひこばえ(萌芽更新)」と呼ばれる芽が出て、15~20年ほどで薪炭に適した太さになるほど成長が速い。さらに落葉は堆肥の原料、シイタケのホダ木に適していた。だから里山には、コナラがよく植えられた。また、本種はクヌギと同じく、カブトムシやクワガタが好む樹液が出る木として子どもたちにもよく知られている。秋に細長い円形のドングリがたくさん実り、鳥類から哺乳類まで、多くの動物たちの食糧にもなっている。しかし、今は、薪炭に利用されなくなり、コナラ林の衰退が危惧されている。
  • 解説「ひこばえ(萌芽更新)」・・・ 樹木の切り株や根元から生えてくる若芽のこと。切り株から「ひこばえ」によって新たな森林ができるようにすることを萌芽更新という。その萌芽枝の生長は、種子から芽生えた実生よりはるかに速い。
  • 見分け方・・・葉は、ミズナラとよく似ているが、ミズナラは葉柄がほとんどないほど短いが、本種は葉柄の長さが長いことで見分けられる。コナラの帽子(殻斗)は、皿形ですぐに帽子がとれてしまいそうなほど浅い。 
  • 名前の由来・・・ミズナラの別名「オオナラ」に対して、「小さい葉の楢」の意味で「小楢」と書く。なお、ナラの由来は、奈良の都の周囲にこの木の林ができたので、「奈良の木」と言われたとする説や、風が吹くとカサカサと乾いた葉擦れの音が「鳴る」のが転訛した説などがある。 
  • 花 期・・・4~5月、高さ15~20m、大きいものでは30mに達する。 
  • ・・・若葉を広げると同時に花を咲かせる。雄花序は、長さ6~9cmで、本年枝の下部に多数垂れ下がる。雄花は黄褐色。雌花序は短く本年枝の上部の葉の脇から出る。 
  • コナラの若葉・・・若葉は、ベルベットのような産毛に覆われているので、コナラ林は淡い灰緑色に包まれ独特の色をしている。 
  • 樹 皮・・・灰黒色で、縦に不規則な裂け目がある。
▲カブトムシ2匹 ▲ミヤマクワガタ
  • コナラと昆虫・・・コナラの幹をよく見ると、割れ目以外に、色々な虫に食われた孔が開いていたり、樹液を垂らしたりしている。その樹液が発酵して、甘酸っぱい匂いを発するので、クワガタやカブトムシ、ハチやチョウ、カナブンなどが集まってくる。 
  • ・・・1.5~2cmの楕円形または円柱状長楕円形。コナラの帽子は、皿形ですぐに帽子がとれてしまいそうなほど浅い。 
  • ドングリを食べる野鳥・・・カケス、オシドリ、アオバトなど。
  • 「風そよぐ 楢の小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける」(従二位家隆)・・・京都の上賀茂神社(上の写真)の境内を流れる小川のほとりで、ナラの木が風にそよいている様を詠んだものである。コナラは、昔から人里近い森の代表であった。 
  • コナラは太平洋側に多い・・・冬に乾燥する太平洋側では、山火事が起きやすいからである。つまり、コナラは陽樹で、焼き畑や山火事による攪乱地に定着するタイプの樹木である。山火事は、常緑樹の拡大を妨げ、コナラなどの落葉樹の拡大を助けてきたと言われている。コナラの樹皮には、元々乾燥除けにコルク層を厚くしているので、火事の際に樹幹の内側まで火が達するのを妨げる機能がある。
  • ドングリの乾燥対策・・・ドングリは乾燥に弱い欠点をもつ。だから、地面に落下すると、すぐに発根する。これは、根から土の中の水分を吸い上げて乾燥死を避けるためである。
  • 貯食と発芽・・・カケスやヒメネズミ、ニホンリスなどに運ばれたドングリは、土中に浅く埋められ、さらに落葉をかけてもらえるので、最高の乾燥除けになる。だから貯食された種子が食べ残されると、発芽率は高い。 
  • 種子の初産年齢は低く、安定生産・・・10年生くらいから種子をつける。2~3年周期と短い周期で豊作になり、安定して種子を生産する。さらに陽樹にしては200年程度と長寿である。
  • 人為的攪乱で広がったコナラ・・・コナラは、燃やすと火持ちが良く、薪や炭に適している。さらに、伐採されても切り株から萌芽枝が生えてきて、15年程度で薪や炭に適した太さになるまで再生する能力がある。落葉は堆肥、幹はシイタケのホダ木にと、非常に有用な木であった。だから、コナラの雑木林は、伐採と再生を繰り返しながら、長年にわたって維持されてきた。
  • 人の手を借りて広がったコナラ林(雑木林)・・・「炭焼きが雑木を炭に焼き、アケビ細工やヤマブドウつるの細工人、クズのつるを採集する人、漆かき、イタヤカエデの採集人がいて、それぞれが有用な木を利用し、農家の人が落ち葉を集め、大きくなった木は樵たちが伐り出す。伐ったら、苗を植えたり、ひこばえの世話をし、育てて使う。これを順に繰り返しながら、山の自然は守られてきたのです。こうした仕事のどれ一つがなくなっても輪が欠け、山は維持できなくなっていきます」(「木の教え」塩野米松、ちくま文庫)
  • コナラはシイタケ栽培の原木などに利用されている。
  • 雑木林(コナラ・クヌギ・クリなど)の美を発見した国木田独歩・・・「昔の武蔵野は萱原(かやはら)のはてなき光景をもって絶類の美を鳴らしていたようにいい伝えてあるが、今の武蔵野は林である。林はじつに今の武蔵野の特色といってもよい。すなわち木はおもに楢(なら)の類で冬はことごとく落葉し、春は滴るばかりの新緑萌え出ずるその変化が秩父嶺以東十数里の野いっせいに行なわれて、春夏秋冬を通じ霞に雨に月に風に霧に時雨に雪に、緑蔭に紅葉に、さまざまの光景を呈するその妙はちょっと西国地方また東北の者には解しかねるのである。・・・
  • 元来日本人はこれまで楢の類いの落葉林の美をあまり知らなかったようである。林といえばおもに松林のみが日本の文学美術の上に認められていて、歌にも楢林の奥で時雨を聞くというようなことは見あたらない。自分も西国に人となって少年の時学生として初めて東京に上ってから十年になるが、かかる落葉林の美を解するに至ったのは近来のこと・・・」(「武蔵野」国木田独歩)
  • 倒れゆくコナラの雑木林・・・コナラは、里山の代表樹種であったが、ここ50年ほどは薪炭材として利用されなくなり、荒廃している所が少なくない。コナラは、50年ほどで萌芽能力を失うと言われるが、日本の雑木林の木は萌芽能力を失いつつあると言われている。その一方で、ササや常緑樹が繁茂してきた雑木林も多い。管理されなくなった里地里山の荒廃は、野生動物に対して緩衝帯としての役割を失いつつある。それに伴い、危険なツキノワグマが奥山から里山へと生息域を拡大していると言われている。 
  • 里地里山の荒廃によるツキノワグマの異常出没問題・・・少子高齢化による中山間地域の衰退、里地里山の荒廃が一層進むと、中山間地域がクマ等の野生動物の侵入を阻止する緩衝帯の機能を失い、いきなり都市に出没するようになるとの指摘がなされていた。2017年度は、小泉潟公園や横手公園、県立中央公園といった、人が多く集まる都市型の公園に、クマが頻繁に出没するようになっている。これは、里地里山の荒廃が危機的状況にあることを物語っているように思う。
参 考 文 献
「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリック)
「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)
「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
「NHK趣味悠々 樹木ウォッチング」(日本放送出版協会)  
「武蔵野」(国木田独歩)
「木の教え」(塩野米松、ちくま文庫)