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樹木シリーズ198 イヌツゲ、ツゲ、ハイイヌツゲ

  • イヌツゲ(犬黄楊、モチノキ科)
     山地の林縁や岩場などに生える。庭木や盆栽などに利用される。芽を摘まれても新しく芽吹いて再生する能力に優れ、枝や葉の向きが雑然としている性質も刈り込みに適している。果実は黒く熟す。岩手県以西・四国・九州の丘陵帯の湿地に多く見られる。日本海側の多雪地と北海道には、変種のハイイヌツゲが分布する。よく似ているツゲ(ツゲ科)は、山地の蛇紋岩地や石灰岩地に多く生え、関東地方以西、四国、九州に分布。 
  • INDEX イヌツゲ、ツゲハイイヌツゲ
  • イヌツゲとツゲ(ツゲ科)の見分け方・・・科は違うが、イヌツゲとツゲはよく似ている。葉が小さいこと、樹高が低いこと、外見がよく似ていることである。両種の見分け方は、葉のつき方。ツゲは対生だが、イヌツゲは互生である。 
  • 参考:ツゲ・・・葉は対生する。関東以西・四国・九州の丘陵帯に生え、庭園や生垣、盆栽などに植栽される。
  • 参考:ツゲと歩く宝石・・・日本産で最も美しいニシキキンカメムシは、歩く宝石とも呼ばれているが、ツゲの実で繁殖する。だから本種を探すなら、ツゲが植えられた郊外の墓地公園や森林公園を狙うのが良いらしい。5齢幼虫で越冬し、5月頃に成虫が現れ、6~7月には幼虫が見られる。
  • 高級な櫛に使われたツゲ・・・昔から櫛は、ツゲをはじめ、タケ、マユミ、オノオレカンバ、イスノキ、ウメなどが使われてきた。中でもツゲ材で作られた櫛は緻密で、使えば使うほど、飴色の光沢が出てくる。静電気が生じず、椿油を塗って使うので、枝毛や切れ毛のない艶のある美しい髪の毛になると言われている。薩摩地方では、女の子が生まれるとツゲを植える習慣があった。ツゲ櫛も嫁入り道具の一つであった。薩摩ツゲ櫛は、鹿児島県の伝統工芸品に指定されている。 
  • 名前の由来・・・ツゲは、高級な櫛の材料に使われるが、それに外見は似ているが質が劣るのでイヌツゲ。 
  • 花期・・・6~7月、高さ3~5m
  • ・・・互生し、楕円形または長楕円形で表面は光沢があり、縁には微鋸歯がある。主脈は明るい緑色で目立つ。 
  • ・・・葉腋に小さな白い花を開く。雄花は多数つき、雌花は1個ずつつく。花弁はガク片は4個。雄しべは4個。雌雄異株。 
  • 果実・・・球形で黒く熟す。キジバトやツグミ、ムクドリ、オナガなどの野鳥が食べる。 
  • 庭木・・・よく枝分かれして、枝葉が密に茂り、刈り込みにも強く、形を整えやすい利点があり、庭木によく利用される。 
  • 葉が最も小さい・・・小さくて厚い葉は、効率の良い光合成ができない。従って生長は遅いが、耐陰性は強く、低木層という空間を得意の住み場所にしている。 
  • 乾燥に強い・・・葉の表面積が小さいと、水分が蒸発しにくい。それは、針葉樹と同じく乾燥に強いことを意味する。例えば、尾根筋は風も強く、地下水が斜面の下へ抜けてしまうので水不足になりがちだ。イヌツゲは、そんな尾根上にしばしばみられる。 
  • 山火事に強い・・・繰り返し火入れをするような採草原野にも生えてくる。それは幹が燃えてしまっても、根が生き残り、萌芽するからだ。一方、遷移が進み、高木が生えてくると衰退していく。 
ハイイヌツゲ
  • ハイイヌツゲ(這犬黄楊、モチノキ科)・・・本州では、主に日本海側に分布するイヌツゲの変種。下部は地を這い、高さ1~1.5mの常緑低木。 
  • 名前の由来・・・這うイヌツゲのことで、「イヌツゲ」はツゲに似ているが役に立たないことから。
  • 花期・・・6~7月
  • ・・・互生し、イヌツゲに似ている。
  • ・・・葉腋に小さな白い花を開く。雄花は多数つき、雌花は1個ずつつく。花弁はガク片は4個。雄しべは4個。雌雄異株。
  • 寒冷地に適応したハイイヌツゲ・・・イヌツゲは太平洋側の暖地に多い低木だが、変種のハイイヌツゲは日本海側の雪の多いところに生え、地を這うような樹形をとりやすい。まるでアオキとヒメアオキの関係によく似ている。
  • 北海道の北端・礼文島にまで生育・・・導管が細いので乾燥に強く、最も寒冷な地まで広がった種の一つ。また逆の加湿環境である湿原にも見られることから、特殊な環境に強いタイプと言われている。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「日本人は植物をどう利用してきたか」(中西弘樹、岩波ジュニア新書)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「葉でわかる樹木 625種の検索」(馬場多久男、信濃毎日新聞社)