本文へスキップ

樹木シリーズ212 クチナシ

  • 甘い香りで人気のクチナシ(梔子、アカネ科)
     東海地方以南の温暖な山野に生え、庭木や公園樹として利用されている。初夏に手裏剣あるいは風車のような白い花が咲く。特に甘く強い芳香を放つことから、ジンチョウゲ、キンモクセイと並び三大芳香花に数えられている。橙色の果実は、冬に熟し、栗きんとん、たくあんなどの黄色の着色料として利用されている。1973年(昭和48年)、渡哲也のヒット曲『くちなしの花』で、全国に知られるようになった。
  • 名前の由来・・・果実が紅黄色に熟しても割れないことから「口無し」になったとか、細かい種子をもつ果実をナシに見立て、果実先端に残るガク片を口と呼んで「口を持つナシ」であるという説など多数。
  • 花期・・・6~7月、高さ1.5~3m 
  • 樹皮・・・下部からよく分岐し、樹皮は灰緑色~灰褐色。 
  • ・・・枝先に芳香のある花が1個ずつつく。花冠は筒部が細く、先が5~7裂し、手裏剣あるいは風車のようなユニークな形をしている。雄しべは6個。花柱は長さ約4cmのこん棒状でよく目立つ。 
  • 香りは花粉を運んでもらう虫を誘うため・・・上品な芳香が真夜中に一番強くなるのは、花粉を運んでもらう夜行性の昆虫を引き寄せるためと考えられている。花粉を運んでもらうパートナーは、特に夜に飛ぶ大型のスズメガ。正岡子規「薄月夜 花くちなしの 匂いけり」。 
  • 食用・・・花は刺身のツマや酢の物として食べられる。花弁は、わずかに甘味があり、生のままでも火を通しても食べられる。咲いたばかりの新鮮な花は火を通すと粘りが出るという。 
  • 大輪の八重咲品種・・・庭園などで見られる八重咲は、アメリカで改良されたオオヤエクチナシ。雄しべが花弁に変化し、雌しべの成長も悪いので果実はできない。 
  • ・・・卵形で光沢が強く、葉先が短く出る。縁は全縁で、基部に小さな托葉がある。 
  • 果実・・・6本の縦じまの通った実は、碁盤の脚にそっくり。というのも、碁盤の脚の形そのものはクチナシの実を形どったと言われている。その意味は、対局中に他から「口を出すな」との戒めとされている。冬、黄赤色に熟す。中には小さな種子が多数ある。
  • 無害の着色料・・・橙色の果実は、たくあん漬けやおせち料理の栗きんとん、凍豆腐、和菓子の天然着色料として利用されている。飛鳥、天平時代から黄色の染料として布地の染色にも使われている。
  • クチナシ飯・・・江戸時代には、つぶした果実の汁で飯を炊き、クチナシ飯を食べる習慣があった。京都・下鴨神社の葵祭では、社家でクチナシやキハダで着色した「黄飯」をいただく。
  • 漢方「山梔子」・・・果実に含まれるイリノド配糖体やカロチノイド色素が消炎や利尿、止血に薬効があるとされている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)