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樹木シリーズ22 ヤマモミジ、イロハモミジ、オオモミジ 

INDEX ヤマモミジ、イロハモミジオオモミジ
  • 紅葉が美しいヤマモミジ(山紅葉、カエデ科)

     北日本の日本海側・多雪地帯に分布するカエデ。イロハモミジに似ているが、葉は直径5~10cmと一回り大きい。基部は心形で、掌状に7~9中裂する。新緑も紅葉も美しいので、庭や公園に植えられ、園芸品種も多い。イロハモミジの自生分布は、福島県以西、四国、九州の主に太平洋側の山地に普通にみられる。オオモミジは、北海道から九州まで広く分布するが、本州北部では、日本海側にヤマモミジ、太平洋側にオオモミジと棲み分けている。
  • 見分け方・・・ヤマモミジの葉の鋸歯は不揃いだが、オオモミジの鋸歯は整然と揃っている。イロハモミジの葉は、小形。
  • モミジとカエデ・・・葉の切れ込みが深いカエデを、「〇〇モミジ」、葉の切れ込みが浅いカエデを、「〇〇カエデ」などと呼んでいる。しかし、どちらもカエデ科カエデ属で植物の分類上は同じである。葉の形だけを見れば、ハウチワカエデ(右上写真)やイタヤカエデは、何となくカエルの手に似ているので「カエデ」と呼ぶのも理解できる。
  • 名前の由来・・・モミジは、秋に草木が黄色や赤色をもみだす「モミズル」という動詞が名詞化し、転じて、特に美しい色になるカエデ類を「モミジ(紅葉)」というようになった。また、山に生えているモミジ(紅葉)だから、「山紅葉」と書く。
  • 花 期・・・5月、高さ5~10m 
  • ヤマモミジの芽吹き
  • ・・・雄花と両性花が混じって咲く。花弁は5個で淡い紅色。ガク片は濃い紅色。雄しべは8個でヤクは黄色。両性花の子房には短い翼があり、毛のあるものが多い。 
  • ・・・7~9中裂し、不揃いの重鋸歯がある。葉柄は長い。 
  • 食を彩るモミジの葉・・・モミジは春の若葉から秋の紅葉まで美しいので、大皿やかご盛り、燻製などを彩るのに最適な素材である。
  • 葉っぱビジネス・・・日本料理を美しく彩る季節の葉や花、山菜などを栽培・出荷・販売する農業ビジネスのこと。商品が軽量で綺麗なことから女性や高齢者でも取り組めるのが特徴。1986年、徳島県上勝町がはじめた葉っぱビジネスは、つまものの種類が320以上、年商2億6千万円にのぼる。「忙しゅうて、病気になっとれんわ!」という高齢者の大活躍は、2012年秋映画『人生、いろどり』にもなった。キャッチコピーは、「もうヒトハナ、咲かそ」。
  • 新緑の美・・・モミジは、その紅葉の美しさから秋の季語になってはいるが、鮮やかな新緑、深緑に染まる季節も見応えがある。
  • 清流とヤマモミジ
  • 翼果・・・2つの種子が長さ約2cmでほぼ水平に開き、褐色に熟す。 翼があるプロペラ型の形状は、風で親木からできるだけ離れた所に運ばれるためである。クルクル回転しながら飛んで落ちる。
  • 翼果で判別・・・ヤマモミジとイロハモミジ、オオモミジは似ているので判別が難しい。見分けのポイントは、翼果。ヤマモミジとオオモミジは、翼果はブーメラン形かU字状となり、実は葉の下からぶら下がるように付く。オオモミジはヤマモミジよりも翼果が大きく、またU字状を呈するものが多いという傾向がある。一方、イロハモミジの実は一番小さく、翼果は竹とんぼのように、水平に開く。 
  • 樹皮・・・暗灰褐色で、はじめは滑らかだが、成木になると浅く縦に割れる。 
  • 深緑と葉の縁が浅く色付くのも風情があって美しい
  • 秋の美・・・古来より紅葉は、春の花に対して秋の美を代表するもの。 
  • 紅葉の代表樹種はモミジ・・・ヤマモミジは、陽の当たり具合によって、同じ木でも黄色から赤など様々な色に染まる。特に紅葉の初期は、その微妙な変化が美しい。 
  • 木の葉が紅葉するのはなぜ?
    1. 樹木の葉は、黄色系色素のカロチノイドと緑の色素クロロフィルを持っているが、通常はクロロフィルの含有量が多いため緑に見える。
    2. 秋になると、葉を落とす準備として、葉の付け根の所に離層というミゾができる。そしてクロロフィルが分解されてカロチノイドが残るので、黄色く色づく。
    3. 葉に蓄積した糖類が紫外線を浴び、アントシアンやタンニン系の色素に変化する樹木は、それぞれ赤や茶に紅葉する。 
  • 同じ木でも葉の色が違うのはなぜ?・・・赤色のアントシアンの生成には、日光、夜間の冷え込みが条件となっている。枝先の葉に比べ、木陰、葉陰の葉は、日中の光、夜の冷え込みが不足しているので、同じ木でも赤と黄色が現れる。これは紅葉する木全てにあてはまるという。 
  • 俳句
    青空の押し移りいる紅葉かな 松藤夏山
    紅葉して桜は暗き樹となりぬ 福永耕二
    山暮れて紅葉の朱を奪いけり 与謝野蕪村
    日の暮の背中淋しき紅葉哉 小林一茶
    古寺に灯のともりたる紅葉哉 正岡子規 
  • うらを見せおもてを見せて散るもみぢ 良寛
    色付や豆腐に落ちて薄紅葉 芭蕉
  • 用途・・・庭園、公園、街路、生垣、盆栽、建築・器具材
  • 菅江真澄と紅葉「高松日記」(1814年)・・・(湯沢市泥湯沢)老爺も疲れて休んでいるが、その蓑や笠の上に紅葉が散りかかって美しい。
    いつのまにいろいろ衣ぬきかえて紅葉のにしききつるやまかつ
    ・・・(湯沢市桁倉沼)岸辺の紅葉で、たいそう見事なのがあったので、人のところへ贈ろうと、懐紙に押し包んで歌を書きつけた。
    もみち葉に人のことの葉照り添へと夕日の色を折てこそやれ
  • ・・・松の群立つなかに、紅葉した木々が薄く濃く、見えたり隠れたりしているさまは、画にも描きたいような風景である。日もようやくかたむくころ、上新田村(湯沢市)についた。
  • 童謡「もみじ」(高野辰之作詞)
    1. 秋の夕日に 照る山もみじ
      濃いも薄いも 数ある中に
      松をいろどる 楓(かえで)や蔦(つた)は
      山のふもとの 裾模様(すそもよう)
    2. 渓(たに)の流れに 散り浮くもみじ
      波に揺られて 離れて寄って
      赤や黄色の 色さまざまに
      水の上にも 織る錦(にしき)
  • クリプトン前庭のヤマモミジ紅葉(バックの黄葉はトチノキ)
イロハモミジ
  • イロハモミジ(似呂波紅葉、カエデ科)

     福島県以南の主に太平洋側に分布。高さは10~15m、大きいものは30mになる。葉は、掌状に深く5~7裂する。秋を真っ赤に彩る紅葉の代表的な樹木で、モミジと言えば本種のことを指す。公園や庭園、寺院、庭木によく植えられているが、本来の自生は日当たりの良い谷沿いである。
  • 名前の由来・・・葉が7つに裂けているので、「イロハニホヘト」と数えたことが和名の由来。
  • ・・・裂片は5~7つで、ヤマモミジやオオモミジより細い。鋸歯は粗く、重鋸歯になる。
  • 樹皮・・・淡い灰褐色で、縦に細かい筋が入る。
  • イロハモミジの紅葉
オオモミジ
  • オオモミジ(大紅葉、カエデ科)

     イロハモミジの変種で、主に太平洋側の山地の谷間によく生える。イロハモミジより一回り大きくやや浅めに裂け、よくそろった鋸歯が葉の縁に並ぶ。秋、澄んだ赤に紅葉する。高さは10~13m。庭や公園にも植えられ、園芸品種も多い。
  • ・・・縁の鋸歯は細かく、左右が整然と揃うのが特徴。直径7~11cmと大きく、基部が心形で、掌状に7~9裂する。イロハモミジより幅が広く、先端は尾状にやや尖る。
  • 実は2個ずつ向き合い、プロペラ型の翼を広げる。
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  • 「紅葉狩り」の風習・・・日本最古の和歌集「万葉集」には、既に「もみじ」を題材にした歌が収められている。紅葉を愛でる文化が深まったのは平安時代・・・貴族の間では、「紅葉狩り」の風習が広がった。ただし、紅葉狩りが庶民の行楽として広がったのは、江戸時代中期以降。富裕な商人が生まれ、町民文化が華やかになると、紅葉狩りは行楽として爆発的な人気になった。ちょうどそのころ、庶民の間でお伊勢参りなどの旅行ブームも起きた。その火付け役となったのが『都名勝図会』などの名所案内本。紅葉の名所を紹介すると、たちまち多くの人が押し寄せた。さらに現代と同じく、紅葉の木の下に幕を張り、お弁当やお酒を持ち込んで花見同様どんちゃん騒ぎをしたらしい。
  • 岩走る水にかつ散る紅葉あり 怒愛庵
  • 形見とて/何か残さむ/春は花/山ほととぎす/秋はもみじ(良寛)
  • 雅と無常・・・「桜と同じように紅葉は季節を代表する植物で、能にも歌舞伎にも゛紅葉狩゛があります・・・日本的な哲学である雅と無常を兼ね備えているという点では紅葉も桜も似ているのですが、冬をひかえた秋の紅葉は、春の訪れを告げる桜より、さらに無常観が強いようです。・・・吉野の桜や鴨川岸の桜、あるいは奥入瀬渓谷や日光いろは坂の紅葉は森と水の国日本の素晴らしい景観の代表的なものなのでしょう。そして多くの日本人は、古来からそうした美しさや虚しさを賞でる心を育んできたのです」(「辺境から中心へ 日本化する世界」榊原英資、東洋経済新報社)
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社) 
  • 「辺境から中心へ 日本化する世界」(榊原英資、東洋経済新報社)