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樹木シリーズ25-2 クヌギ

  • 農耕社会を象徴する樹木・クヌギ(ブナ科)
     関東地方の里山の原風景は、クヌギとコナラの林。炭を焼くには、コナラよりも成長が早いクヌギを多く植林したと言われている。シイタケのホダ木としても需要が高い。伐採しても、すぐに萌芽し成長が早いので、炭の産地では8年間隔くらいで伐採、利用された。子どもたちにとっては、カブトムシやクワガタが集まる木としてヒーロー的な存在である。クヌギ・コナラの雑木林は、農耕社会を象徴する森と言われている。 岩手・山形県以南に分布。
  • 名前の由来・・・日本書紀の伝承説話からきた「国木(くにき)」という説や、ドングリが食べられることから「食之木(くのき)」から転訛、葉の形がクリによく似ていることから「栗似木(くりにぎ)」の意味が転訛したとの説などがある。 
  • 花期・・・4~5月、高さ15m 
  • ・・・本年枝の下から黄褐色の雄花を垂らし、上の葉腋に雌花をつける。雄しべは3~6本あり、膨らんだ黄緑色の葯が開くと、黄色の花粉が出る。
  • ・・・クリの葉に似ているが、クリは鋸歯の先の針状の部分まで緑色なのに対して、本種は葉緑体がなく白い。 
  • クヌギの紅葉
  • 樹皮・・・灰褐色で、細かく縦に裂け、樹液にカブト虫やクワガタ、ハチ、チョウなどが集まる。 
  • クヌギの樹液を吸うゴマダラチョウ
  • 虫が集まる木・・・クヌギの幹から樹液がしみ出ている木があれば、カブトムシやクワガタ、チョウ、スズメバチ、甲虫類など、多くの昆虫が樹液を求めて集まってくる。子どもたちにとって、雑木林の代表的な樹木であるクヌギとコナラは、大好きなカブトムシやクワガタが集まる木として人気が高い。中でもクヌギには、多くの昆虫が集まるので「雑木林の王様」と呼ばれているらしい。残念ながら秋田には自生していない。しかし、植物園や公園に植えられているので、ミズナラ、コナラだけでなく、植栽されたクヌギにも昆虫採集の穴場があるかもしれない。
  • 特徴的なドングリ・・・ドングリは2年型で、次の年の秋に熟す。丸いドングリとモジャモジャの殻が特徴。数あるドングリの中でも直径約2cmと大きく、ほぼ球形で、半分は椀型の殻斗に包まれている。どんぐりコロコロの歌は、この実を転がせばわかる。 ドングリのお尻に楊枝を刺してコマにしたりする。ブタのエサにもしたという。
  • 玩具・・・昔から独楽(こま)や笛、やじろべえなどの玩具に利用されている。 
  • 農耕社会を象徴する森・・・コナラ・クヌギの雑木林は、日本の農耕の始まりに深くかかわっていると考えられ、稲作や畑作に欠かせない森であった。ブナ・ミズナラ林は、狩猟採集社会を象徴する原始の森に対して、クヌギ・コナラの雑木林は、農耕社会を象徴する森と言われている。 
  • 水田農耕と里山・・・水田農耕では一定の土地を繰り返し使用するため、土地が次第に痩せてくる。そこで、集落近くの里山から落ち葉や下草を集め、人や家畜の糞尿とともに堆肥として田や畑にすき込んだ。その際、ドングリのなるコナラやクヌギなどの雑木の落ち葉が一番良いとされた。
    「山が痩せれば田が肥える」・・・山の落ち葉をみんなで集めてくれば、山の土は養分が少なくなっていくが、田んぼは有機肥料をもらって肥えていくという意味である。極端な例では、山が痩せた結果、アカマツ林になったという例もある。
     里山の落枝や下木は「いろり」や「かまど」で燃料として使われた後、木灰として灰桶に集められカリ肥料として田畑にまいた。こうして農業の再生産が維持されてきた。また、8~ 20 年の周期で、クヌギやコナラを伐採して萌芽更新を行い、効率的に燃料用の薪や炭も得てきた。その里山には、キツネやイタチ、フクロウ、鷹などもやってきて、農耕の敵であるネズミを退治してくれた。
  • ヒコバエ(萌芽更新)利用の民俗(写真:ミズナラのヒコバエ)・・・薪炭材などに利用するために伐採した後、実生の木を育てて、その成長を待って再利用するのではなく、切株、すなわち台木から生えてくるヒコバエを効率的に利用するという方法である。
     例えばクヌギの場合、地上一尺~1mほどで伐ってこれを台木にする。その台木から生えてくるヒコバエの生長は早く、一般的に15年以下で伐って利用した。特に炭焼きの場合は、8年ほど経つと炭木にすることができたので、その効率を一気に高めた。実生の場合は20年以上かかるので、ヒコバエ利用の方が効率が良いのである。
  • 利用・・・シイタケ栽培のホダ木としてよく利用される。薪炭材。特に茶道用の高級炭・菊炭の原料として利用されている。落葉は腐葉土として作物の肥料に。その他建築材、器具材、車両、船舶。
  • 茶道用の菊炭の条件・・・切り口が菊の花のように美しい割れ目としまりがあること、樹皮が薄く密着していること、真円に近いこと、燃やしている間にはぜないこと、燃え尽きた後にも白い灰が粉雪のように残るなどの風情、火付き、火持ちがよいことである。これらの条件を満たす樹木がクヌギと言われている。さらにクヌギ林は、8~10年ごとに同じ林を伐採して利用できるので、利用効率が高いのも大きな特徴である。
  • 縄文人の主食はドングリ・・・だからクヌギの実も縄文時代の遺跡から発掘されている。渋味があるので、そのままでは食用にならないが、水さらしや灰汁を利用してアクを抜き食べていた。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「日本の樹木」(舘野正樹、ちくま新書)
  • 「NHK趣味悠々 樹木ウォッチング」(日本放送出版協会)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「生態と民俗」(野本寛一、講談社学術文庫)
  • 「木の教え」(塩野米松、ちくま文庫)
  • 「探して楽しむドングリと松ぼっくり」(平野・片桐共著、山と渓谷社)