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樹木シリーズ25 カシワ、クヌギ

INDEX カシワ、クヌギ
  • カシワ餅を包む葉でおなじみのカシワ(柏、ブナ科)

     痩せ地や乾燥に強いので、海岸の丘陵、岩礫地に群落をつくることが多い。5月5日の端午の節句にお供えされるカシワ餅に葉が使われる木で、寒冷地に多い。丸く尖らない波形の鋸歯をした大きな葉が特徴。冬になっても一部の葉が枯れたまま落葉せずに残るので、ユズリハと同じく子孫繁栄を象徴する縁起の良い木とされている。ドングリはクヌギに似て卵球形で、下部は総苞片が密生する殻斗に包まれている。 
  • 名前の由来・・・和名は、その葉に料理を盛ったり、食物を蒸したりする時に使ったことから「炊(かし)ぐ葉」の意味から。昔は、料理に使ったり食べ物を盛ったりする葉は、どれもカシハと呼ばれた。柏餅は、平たく丸めた上新粉の餅を二つに折り、間に餡をはさんでカシワの葉で包んだ和菓子のこと。5月5日の端午の節句の供物として用いられる。
  • ミズナラとカシワの見分け方その1・・・カシワとミズナラは、同じブナ科コナラ属に属し、葉がラセン状につくこと、葉柄がほとんどない点で良く似ている。両者の葉を比べると、カシワ(上写真左側)の葉は大きく、縁は大きな波形だが、ミズナラ(上写真右側)の葉は小さく、縁は鋭い三角状をしている点で容易に区別できる。
  • ミズナラとカシワの見分け方その2・・・ カシワのドングリはモジャモジャした深い帽子をかぶっているのに対して、ミズナラのドングリの帽子は浅く外側に粒状の突起がある点で容易に区別できる。
  • 花期・・・5~6月、高さ10~15m
  • ・・・雄花は垂れ下がり、雌花は本年枝の葉の付け根のすぐ上(葉腋)につく。雄しべはふつう8~14本で、葯が開くと黄色の花粉が出る。
  • ・・・葉柄はほとんどなく、鋸歯は丸い波形で、縁は波打つことが多い。葉は枝先に集まる傾向がある。若葉は餅を包むのにピッタリ。大きなものは30cmにもなり、厚くて破れにくい。柏餅は、平たく丸めた上新粉の餅を二つに折り、間にアンをはさんでカシワの葉で包んだ和菓子のこと。 
  • 透過光で見上げる深緑
  • 樹皮・・・黒褐色で厚く、縦に不規則に割れる。カシワの樹皮から採れるタンニンは最高級品で、北洋漁業の網の染色や皮なめし(軍靴、軍装の皮製品製造など)に大量に使われた。
  • 厚いコルク質の樹皮があるので、山火事の後にも生き残り純林をつくることがある。
  • ドングリ、モジャモジャした帽子が特徴・・・やや長めの球形で、殻斗は長くて反り返った鱗片が密生する。モジャモジャした帽子が特徴的で、一見ライオンの毛のようにも見える。葉は大きいが、ドングリは、クヌギよりふたまわりも小さい。
  • 救荒植物の一つ・・・ナラ類のドングリと並び、飢饉の際の救荒植物として利用された。ただし、タンニンを含むため渋いので、渋抜きしないと食べられない。実は粉に挽き団子にして食べたり、炒ってコーヒーの代用にもされた。
  • 冬になっても葉が落ちない理由・・・晩秋になっても葉柄に離層がよく発達しないためで、同属のクヌギやアベマキなどもこの傾向がある。木枯らしが吹くと、カサカサと鳴る。
  • 縁起の良い木・・・冬になっても枯れた一部の葉が残り、枝が太くたくましいことから、縁起の良い木、めでたい木とされている。だから男の子が生まれると、その子がたくましく育ち、立派に次の代に継げることを祝って屋敷内に植えることもあった。また、端午の節句には、このカシワの葉を使った柏餅をつくって、男の子の成長を祝ったりする。
  • アイヌの伝説・・・アイヌが和人にカシワの葉が落ちる頃に返すといって金を借りた。和人はきっと葉が落ちる秋に金を返すのだと思って、秋に返済を催促した。ところが、アイヌの人に、カシワを指さして、まだ、落葉していないと言われ、春まで待たされた。
  • 神職の家紋によく使われる・・・源氏物語や枕草子には「かしは木は、はもりの神」と出てくるが、これは秋になると葉を守る神が木に宿るということ。そのためカシワの木は神聖視され、神職の家紋などによくこの葉の模様が使われた。ローマにも神の宿る木としてジュピターの祭壇にヨーロッパガシワの枝を捧げる風習がある。 
  • 用途
    1. 材のまわりは黄褐色で、中ほどは暗赤褐色をしている。
    2. 材は重く硬いので、土台や枕木、ウイスキーの樽、キノコの原木などに利用される。
    3. カシワの葉には、緑茶などと同じく、カテキンやタンニンが多く含まれていることから、「かしわ茶」に利用されている。 
  • キノコの原木・・・シイタケ、ナメコ、クリタケなどの原木としても利用されている。
クヌギ
  • 農耕社会を象徴する樹木・クヌギ(ブナ科)

     関東地方の里山の原風景は、クヌギとコナラの林。炭を焼くには、コナラよりも成長が早いクヌギを多く植林したと言われている。シイタケのホダ木としても需要が高い。伐採しても、すぐに萌芽し成長が早いので、炭の産地では8年間隔くらいで伐採、利用された。子どもたちにとっては、カブトムシやクワガタが集まる木としてヒーロー的な存在である。クヌギ・コナラの雑木林は、農耕社会を象徴する森と言われている。 岩手・山形県以南に分布。
  • 名前の由来・・・日本書紀の伝承説話からきた「国木(くにき)」という説や、ドングリが食べられることから「食之木(くのき)」から転訛、葉の形がクリによく似ていることから「栗似木(くりにぎ)」の意味が転訛したとの説などがある。 
  • 花期・・・4~5月、高さ15m 
  • ・・・本年枝の下から黄褐色の雄花を垂らし、上の葉腋に雌花をつける。雄しべは3~6本あり、膨らんだ黄緑色の葯が開くと、黄色の花粉が出る。
  • ・・・クリの葉に似ているが、クリは鋸歯の先の針状の部分まで緑色なのに対して、本種は葉緑体がなく白い。 
  • 樹皮・・・灰褐色で、細かく縦に裂け、樹液にカブト虫やクワガタ、ハチ、チョウなどが集まる。 
  • 虫が集まる木・・・クヌギの幹から樹液がしみ出ている木があれば、カブトムシやクワガタ、チョウ、スズメバチ、甲虫類など、多くの昆虫が樹液を求めて集まってくる。子どもたちにとって、雑木林の代表的な樹木であるクヌギとコナラは、大好きなカブトムシやクワガタが集まる木として人気が高い。中でもクヌギには、多くの昆虫が集まるので「雑木林の王様」と呼ばれているらしい。残念ながら秋田には自生していない。しかし、植物園や公園に植えられているので、ミズナラ、コナラだけでなく、植栽されたクヌギにも昆虫採集の穴場があるかもしれない。
  • 特徴的なドングリ・・・ドングリは2年型で、次の年の秋に熟す。丸いドングリとモジャモジャの殻が特徴。数あるドングリの中でも直径約2cmと大きく、ほぼ球形で、半分は椀型の殻斗に包まれている。どんぐりコロコロの歌は、この実を転がせばわかる。 ドングリのお尻に楊枝を刺してコマにしたりする。ブタのエサにもしたという。
  • 玩具・・・昔から独楽(こま)や笛、やじろべえなどの玩具に利用されている。 
  • 農耕社会を象徴する森・・・コナラ・クヌギの雑木林は、日本の農耕の始まりに深くかかわっていると考えられ、稲作や畑作に欠かせない森であった。ブナ・ミズナラ林は、狩猟採集社会を象徴する原始の森に対して、クヌギ・コナラの雑木林は、農耕社会を象徴する森と言われている。 
  • 水田農耕と里山・・・水田農耕では一定の土地を繰り返し使用するため、土地が次第に痩せてくる。そこで、集落近くの里山から落ち葉や下草を集め、人や家畜の糞尿とともに堆肥として田や畑にすき込んだ。その際、ドングリのなるコナラやクヌギなどの雑木の落ち葉が一番良いとされた。
    「山が痩せれば田が肥える」・・・山の落ち葉をみんなで集めてくれば、山の土は養分が少なくなっていくが、田んぼは有機肥料をもらって肥えていくという意味である。極端な例では、山が痩せた結果、アカマツ林になったという例もある。
     里山の落枝や下木は「いろり」や「かまど」で燃料として使われた後、木灰として灰桶に集められカリ肥料として田畑にまいた。こうして農業の再生産が維持されてきた。また、8~ 20 年の周期で、クヌギやコナラを伐採して萌芽更新を行い、効率的に燃料用の薪や炭も得てきた。その里山には、キツネやイタチ、フクロウ、鷹などもやってきて、農耕の敵であるネズミを退治してくれた。
  • ヒコバエ(萌芽更新)利用の民俗(写真:ミズナラのヒコバエ)・・・薪炭材などに利用するために伐採した後、実生の木を育てて、その成長を待って再利用するのではなく、切株、すなわち台木から生えてくるヒコバエを効率的に利用するという方法である。
     例えばクヌギの場合、地上一尺~1mほどで伐ってこれを台木にする。その台木から生えてくるヒコバエの生長は早く、一般的に15年以下で伐って利用した。特に炭焼きの場合は、8年ほど経つと炭木にすることができたので、その効率を一気に高めた。実生の場合は20年以上かかるので、ヒコバエ利用の方が効率が良いのである。
  • 利用・・・シイタケ栽培のホダ木としてよく利用される。薪炭材。特に茶道用の高級炭・菊炭の原料として利用されている。落葉は腐葉土として作物の肥料に。その他建築材、器具材、車両、船舶。
  • 茶道用の菊炭の条件・・・切り口が菊の花のように美しい割れ目としまりがあること、樹皮が薄く密着していること、真円に近いこと、燃やしている間にはぜないこと、燃え尽きた後にも白い灰が粉雪のように残るなどの風情、火付き、火持ちがよいことである。これらの条件を満たす樹木がクヌギと言われている。さらにクヌギ林は、8~10年ごとに同じ林を伐採して利用できるので、利用効率が高いのも大きな特徴である。
  • 縄文人の主食はドングリ・・・だからクヌギの実も縄文時代の遺跡から発掘されている。渋味があるので、そのままでは食用にならないが、水さらしや灰汁を利用してアクを抜き食べていた。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「日本の樹木」(舘野正樹、ちくま新書)
  • 「NHK趣味悠々 樹木ウォッチング」(日本放送出版協会)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「生態と民俗」(野本寛一、講談社学術文庫)
  • 「木の教え」(塩野米松、ちくま文庫)
  • 「探して楽しむドングリと松ぼっくり」(平野・片桐共著、山と渓谷社)