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樹木シリーズ26サンショウ、イヌザンショウ

INDEX サンショウ、イヌザンショウ
  • 郷土料理に欠かせない木・サンショウ(山椒、ミカン科)

     平地や低山帯に自生し、栽培や人家の生垣などにも植えられる落葉低木。トゲは、葉柄の基部に対生する。葉にも果実にも特有の香りがあるので、郷土料理によく使われる。昔は、この木の皮が毒流しで渓流魚を獲る場合によく利用された。太い幹はすりこぎに、葉はアゲハチョウの食草、ハチに刺された時の薬草としても知られる。 
  • 名前の由来・・・山椒の椒は、辛いものを表し、山の辛い実の意味に由来する。 
  • 見分け方・・・サンショウのトゲは対生するが、イヌザンショウは互い違いに互生する。サンショウの鋸歯は、大きく粗いが、イヌザンショウの鋸歯は細かく、葉も細長い。サンショウの葉は、スパイシーな芳香が強いが、イヌザンショウは香りが劣る。 
  • 花期・・・4~5月、高さ2~4m。黄緑色の小さな花を多数開く。 
  • ・・・縁の鋸歯は大きく粗い波形。若葉にはよく黄緑色の紋が現れる。葉をかいでみると、スパイシーさとカンキツ類のさわやかさが混ざったような芳香がある。だから葉は料理のツマとして、魚を煮る時には臭み消しとして利用される。アゲハチョウの幼虫がつくことが多い。 
  • 樹皮・・・幹が太くなるにつれてトゲは次第になくなり、こぶ状の突起が残る。太い幹は、こぶだらけなので、すりこぎとして使われる。すりこぎは、使うたびに微かな香りが立つので人気が高い。 
  • 山椒すりこぎ・・・サンショウのすりこぎ棒は堅くて香気があり、するたびに木が微量に削られるので、サンショウの香りが料理を引き立てるとともに、解毒作用もあるとされている。木の表面に凹凸があるので、握りやすい特徴もある。
  • 果実・・・紅色、赤褐色に熟し、裂けると中から黒い種子が現れる。赤と黒の二色効果で鳥を誘い、黒い種子を食べさせる。鳥は、種子の表面を覆う油分を摂取した後、種子本体は糞として排泄し、分布を広げる役割を果たす。 
  • 粉山椒のつくり方・・・果実を乾燥させ、果皮を粉末にしたものが香辛料の粉山椒である。赤く熟した実を採取したら、よく水洗いした後、1週間~10日程度、茶褐色になるまで自然乾燥させる。外側の果皮の殻と中の黒い種子を選別する。中の黒い種子は使わない。果皮の殻をスリバチに入れ、山椒すりこぎで押しつぶすように砕く。茶こしなどでふるいにかけると、粉山椒の完成。ふるいにかけて残った山椒も香料として使えるので捨てないこと。
  • 果実を食べる野鳥・・・オナガ、コムクドリ、ヒヨドリ、ルリビタキ、ジョウビタキ、キジバト、キジ、メジロなど。 
  • 香辛料・・・実は粉にすると良い香りがするので、ウナギのかば焼きや焼き鳥、パスタ、そうめん、七味唐辛子などの香辛料として広く利用されている。秋田では、若葉はみそ汁や吸い物にはなしたり、ワラビたたき、ミズたたき(右上写真)に入れたりする。実は、サンショウ味噌や佃煮などをつくる。 
  • 食用にする場合の採取時期・・・5月頃咲く花は「花山椒」として食用に。雌株の未熟な実を佃煮にするなら7月までに収穫し、薬味にするなら完熟する9月以降に採取する。 
  • アゲハチョウの食草・・・春芽を出して間もない頃から、葉が枯れ落ちる頃まで、アゲハチョウの幼虫が見られる。この幼虫を飼育箱に入れ、サンショウの葉を与えて飼育すると、美しい羽化が見られる。 
  • 果皮は薬用・・・サンショウには、舌がピリリとしびれるような効能がある。これはサンショオールという成分が神経に作用しているから。サンショオールは、大脳を刺激して内臓を器官の働きを活発にする作用があるとされ、健胃・整腸効果があるとされている。また、ハチに刺された時、葉をもんでつけるとよく効く鎮痛作用があるとされている。その他、強壮効果、冷え性を改善する効果、駆虫など。 
  • サンショウの生産地・・・和歌山県は、全体の収穫量の約7割を占め、日本一の栽培面積、生産量を誇る。栽培品種として有名なものは、和歌山県の「ブドウサンショウ」、兵庫県の「朝倉サンショウ」、静岡県の「林香寺サンショウ」が有名。 
  • 渓流の毒流し・・・真夏、渓流の渇水期を見計らって、サンショウの木を伐ってきて皮をはぎ、細かく切ってソバ殻を焚いた灰を混ぜてドロドロになるまで一晩中煮詰め、これを木灰でこねて握り飯くらいな大きさのダンゴにする。これを流れの中でもみほぐしながら水に溶かして流す。やがて、イワナが白い腹をみせなから水面近くへ飛び出してくるので、簡単に捕まえられたという。もちろん今は法律で禁止されている。
  • 宮沢賢治「毒もみのすきな署長さん」
    「火薬を使って鳥をとってはなりません、毒もみをして魚をとってはなりません。」・・・
    とにかくこの毒もみをするものをえるということは警察のいちばん大事な仕事でした。
    (ところが・・・)
    「そいつはもうたしかなんだよ。証拠というのはね、ゆうべお月さまの出るころ、署長さんが黒い衣だけ着て、頭巾をかぶってね、変な人と話してたんだよ。ね、そら、あの鉄砲ちの小さな変な人ね、そしてね、『おい、こんどはも少しよく、粉にして来なくちゃいかんぞ。』なんて云ってるだろう。それから鉄砲打ちが何か云ったら、『なんだ、カシワの木の皮もまぜておいたくせに、一俵二テールだなんて、あんまり無法なことを云うな。』なんて云ってるだろう。きっとサンショウの皮の粉のことだよ。」
     するとも一人がびました。
    「あっ、そうだ。あのね、署長さんがね、僕のうちから、灰を二俵買ったよ。僕、持って行ったんだ。ね、そら、サンショウの粉へまぜるのだろう。」
    「そうだ。そうだ。きっとそうだ。」みんなは手をいたり、こぶしをったりしました。・・・
イヌザンショウ
  • 香辛料にならないイヌザンショウ(犬山椒、ミカン科)

     山地や河原などに生える落葉低木。サンショウに似ているが、香りが劣り、葉も果実も香辛料にならないのが和名の由来。サンショウよりも小葉が細長く、鋸歯が細かい。葉をもむと臭みがある。幹を傷つけると悪臭が出る。決定的違いは、サンショウのトゲが対生するのに対して、互生する。
  • 枝にあるトゲは、互い違いに互生する。
  • サンショウよりも小葉が細長く、鋸歯が細かい。表面は濃緑色で光沢がある。
  • 花期・・・7~8月、高さ2~3m。
  • ・・・枝先に淡い緑色の小さな花を多数開く。雌雄異株。 
  • 果実ができる果柄は、紅色が目立つ。これは鳥たちに果実の場所を教え、種子散布をしてもらうためだと言われている。
参 考 文 献 
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹は語る」(清和研二、築地書館)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「秋田農村歳時記」(ぬめひろし外、秋田文化出版社)
  • 「続・読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)