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樹木シリーズ31-1 アセビ

  • 馬を酔わせる有毒植物・アセビ(馬酔木、ツツジ科)

     早春、スズランに似た白い釣鐘の花を鈴なりに咲かせ、万葉の昔から親しまれてきた。山形県以西に分布し、秋田では庭木や公園樹として植えられる。有毒植物で、牛や馬、ニホンジカはそのことを知っていて、この木を食べない。戦前は農作物の害虫防除や便所の殺虫剤として利用された。大気汚染に強く、日陰にもよく耐え、病害虫の心配もない、世話いらずの樹木である。 
  • 名前の由来・・・有毒の実を指す「悪し実」から転訛したとの説が有力。漢字の「馬酔木」は当て字とされ、馬がこれを食べると酩酊状態になる様子を表現したもの。有毒植物なので、馬や鹿、牛が嫌うことから、別名ウマクワズ、シカクワズ、ウシクワズとも呼ばれている。 
  • 花期・・・3~5月、高さ1.5~5m 
  • ・・・花は美しいが、有毒植物。枝先に円錐花序をだし、白い花が多数垂れ下がって咲く。花冠は壺形で先は浅く5裂する。花期は長く、まだ肌寒い3月頃から咲き始め、5月頃まで咲き続ける。
  • ・・・細い倒卵形の葉は明るい緑色で、枝先に集まってつく。鋸歯はとても小さく、厚い革質。側脈は網状で目立たない。 
  • アセビの新芽・・・艶のある若葉は赤くなることが多く、意外に美しい。 
  • 花芽・・・開花後、すぐに翌年の花芽の準備が始まる。花が終わった後に伸びた新梢の先端に、翌年の春に咲く花芽をつける。
  • 有毒成分・・・葉にも花にも含まれる。葉には、苦味質のアセボトキシン、グラヤノトキシン類、アセボチンなどが、花には、クエルセチン、ピエルストキシン類が含まれており、中毒すると嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、四肢麻痺などを起こす。 
  • 動物の食害から葉を守る・・・植物にとって葉は養分を作る器官なので、葉を食われることは生存にかかわる損失につながる。アセビの高さは、普通1.5~2mと低いので、馬や牛などに葉を食われやすい。だから、毒をもつことによって動物から葉を守っていると言われている。 
  • 有毒の葉を食べる凄技の虫もいる・・・蛾の仲間・ヒョウモンエダシャクは、アセビの葉を食べ、毒成分を体内に蓄積。この毒がわが身を鳥から守る防衛手段にしているという。 
  • 奈良公園にアセビが目立つ理由・・・シカが他の木は食べてもアセビだけは食べないからである。さらに近年「シカが日本の自然を食べ尽くす」と言われるほど急増したことから、シカの好む植物が激減し、アセビなどシカが食べない植物が目立ってきたと言われている。 
  • 樹皮・・・縦にややねじれながら裂け、剥がれる。 
  • ・・・アセビの花は下に垂れ下がって咲くが、実は上向きにつく。10月頃に熟す。種を播けば芽が出るものの成長は遅い。
  • 庭木に最適・・・常緑樹で花が美しく、虫も葉をほとんど食わないから庭木には最適。 
  • アケボノアセビ・・・花が紅色のアセビの品種で、稀に自生する。花の色は濃淡があり、濃い紅色の物をベニバナアセビという。
  • 万葉の歌・・・「あしび」、「あしみ」と呼ばれていた。
    磯の上に 生ふるあしび(アセビ)を 手折らめど 見すべき君が ありといはなくに 大伯皇女
    池水に 影さへ見えて 咲きにほふ あしみ(アセビ)の花を 袖にこきれな 大伴家持 
  • 俳句
    いつせいに鈴鳴るさまの花馬醉木  鷹羽狩行
    花馬酔木夫にたくらみあるやうな  杉浦典子
    花馬酔木鈴鳴らしつつ猫過る    中川悦子
    馬酔木咲く頃より疎遠はじまれり  伊藤淳子
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「植物民俗」(長澤武、法政大学出版局)
  • 「続・読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「秋田の山野草300選」(秋田花の会)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング) 
  • 「俳句歳時記」(角川学芸出版、角川ソフィア文庫)