本文へスキップ

樹木シリーズ32 ナナカマド

  • 燃えるような紅葉と鳥たちが好む赤い実・ナナカマド(七竈、バラ科)

     山地に生え、鮮やかな紅葉と冬まで残る真っ赤な実、鋸歯のある羽状複葉の葉が大きな特徴。赤い実は野鳥もよくついばむ。特に北海道や本州の高山に多く、紅葉も北国が主流。寒冷地では、庭木や公園、庭園、街路樹などに植えられる。 
  • 名前の由来・・・燃えにくく、七度カマドに入れてもなお燃え残るため、とするのが通説である。ナナカマドは、木材実質が多いため、火が着きづらく、燃え広がりにくいことから、簡単には燃え尽きない特徴がある。古くは薪炭材として利用されていた。別に、ナナカマドは木炭のよい材料になり、炭にするのに七日間カマドに入れる必要があるからなどの説がある。 
  • 花期・・・6~7月、高さ6~15m 
  • ・・・枝先に複散房花序をだし、白い花を多数開く。花弁は5個、雄しべは20個、花柱は3~4個。 
  • 花言葉・・・慎重、賢明、私はあなたを見守る 
  • ・・・奇数羽状複葉。小葉は4~7対あり、披針形で先が尖る。縁には浅く鋭い鋸歯がある。通常、葉柄と葉軸は赤みを帯びる。 
  • ナナカマドの新緑(八幡平) 
  • 樹皮・・・暗褐色で細長い皮目がある。 
  • 秋、赤い実と真っ赤な紅葉が美しい・・・高山の紅葉の主役はナナカマドで、天国を思わせるほど美しい。また十和田湖などの全山燃えるような紅葉の主役も、またナナカマドである。 
  • 錦繍の絨毯を敷き詰め、全山「炎立つ」栗駒山(撮影:2017年9月24日)・・・ナナカマド、ドウダン類の赤、ミネカエデ、ダケカンバの黄色、ハイマツの緑のコントラストが抜群に美しい。
  • 色彩の競演(同上のアップ)・・・真っ赤なのがサラサドウダン、黒くくすんだ赤がナナカマド、黄色がミネカエデ、緑がハイマツである。
  • 青空に映える真っ赤な実
  • 果実・・・平地では、葉が緑のうちに真っ赤に熟す。赤い実には、青酸配糖体を含んでいるので猛烈な苦味と渋味があり、生食には向かない。最近は果実酒に利用されている。 
  • レンジャク類とナナカマド・・・尾羽の先端が黄色いのがキレンジャク、赤いのがヒレンジャクで、いずれもナナカマドの赤い実が大好き。この美しい冬鳥を撮影するには、冬の果実の代表であるナナカマドやヤドリギの果実のある場所をあらかじめ探しておくといいらしい。 
  • 実を食べる野鳥・・・真っ赤な果実は、葉が落ちた後も残るので、野鳥を誘惑するには効果的。野鳥たちにとっては、食料が乏しくなる冬の貴重な食べ物である。ツグミ、ムクドリ、レンジャク類、カワラヒワ、ウソ、アトリ、ヒヨドリ、スズメ、カラスなど。 
  • 雪が降っても赤い実が腐らないのはなぜ?・・・白い雪と赤い実のコントラストは美しく、多くの鳥たちを誘惑する。冬になっても実が腐らないのは、実に含まれるソルビン酸の成分があるから。食品業界では、このナナカマドの実から発見されたソルビン酸のしくみを利用して、細菌やカビの増殖を防ぐ保存料として使用している。
  • 小説家「井上靖文学碑」(旭川市)に刻まれたナナカマド・・・私は17歳の、この町で生まれ、いま、百歳の、この町を歩く。すべては、大きく変わったが、ただ一つ、変わらぬものがありとすれば、それは、雪をかぶったナナカマドの、あの赤い実の洋燈(ランプ)。一歩、一歩、その汚れなき光に、足許を照らされて行く。現実と夢幻が、このように、ぴったりと、調和した例を知らない。ああ、北の王都、旭川の、常に天を望む、凛乎たる詩精神。それを縁どる、雪をかぶったナナカマドの、あの赤い実の洋燈
  • ライデンボク・・・生け花や花店では、ライデンボク、略してライデンと呼んでいる。落雷除けの伝承からきた名であると言われている。昔は、火災除けの木、落雷除けの木とされ、神社や城郭にも植えられた。 
  • 利用(写真:鹿角市の街路樹)・・・秋に美しく紅葉し、熟した果実は鮮やかな紅色を見せることから、街路樹や公園、庭園などに植栽される。古くは薪炭として利用された。
  • ナナカマドとウワミズザクラの白花、レンゲツツジの朱色の競演 (八幡平)
  • 色付き始めたナナカマドとアオモリトドマツ (八幡平)
  • 山頭火と枯れ草(「天声人語 自然編」辰濃和男)・・・「やっぱり一人はさみしい枯草」「枯れゆく草のうつくしさにすわる」・・・山頭火との「一夜」を大山澄太さんが「詩心と無我の愛」という本に書いている。寒い夜、山頭火をたずねた。雨戸もないぼろ小屋である。酒をくみかわしたあと、泊まった。一枚しかないふとんに寝かされたが、寒くて眠れない。やっと眠って、明け方めざめると、山頭火は黙然と座禅を組んでいる。ゆがんだ柱のすき間から寒風がヤリのように入ってくる。その風を、山頭火は自分の体をびょうぶにして、徹夜で防いでいたのだ。それを知った澄太さんは泣いた。
  • 俳句
    ななかまど色を点じて駒ヶ岳      松阪久美子
    ななかまどしっとり八幡平の雨意     高澤良一
    静謐(せいひつ)の実のななかまど教師老ゆ 長山満天星
    美しき真っ赤な嘘よ七竈         野田ゆたか 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版) 
  • 「天声人語 自然編」(辰濃和男、朝日新聞社)