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樹木シリーズ34 フジ、ハナズオウ・・・

INDEX フジ、ハナズオウシロバナハナズオウアメリカハナズオウ
  • ツル性花木の代表・フジ(藤、マメ科)

     新緑の頃、淡い紫色の花が滝のように何段にも連なる光景は圧巻である。その藤の花滝が、春の風に気持ち良さそうにそよぐ様を「藤波」という。花穂は長さ1mにも達し、甘い香りを漂わせながら上から下へと咲いていく。古事記や万葉集、枕草子、源氏物語、平家物語にも数多く登場するなど、古くから多くの人々に愛されている。野生種では、日本各地に自生するフジと東海地方以西のヤマフジの2種があり、両種から多くの園芸品種が作り出されている。
  • 名前の由来・・・中国のシナフジを「紫藤」とすることからとの説や、花が「吹き散る」から転訛したという説などがある。 
  • 花期・・・4~7月 
  • ・・・長さ20cm~1mの長い総状花序をだし、紫色の蝶形花を多数開く。花序は垂れ下がり、上から下へと順次咲いていく。 
  • 日本人が愛してやまなかった花・・・かつて藤の薄紫色は高貴のシンボルであった。聖徳太子が制定した冠位十二階では、最高の官職を表す色が藤色であった。万葉集では、二十首以上に詠まれ、枕草子では藤を「めでたきもの」の4番目としている。源氏物語の藤壺は、光源氏の理想の女性であった。 
  • 神聖な花・・・花の穂が豪華なために、古代には呪術性があると考えられていた。古事記には、フジ蔓でつくった装束を着て、難攻不落の美女を射止めるという話がある。また、神の降臨する依代として神聖視されたことから、家紋や様々な意匠などに使われている。藤原氏の氏神・春日大社には、藤原氏の名の由来にもなったフジが大切に育てられている。 
  • 藤棚・・・江戸時代には、藤棚が作られ始め、神が降臨する代表的な樹木・松に巻きつかせて観賞していたという。 
  • つる・・・つるは長く伸び、上から見ると右巻きにつく。寿命が長く、樹齢千年と推定されるものもある。古くから庭などに植えられ、主に棚づくりにする。山林中では、他の木に巻き付いて生活する落葉のツル植物。各地で天然記念物になっているようなフジは、幹の周囲が2mを超えるものも少なくない。これは、幹全体が太っているのではなく、部分的に太った枝が集まったもので、年輪は同心円状ではない。 
  • 太い幹・・・フジは、高い木にも巻き付いて天辺まで登る。それだけ根から吸い上げた水を自力で吸い上げるのは大変である。その分太い導管が必要になるので、幹はかなり太くなる。
  • 秋田スギにからみついたフジ
  • 迷惑な厄介者・・・フジは、他の木に絡みつくので、幹に余りコストをかける必要がない。他の木を踏み台にして、素早く生長し、最高の場所である樹冠を占領してしまう。こうして宿主の光を奪い、さらに幹を締め付ける。だから宿主にとっては迷惑千万な植物である。林業家は、スギなどの植林木に巻き付くフジは大敵で、つる切り作業は重要な仕事の一つである。
  • つる切り・・・木に巻き付くタイプのつるは、フジ(上の写真)やアケビ、クズなどが代表種である。これらのつるは、樹木に巻き付き、食い込むため、成長に必要な養分などをうまく送ることができないほか、幹に傷がつく。上のフジの断面を見ると、4年でかなり太くなっているのが分かる。つるは、樹木に巻き付いた後4年頃から急成長するので、その前に切り取るのが良いという。
  • ・・・奇数羽状複葉で、小葉は5~9対。小葉は長楕円形で、葉先が尖り、縁は波打つ。葉柄の基部が膨らむのも特徴。 
  • なぜ葉をたたむのか?・・・光が強いと、葉を折りたたんで陽の当たる面積を少なくしている。光合成には適度な光が必要だが、強過ぎると葉を傷つけたり、葉の水分を奪うなど有害となる。だから樹冠を覆うフジやクズは、陽射しが強過ぎる場合、葉を折りたたみ、自分の身を守ろうとする。
  • ・・・インゲン豆のように細長く、果皮はかたい。ビロードのような毛に覆われたサヤは、熟して乾くとねじれて勢いよく弾け、高い木の上から平たい種子を飛ばす。動物や風に頼らず自力で種子を飛ばすのが特徴。だから種子による繁殖は決して良くない。にもかかわらず、森の中でフジが多いのはなぜか。その答えは、クローン繁殖ができるからだという。
 
  • クローン繁殖・・・フジは、根元から放射状にホフク枝を伸ばし、地面を這いながら伸びてゆく。上の木が倒れて明るくなると、その直下のホフク枝から芽が出て、近くの木に巻き付く。新たな宿主に巻き付くと、素早く生長する。ホフク枝は、地表を這うので自分を支える必要がない。極めて低コストでチャンスをものにすることができる。
  • 宿主が枯れたらどうするの?・・・フジは、宿主と共生する戦略ではなく排他的な戦略をとる。だから宿主は次第に弱り枯れてしまう。だからフジは、普段から隣の木の樹冠にも枝を広げる、宿主が枯れると、隣に簡単に引っ越すことができる。隣に適当な木がない場合でも、上記のクローン繁殖で生き延びることができる。まさに「空間の魔術師」と呼ばれる所以である。
  • こういう排他的な植物が増えすぎると、最後は自滅するようにも思うが・・・それだけ森の中では、自立している生きる樹木が圧倒的に多いということだろう。
  • 食用・・・2分咲きの花穂の天ぷらは、花の色と甘い香りが素晴らしい。フジの花は、ビールやホワイトリカーと相性がいい。ビールのジョッキに、八分咲きのフジの花を一房入れると、花の甘い香りと微かな糖分がビールに溶け込み美味しい。また、半開きほどの花を摘み取り、2~3倍量のホワイトリカーに漬けて、花を7~14日で容器から引き上げると、ダークな赤褐色の辛口リキュールができる。 
  • 菅江真澄とフジ「おがらの滝」(1807年4月10日、峰浜村)・・・続橋を行くと、これほど広い野にほかの草木は全く茂らず、濃い紫の花をもった藤ばかりが生い重なり、今その花盛りで、夕日に輝くさまは、世にまたとたとえるものもない景色である。しばらくたたずんで眺めた。
  • 菅江真澄、藤里町藤琴の名の由来「しげき山本」・・・昔たいそう大きな桐の木があったが、それに年を経た藤がからまり、桐の木が倒れそうに見えたので伐って、それで琴をつくり、どの帝の御代であったか、献上した・・・この村を藤琴とよぶ由来は、こういうことであるといわれている。
  • フジ蔓の利用・・・ツルは丈夫で、かごを編んだり、物をしばったり、リース作りなどに使われている。 
  • 繊維を採る・・・そのためのフジ蔓刈りは、春から夏に行った。フジ蔓には男と女があり、刈ってくるのは花が咲かない男蔓である。そのまま編んで「フジもっこ」を作ったほか、皮を剥いで釜で煮て縄にしたり、細かく裂いて糸にし布を織った。雪袴や半纏のほか、夏の汗取りにすると汗が肌につかなくて良かった。丈夫な布なので、豆腐を作る時のしぼり袋や雑穀を入れる袋などにもした。 
  • 牛馬の虫除け・・・夏になると、おびただしいアブや吸血虫が大発生し、牛馬に群がりついて吸血するので、暴れてしょうがなかった。そこでフジやヤマブドウの皮を裂いて縄にし、暖簾状に編んで牛馬の首や背から垂らして、馬や牛が動くたびに揺れて虫が吸血できないようにした。 
  • クライミングプランツ(つる性植物)・・・イギリスではフジの淡い紫の花が人気で、家の外壁を飾るクライミングプランツとしてよく使われている。クライミングプランツは、アーチやフェンスなどに絡めると旺盛に生育し、美しい葉や花で庭を立体的に演出することができる。最近では、壁面緑化や夏の強い日差しを避けるための緑のカーテンとしても注目されている。 
  • 俳句
    くたぶれて宿かるころや藤の花 芭蕉
    物好に藤咲かせけり庭の松 正岡子規
    藤の花雲の梯(かけはし)かかるなり 蕪村
ハナズオウ
  • 鮮やかな紅紫色の花とハート形の葉・ハナズオウ(花蘇芳、マメ科)

     中国原産で、1695年以前に渡来した。花は、葉が出る前に咲き、蝶のような形で鮮やかな紅紫色の花を枝にびっしりつける。葉は、きれいなハート形で、葉柄の両端が膨らむのが特徴。果実は、さや状の平らな果実がたくさんつく。耐寒性もあり、北海道南部から九州の庭園によく植えられている。
  • 名前の由来・・・古くから紅色の染料として使われてきた蘇芳(すおう)という熱帯原産の蘇芳染めに花色が似ていることから、「花蘇芳(はなずおう)」と書く。
  • 花期・・・4月、高さ5m、原産地では最大15m
  • ・・・葉に先立って、ほうきのように伸びた枝に紅紫色の蝶形花が集まって咲く。春の庭では一際目立ち、満開時は実に華やか。
  • ・・・花が終わると大形の丸い葉が広がる。整ったハート形で、光沢がある。葉柄の基部が目立って膨らむ。
  • ・・・さやは平たく、びっしりつく。中に扁平な種子が入っている。
シロバナハナズオウ
  • ハナズオウの白花園芸品種。
  • 名前の由来・・・白花を咲かせるハナズオウの意味から。
アメリカハナズオウ
  • アメリカハナズオウ・・・北アメリカの中部から東部に分布する同属別種。大木になり、花は小形で淡紅色。
  • 花もハート形の葉も美しい・・・花期は4月。可愛らしいハート形の葉は、色変わりが見事。カラーリーフとしての価値の高い樹木で、鑑賞期間は4~7月と長い。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「NHK趣味悠々 樹木ウォッチング」(日本放送出版協会)
  • 「日々の風景」(野呂希一・荒井和生、青青社) 
  • 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)