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 樹木シリーズ27 ヤマボウシ、ハナミズキ

INDEX ヤマボウシ、ハナミズキ
  • 雪に覆われたような白花と甘い果実・ヤマボウシ(山法師、ミズキ科)

     ヤマボウシは、ミズキと同じく階段状樹形を示す。初夏、白い手裏剣のような形をした4枚の総苞が開き、その真ん中に小さな花を球形状につける。緑の葉の上を白い総苞が埋め尽くすように飾ると、真っ白な雪に覆われたように美しい。春を代表するコブシに対して、初夏を代表する花の一つで、庭木や公園樹、街路樹としてよく植栽される。実は、上向きにサクランボほどの大きさになり、10月頃に赤く熟すと食べられる。葉も花も北米原産のハナミズキに似ているが、果実は全く異なる。 
▲ヤマボウシの花  ▲ハナミズキの花 
  • ヤマボウシとハナミズキ(アメリカヤマボウシ)の見分け方
    1. 花はハナミズキより約1ヶ月遅く咲く。
    2. 白い総苞の先端が手裏剣のように尖るが、ハナミズキは窪む。
    3. 果実は集合果で赤く熟すが、ハナミズキは楕円形の核果で深紅色に熟す。
    4. ハナミズキの樹皮は縦に細かく裂けるが、ヤマボウシは裂けない。 
  • 名前の由来・・・花の中央に位置する丸い集合果を坊主頭に、白い総苞片を頭に巻く白い布に見立てて、「山法師」と書く。果実が食用になるので、秋田では、ヤマグワ(山桑)、ヤマクワとも呼ばれている。 
  • 花期 6~7月 高さ5~10m 
  • ・・・白い花弁のように見えるのは、花ではなく4個の総苞片で、1片の長さは6cmほどと大きい。花は、その中心にある緑の部分。小さな花が20~30個集まった球状になる。 
  • 球状に集まっている花のアップ 
  • 花の当たり年・・・花が良く咲く当たり年は、2~3年に1度と言われる。良い年は、艶のある緑の葉に、おびただしいほどの白い花つけ、まるで木全体が雪に覆われたように見える。遠くからでも良く目立つ。 
  • 一斉に踊る花・・・真ん中の緑の球を頭に、長い花柄をつま先立ちした足に、白い総苞片を横に開いた白いドレスに例えると、まるでバレリーナたちが一斉に踊っているような姿にも見える。
  • ・・・幅の広い楕円形で、縁が細かく波打ち、鋸歯のように見える。葉裏の葉脈の脇に茶色い毛が生えるのが特徴。 
  • 新緑・・・透過光で見上げると美しい。その美しさは、見た目だけでなく、森林生態系を支える重要な働きをしているからであろう。その葉の働きとは・・・
  • 解説「葉の働き・森林生態系を支える原動力」・・・葉の葉緑素が取り込んだ光を受けて、根の根毛から吸い上げた水を酸素と水素に分ける。酸素は外に出す。残った水素と、葉裏の気孔から取り入れた二酸化炭素を結び付けてブドウ糖(光合成)をつくる。ブドウ糖は、根から取り入れた窒素、リンなどの肥料分と結合し、タンパク質、デンプン、脂質などの有機物になる。植物は、自らつくった有機物を養分に成長する。その植物を草食動物が捕食し、その草食動物を肉食動物が捕食する、いわゆる食物連鎖によって、有機物とそこに蓄えられたエネルギー源は、生物間を伝わっていく。つまり、葉による光合成は、森林生態系を支える原動力になっている。
  • 階段状樹形・・・枝先の芽が春に展開すると、上に伸びる枝と横に伸びる枝を出し、毎年、それを繰り返して独特の階段状樹形をつくる。 
  • 花が終わると青い実が上向きにできる
  • 秋になると次第に赤く熟し始める
  • 食用になる果実・・・サクランボ大の集合果で球形。9月頃、多汁の実が赤く熟し、甘みがあって美味しい。しかし、果実の表面がブツブツしたイボ状になっていることから、見た目があまり良くないらしく、食べられることを知らない人が意外に多い。ヨーロッパ、アメリカにも渡り、ジャパニーズ・ストロベリー・ツリーと呼ばれている。 
  • 食べ方も広い・・・ヤマボウシの実は、皮が赤色やオレンジ色で果肉は黄色。熟すと地面に落下し、そのまま皮を剥いて生でも食べられる。果肉には小さな種がたくさん入っていて、味は甘く、マンゴーやバナナ、あけびの味に似ている。生食のほか、乾燥させて食べる方法や、ジャム、果実酒など、使用用途が広い。
  • ヤマボウシを食べる野鳥・・・ヒヨドリ、メジロ、ムクドリ、落下した実を食べるキジなど。 
  • ヤマボウシの実を食べるメジロ
  • クリプトン裏庭のヤマボウシに大群でやってきたムクドリ(2017年9月21日)
  • 大群でやってきた訳は・・・9月18日、秋田県沖を通過した台風18号で、ヤマボウシの実が大量に落下した。その実を目当てにやってきたようだ。落下した実を拾ったり、落下せずに残ったヤマボウシをクチバシでもぎとったりして、平らな草地に移動して食べているところ。
  • ヤマボウシとサル・・・ヤマボウシは、サルが実を捕食した後、移動して糞をすることによって種を遠くに散布してくれることを期待して進化したとの説がある。サルが識別しやすいオレンジ色から赤色に熟し、木に登ってつかみやすいように上向きにサクランボ大の丸い実をつけ、甘くて美味しい。ただし、ヤマボウシは熟すと地面に落下するが、ニホンザルは落下した実をほとんど食べないらしい。 
  • ヤマボウシとスズメバチ・・・赤く熟したヤマボウシの甘い汁を吸うスズメバチ。ムクドリは、ヤマボウシの実を突くがうまく食べられない。その突いた跡の実は、甘い汁がしたたり落ちる。その甘い匂いに気付いてやってきたのであろう。
  • 動画「ヤマボウシの実とヒヨドリ」
  • 樹皮・・・ブナの幹のように、地衣類が着生し、白っぽい斑紋が見られる。
  • 掛矢・・・杭などを打ち込む時に使う大きな木槌を掛矢というが、これには打ち込む衝撃で割れたり、まくれたりすることのない強靭な木が必要とされる。一般にカシが知られているが、山村で手に入る掛矢材の最高の木は、ヤマボウシである。これに次ぐ木は、オオウラジロノキ、ズミ、ヤマモミジ、ケヤキ、イタヤカエデ、ナラなどの堅木の節のある所を利用している。 
  • 紅葉・・・ヤマボウシは鮮やかに紅葉する。新緑、花、果実、紅葉と、4拍子そろった美しさが評価され、最近は庭木として人気がある。
  • クリプトンとヤマボウシ・・・クリプトンの裏庭には、ヤマボウシがたくさん植栽されている。春から秋まで楽しめるので、ぜひご覧いただきたい。実は完熟する前の9月頃、ヒヨドリやメジロなどが大群でこの実を食べにくる。その様子もぜひ観察してほしい。 
ハナミズキ
  • 都市では人気が高いハナミズキ(花水木、ミズキ科)

     北米原産で、日米親善の花として有名。1915年、東京市長がワシントンにサクラの苗木を寄贈し、その返礼として東京に贈られた木である。白や淡い紅色の花弁に見えるのは、ガクが変化した4枚の総苞片。花は中心部に集まって咲く。秋に楕円形の実が赤く熟し、紅葉も美しい。公園樹、庭木、街路樹として植えられ、赤や黄色、斑入り葉など園芸品種も多い。 
  • 名前の由来・・・ミズキの仲間で花が目立つことに由来する。ミズキの名の由来は、春先の新芽を出す頃に地中から大量の水分を吸い上げることに由来する。また、アメリカ原産で日本の近縁種のヤマボウシに似ていることから、別名アメリカヤマボウシと呼ばれている。 
  • 花期 4~5月、高さ5~12m 
  • ・・・まだ葉が開き切らないうちに大きな白花を枝一杯に開く。白い花弁状の総苞片は、長さ4~6cmと大きく、先端は窪む。花は、中央に十数個集まる小さな黄緑色の頭状花序をつくる。 
  • 原産地アメリカでは人気が高い・・・バージニア州やノースカロライナ州では州の花に、アトランタでは市の花に定めている。第二次大戦後、連合軍司令官・マッカーサー元帥は、バージニア州出身だったことから、アメリカ大使館をはじめ都心の各所に植えた。以来、東京周辺に普及するとともに、日本でも人気が高まった。
  • ・・・卵形で、弧を描いて長く伸びる側脈が目立つ。葉裏は白っぽく見える。 
  • 果実・・・楕円形の果実は、枝先に数個集まってつく核果で、10月頃、光沢のある深い紅色に熟す。 
  • ハナミズキと野鳥・・・ヒヨドリ、オナガ、ツグミ類、シジュウカラ、ジョウビタキ、イカル、カラスなど多くの野鳥が食べる。
  • 樹皮・・・灰黒色で、細かな亀裂が入る。
  • ハナミズキ 歌詞・・・一青窈(ひととよう)さんは、アメリカ同時多発テロが起こった時、ニューヨークにいた友人からのメールをきっかけに、涙しながら一週間ほどでこの歌詞を書き上げた。歌詞に登場する「僕」はこの父親、「君」はその子ども。「僕」がテロによって子どもと死別し、成長する子供を見守る様子を描いていると言われている。

    空を押し上げて 手を伸ばす君 五月のこと
    どうか来てほしい 水際まで来てほしい
    つぼみをあげよう 庭のハナミズキ
    薄紅色の可愛い君のね
    果てない夢がちゃんと 終わりますように
    君と好きな人が 百年続きますように

    夏は暑過ぎて 僕から気持ちは重すぎて
    一緒に渡るには きっと船が沈んじゃう
    どうぞゆきなさい お先にゆきなさい
    僕の我慢がいつか実を結び
    果てない波がちゃんと 止まりますように
    君と好きな人が 百年続きますように
    ・・・
    僕の我慢がいつか実を結び
    果てない波がちゃんと 止まりますように
    君と好きな人が 百年続きますように
    君と好きな人が 百年続きますように
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)