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樹木シリーズ36 アジサイ 、ガクアジサイ、ヤマアジサイ

  • 梅雨を彩るアジサイ(紫陽花、ユキノシタ科)

     雨が似合う花の代表は、何と言ってもアジサイであろう。そのアジサイの花にアマガエルが宿る光景は、梅雨を象徴する風物詩と言えるであろう。身の周りで見かけるアジサイは、ガクアジサイの両性花が全て装飾花に改良された園芸種である。花全体が装飾花に覆われ、花のボリュームが魅力。雨に濡れながら、赤や青、白、紫の艶やかな色が印象的である。しかし、本来の花はわずかで、実を結ぶ種はほとんどできない。 
  • 名前の由来・・・「藍色の花が沢山集まって咲いた花」を意味する「あづさい」がなまったものとする説や、「集まって咲くもの」とする説、「厚咲き」が転じたものであるとする説などがある。 
  • 七変化・・・花が長く咲き、青色、藍色、紫色、淡紅へと、いつの間にか色を変えることから、「七変化」あるいは「八仙花」とも呼ばれている。 
  • 「四葩(よひら)」・・・花びらのように見える4枚のガクの中心に細かい粒のような花をつけることから、「四葩(よひら)」とも呼ばれている。ガクアジサイは、絵の額縁のように縁取る装飾花と花の中心に両性花をもつ。装飾花には、生殖機能はなく、もっぱら花粉を運んでくれる虫を誘う役割を担う。 
  • 花期・・・6~7月、高さ1.5m
  • ・・・淡い紫色の花が手まりのようにまるく集まったものが基本。 
  • 親は野生のガクアジサイ(額紫陽花、ユキノシタ科)

    母種は、伊豆半島や三浦半島、伊豆諸島に多く自生しているガクアジサイ。この花は、枝先に小さな花が多数つき、その周りを4~5枚の装飾花が囲む。この小さな花も全て装飾花に変化したのがアジサイである。ガクアジサイの中央の小さな花は、後で実になるが、園芸品種のアジサイは実を結ばない。花期6~7月、高さ1.5~2m2m。 
  • 山中に生えるヤマアジサイ(山紫陽花、ユキノシタ科)

     関東地方以西の太平洋側、四国、九州の山地の湿った林内に生える。花序の大きさは、ガクアジサイと同じだが、装飾花は小さく、ガク片は3~5枚。花色には変化が多い。葉もやや小さめの長楕円形で質は薄い。花期6~8月、高さ1~2m。
  • ガクアジサイとヤマアジサイの見分け方・・・海岸に多いガクアジサイは花も葉も大形だが、山中のヤマアジサイは小ぶりで葉が細長い。
  • 咲き方① ガク咲き・・・装飾花が両性花を縁取るように咲き、繊細な印象を受ける
  • 咲き方② 手まり咲き・・・花が球形に集まって咲き、華やかな雰囲気を与える  
  • 咲き方③ ビラミット咲き・・・花が円錐状に集まって咲き、横向きや下向きになるものが多い。 
  • 土壌で色が変化するのはなぜ?
    1. アジサイの花の色は、土壌がPH5.5以下の酸性土壌では青、それ以上のアルカリ性土壌では赤が強くなる。
    2. その理由は、アジサイの根から吸収される「アルミニウム」という金属元素にアジサイの花の色の秘密が隠されている。「アルミニウムが吸収されると花は青くなり、アルミニウムが吸収されないと花は赤くなる」というわけ。
    3. 「アルミニウム」は酸性土壌では溶けやすく、アルカリ性土壌では溶けにくい状態になる。ちなみに、日本は土壌が弱酸性なので、青みの強いアジサイが多い。
    4. ただし、ベニガクアジサイやシロアジサイなど、土壌に影響されない種類のアジサイもある。 
  • 花の色① 青・・・雨の日は、より鮮やかなブルーに見える
  • 花の色② 赤・・・桃色から深い紅色まであり、庭のアクセントになる
  • 花の色③ 白・・・庭を明るくしてくれる 
  • 花の色④ 混色・・・複数の色が混ざり合い、不思議な色彩を放つ 
  • 葉が斑入りのフイリガクアジサイ 
  • 逆輸入で多様に・・・アジサイは、日本から中国を経てヨーロッパに渡り、そこで盛んに品種改良が行われ、日本に逆輸入されている。ガクアジサイは、突然変異しやすく、品種改良に向いている。属名のハイドランジアと呼ばれたり、セイヨウアシサイと呼ばれて、多様な花色の品種が栽培されている。 
  • アジサイの種類、品種・・・世界で40数種類、品種は千種に及ぶと言われ、現在も品種改良などで増えている。 
  • アジサイのドライフラワー・・・アジサイをドライフラワーにすれば、室内でも楽しむことができる。そのまま飾ったり、リースやクラフトに使って部屋に飾れば、花の後も長く楽しめる。 
  • アジサイをメインにしたリース
  • ・・・対生し、卵形で先は急に尖り、縁には鋸歯がある。質は厚く、表面は光沢がある。 
  • アジサイは毒?・・・2008年6月13日、茨城県つくば市の飲食店で、料理に添えられていたアジサイの葉を食べた 10 人のうち 8 人が、食後 30 分から吐き気・めまいなどの症状を訴えた。同年6月26日、大阪市の居酒屋で、男性一名が、だし巻き卵の下に敷かれていたアジサイの葉を食べ、 40 分後に嘔吐や顔面紅潮などの中毒症状を起こした。しかし、毒性成分は、未だ明らかではない。厚生労働省では、「刺身のツマのように、時々料理に添えられることがあるが、食用は避けるべきである。」としている。 
  • 野生のシカはよく食べる・・・シカが出没するアジサイの名所では、シカの食害防止のために電気柵で囲っている。シカは、有毒のアセビは食べないが、アジサイは食べるとすれば、毒性はかなり低いのであろうか。
  • 金属集積植物・・・アジサイは、生育障害を起こすアルミニウムを細胞の液胞に閉じ込め、金属を体内にためこむ金属集積植物である。稲も、カドミウムを集積する金属集積植物として知られている。カドミウムに汚染された水田の土壌汚染対策として、ソルガム、トウモロコシ、菜の花、ヒマワリ等の重金属の蓄積性が相対的に高い植物を使った除去対策が行われている。
  • なぜ有毒な金属をためこむのか・・・土壌に有毒な金属が存在する土地には、そもそも競争相手が少なく、体内に有毒な金属をためこむと、動物に食べられにくいメリットがある。
  • 落葉で毒を捨てる・・・アジサイは、特に葉に多く有毒のアルミニウムを貯蔵する。秋になると、葉の内部に閉じ込めたまま落葉し、毒は捨てられる。落葉は、雪や寒さ、乾燥への適応以外に、老廃物や毒を体外に捨てる役割がある。
  • アジサイとシーボルト・・・江戸末期、オランダ東印度会社の医師として来日したシーボルトは、長崎に鳴滝塾を開き医学を教えた。植物学者でもあった彼は、特にアジサイ類に興味を持ち、帰国後出版したのが「フロラ・ヤポニカ日本植物誌」である。この中でアジサイに「ハイドランジア・オタクサ」の名前を記している。この「オタクサ」とは、シーボルトの日本での愛人「お滝さん」にちなんで命名されたという。アジサイを好んだ牧野富太郎博士は、美しい花に花柳界の女性の名をつけたとして強く非難している。長崎市は、異国で献身的に世話をしてくれた女性をそこまで思うシーボルトを評価し、市の花にアジサイを選んでいる。
  • 俳 句・・・梅雨の頃を代表する花。紫陽花、四葩、七変化、額紫陽花、額の花。
    紫陽花や雨の力感みなぎれる 徳永山冬子
    紫陽花に置いたる五指の沈みけり 川崎展宏
    紫陽花や白よりいでし浅みどり 渡辺水巴
    あぢさいの藍を盗みに闇迫る 長谷川秋子
  • 花言葉・・・元気な女性、辛抱強い愛情、一家団欒、家族の結びつき、移り気・浮気、あなたは美しいが冷淡だ、高慢・無情と、花の色が多彩で品種も多い分、花言葉も多い。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「別冊NHK俳句 はじめておぼえる季語100」(NHK出版) 
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社) 
  • 「アジサイはなぜ葉にアルミ毒をためるのか」(渡辺一夫、築地書館)