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樹木シリーズ37 ケヤキ

  • 美しい樹形と巨樹・巨木が多いケヤキ(欅・槻、ニレ科)

     日本の代表的な落葉広葉樹で、東北地方以南の暖帯・温帯の丘陵や山地の谷沿いなどに広く分布する。神社や寺の境内、農家の防風林など屋敷林の代表的な樹種の一つ。成長が早く、寿命が長いので、各地で巨樹・巨木が数多く見られ、天然記念物、あるいはご神木として祀られている。ほうきを逆さまにしたような樹形の美しさは、日本産樹木の中ではトップクラスで、公園樹や街路樹として多く植えられている。材は強度が大きく、耐久性に優れ、木理が美しいことから、広葉樹の中では最高級の良材で、建築、家具、彫刻など様々な用途に用いられている。 
  • 名前の由来・・・景観樹木、利用木材として価値が高く、際立って優れている木であることから、「けやけき木」の意味に由来。古くは、ツキ(槻)と呼ばれたが、「強き木」に由来する。漢字の「欅」は、人が両手で持ち上げた様子の挙で、真っすぐに伸びた樹形をよく表している。 
  • 花期・・・4~5月、普通の高さ20~25m、中には高さ50m、直径5mに達する巨木も。 
  • ・・・雌雄同株で、葉の展開と同時に開く。花は小さく、雄花が目立つ。
  • ・・・卵状披針形で質はやや薄い。先は鋭く尖り、縁には鋭い鋸歯がある。表面はやや光沢があってざらつく。葉柄は短く、互生する。 
  • ・・・下から見上げても見失うほど小さな緑の実がたくさんつく。種子だけでは翼がないので、遠くまで飛べない。だから熟すと、葉がついたまま枝ごと折れて飛ぶ、風散布タイプ。風に乗ると数十mも飛ぶらしい。 
  • 樹高が高い方が有利な風散布・・・枯れた葉のついた枝にくっついた種子は、枝ごとクルクルと回転しながら落下する。横風を受けると、数十メートルも離れた場所に運ばれるという。花粉も風で飛ばす。こうした風に繁殖を手助けしてもらう種は、樹高が高い方が有利である。 
  • 樹皮・・・若い木は滑らかな灰色で、小さなブツブツ(皮目)が散在している。老木になると、不規則な雲のような形が、めくれて剥がれるようになる。このめくれた隙間に、冬の間のねぐらにする昆虫もいる。ケヤキの葉を食い散らすヤノナミガタチビマムシである。
  • 紅葉・・・黄色(上写真)から橙、赤、茶と色彩も豊かである。 
  • 紅葉初期・・・黄色に色付き始める
  • 赤く色付いた紅葉
  • 樹形・・・ホウキを逆さにしたようなスマートな樹形と、大きくなる大高木であることから緑陰樹として公園や街路樹でもよく植えられ、多くの人に親しまれている。 
  • 落葉すれば美しい樹形の骨格が分かる
  • 陽樹・・・稚樹は日当たりの良い場所でないと育たない。成木も強い光を求めて、できるだけ高く生長する。頂部に枝葉を集め、直射日光がよく当たるようにしている。日陰となる下枝は枯れ落ち、ホウキ型の樹形となる。 
  • 天然記念物・ご神木・・・稚樹の生長が比較的速く、さらに100年以上にわたって生長を続け、寿命も長い。だから高さも太さも際立った巨木になるものが多く、各地で天然記念物、ご神木として祀られている。大ケヤキとして認知され、○○のケヤキと命名されるのは、幹周り5m以上で、全国に800本以上もあるという。いかにケヤキが日本人の身近な樹木であったかが伺える。
  • ケヤキ(「天声人語 自然編」辰濃和男)・・・淡いオリーブ色にけぶる若葉がやがて萌黄色になり、次第に緑の濃さをましてゆくと、いつのまにか、あの梢を冬空に突き立てていた裸木が豊満な緑の衣をまとった姿になって現れる・・・約300年前に砂川新田を開発したという砂川家の第十一代当主、昌平さんの家の庭には、幹の太さ五メートル以上のケヤキの巨木が何本もある・・・江戸時代には炭俵を積んだ馬を見、明治維新を見、空襲を見、砂川闘争を見、開発の波を見てきたケヤキたちである。
  • 千年ケヤキ(大仙市神宮寺宝蔵寺)・・・幹周りは、何と11m50cm、樹高35m、推定樹齢400年。千年ケヤキのそばには「天保飢饉の供養碑」が設置されている。秋田領内でも5万2千人の餓死者が出たという。その屍がこのケヤキの周りに累々と積み重ねられた。それがケヤキの栄養分となり、たぐい稀な巨樹に成長したと言われている。
  • 高木のデメリットも・・・背が高いと、高い位置まで水を吸い上げる必要があるから、よりたくさん蒸散する必要がある。土中の水分には限りがあるので、水不足で苦しむことになる。水が豊富な渓谷では大きく育つ。ケヤキは、水を輸送する導管が太く、水を吸い上げる速度が速い。光と水の確保は、樹木にとって生きるための生命線である。ケヤキは、水環境に恵まれた場所なら一際大きくなれるわけである。
  • 白神山地核心部のケヤキ・・・白神の核心部にたった1本だけあるケヤキは、水環境に恵まれていることから、思わず拝みたくなるような大木に成長している。この大木は、赤石川支流石の小屋場沢右岸にある。一説によると、昔、八峰町椿と西目屋村砂子瀬との往来ルートに利用されていたが、そのほぼ中間に位置することから、その目印として誰かが植えたのではないかと言われている。
  • 大気汚染の指標・・・排ガスに敏感な木とされ、葉の痛み方やときならぬ落葉など、この木の健康度は、大気汚染の指標にもなっている。 
  • 樹皮の曲物・・・ケヤキの樹皮でつくられた曲物は、縄文時代晩期の秋田県戸平川遺跡や青森県是川遺跡などから見つかっている。丸く曲げた側板と底との間に樹皮製のヒモで綴じられ、綺麗に朱漆で彩色された立派なものである。 
  • 実を食べる野鳥・・・カワラヒワ、アトリ、イカルなど。上の写真は、秋田市四ツ小屋の大ケヤキに大群でやって来たイカルが小さな実を食べているところ。他に小さなカワラヒワの群れもこの実を食べていた。
  • コムクドリの巣・・・ケヤキの大木には、営巣に最適な樹洞が多い。上の写真は、左上がオスで、右下がメス。近くに樹洞がいくつかあると、それぞれにメスを呼び込んで一夫多妻になることがあるという。
  • 神社やお寺、屋敷林に多い・・・ケヤキは、防風林、建て替える時のために、神社やお寺、屋敷周りに植えることが多い木である。特に神社やお寺の敷地に生えているものは巨樹巨木が多い。
  • ケヤキとムササビ・・・ムササビは、エサが豊富な雑木林を好む。しかし、雑木林は定期的に伐採を繰り返してきた二次林だけに、住家となる大木が余りない。だから雑木林に接した神社やお寺のケヤキ大木の樹洞を住家にしている例が多い。神社の大ケヤキの下に、ムササビの糞があれば、住家にしている証拠である。
  • ケヤキの特徴と利用・・・ケヤキは、木目が美しく、材が緻密で堅いこと、大きな部材がとれる特徴があり、古くから様々な用途に使用され、現在でも高級材として取り扱われている。落葉樹の中では唯一柱にまで使われる。社寺建築に使われるほか、欄間や置物などの彫刻の材料としても使われている。山車屋台の彫刻にもケヤキを使ったものが多い。 
  • 清水寺の舞台の柱はケヤキ・・・ケヤキは、大きな材が採れる上に、耐用年数が数百年と長いことから、神社仏閣の柱としてもよく使われている。その代表格が清水寺。奈良時代に創建された清水寺は何度も消失し、1633年に再建された。その清水寺の舞台では、樹齢300年以上のケヤキ数十本が柱として使われている。
  • 瑞龍寺(富山県高岡市)・・・仏殿、山門などは総ケヤキ造りで国宝になっている。総ケヤキ造りになっているのは薬医門、山門、仏殿、加賀前田家2代当主・前田利長の位牌を安置する法堂も、総ケヤキ造りになっている。
  • 臼と杵・・・餅つき臼は、径60cm以上もある大木をくりぬいたもので、長時間乾燥させておいてもひび割れの出ない木が要求される。ケヤキ、トチノキ、ミズメ、ネコシデが良く使われた。杵は、重量のある堅木で粘り気のあるケヤキ、ヤマボウシ、イタヤカエデ、ハルニレなどが使われた。 
  • 菅江真澄 百臼之図(秋田県立博物館蔵)・・・物を食用にするためには、かつて臼と杵は必需品であった。菅江真澄は、旅の折々に各地で写生してきた臼の図を編集した著作が三冊もある。左の絵図には、鹿角の女性三人が杵を使い、裸足でつく様子が描かれている。右の絵図は、アツシを着たアイヌの女性が、小杵をもち裸足で穀物をつく様子が描かれている。この臼と杵は、古く擦文文化期に伝わっていたという。 
  • 和太鼓・・・ケヤキは、音を多く跳ね返す性質をもっていることから、和太鼓の材料として最高の材料とされている。太鼓は革を打たれると、胴の中の空気が振動して音の発生源に共鳴する。振動した空気は、胴に跳ね返って反響する。壁が硬いほど音は繰り返して反響する時間が長く、残響を生じる。また、ケヤキは木目が美しく、舞台の上に立った際注目を集める。 
  • ケヤキ並木の起源・・・ケヤキ並木を植えた起源は、国の天然記念物に指定されている「馬場大門のケヤキ並木」と言われている。伝承では、前九年の合戦に赴いた源頼義・義家親子が、現在の大国魂神社で戦勝祈願をしたところ、戦に勝ったことから、そのお礼としてケヤキの苗を千本寄進したことに始まると伝えられてきた。後に、徳川家康が同神社で戦勝を祈願し、1615年の大阪夏の陣に勝利したことから、そのお礼として馬場を整備し、ケヤキを植えたものが、現在のケヤキ並木の起源と考えられている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「日本の樹木」(舘野正樹、ちくま新書)
  • 「植物民俗」(長澤武、法政大学出版局)
  • 「NHK趣味悠々 樹木ウォッチング」(日本放送出版協会)
  • 「日本の原点シリーズ 木の文化4 ケヤキ」(新建新聞社)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「天声人語 自然編」(辰濃和男、朝日新聞)
  • 「樹木の個性と日本の歴史 公園・神社の樹木」(渡辺一夫、築地書館) 
  • 「教えてゲッチョ先生 雑木林のフシギ」(盛口満、ヤマケイ文庫)