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樹木シリーズ38 トサミズキ、ヒュウガミズキ

INDEX トサミズキ、ヒュウガミズキ
  • 早春、黄色の花をたくさんぶら下げるトサミズキ(土佐水木、マンサク科)

     高知県の一部でしか自生していないが、庭木としてはどこでも育つことから、全国の公園や庭に植えられている。早春、殺風景な公園や庭で、いち早く穂状の黄色い花が多数ぶら下がるのでよく目立つ。その目立つ花に誘われて、メジロたちが花蜜を吸いにやってくる。花が終わると葉が出てくる。 
  • 名前の由来・・・自生地が「土佐」で、樹液が多いことに加え、春先に枝を切ると水が滴り落ちるほど水っぽい木であることから、「土佐水木」と書く。
  • 花期・・・3~4月、高さ2~4m 
  • 花・・・葉に先立って穂状花序を多数垂らし、黄色の花を7~8個開く。
  • 花弁は5個でヘラ形。雄しべは5個で花弁より短い。ヤクは帯紅色。  
  • トサミズキとヒュウガミズキの見分け方・・同じ早春に黄色い花を咲かせる点で似ているが、花穂が長いのがトサミズキ(上左)、短いのがヒュウガミズキ(上右)である。 
  • 葉・・・少し厚みのある葉は、葉脈に沿って折り目をつけたように凹凸がある。縁は波形、葉柄に毛が生える。 
  • 果実・・・熟すと2裂し、狭い楕円形で光沢のある黒い種子を2個だす。 
  • 株立状樹形・・・ひこばえが出やすく、幹は地ぎわから叢生して株立状となる。
  • 花蜜とメジロ・・・樹木の花の蜜が大好きなメジロは、春、いち早く黄色の花をたくさんつけるトサミズキに、群れでやってくる。メジロは小さいだけに、黄色の花の群れに隠れて、なかなか発見できない。葉が茂る前は丸見え・・・やたら警戒心が強いので、できるだけ距離をとってジッと眺めていると、微かに花が揺れ動くのでそれと分かる。彼らは、待ちに待った春の訪れを喜ぶかのように、実に楽し気にこの花蜜を貪り続ける。
  • 野生では稀な珍種・・・高知県の蛇紋岩地帯に稀に自生している。蛇紋岩は硬くて風化しにくい。土は貧栄養で乾燥する。こういう特殊な蛇紋岩に耐えることができる植物しか生えない。だから周りのシイやカシなども入り込めない。古くから適応してきたトサミズキは、蛇紋岩残存植物と言われている。(写真:樹木見本園のトサミズキ)
  • 花の風情と栽培のしやすさで人気・・・自然状態では、ごく限られた地域にしか自生していないが、庭木としては栽培しやすい。まだ朝晩の冷え込みが厳しい頃、枝に暖かみを感じさせる黄色の花をたくさん垂らし、風に揺れるとなかなか風情がある。1863年、ヨーロッパにも移出され、公園や庭園に植えられている。 
  • クスサン「スカシダワラ」・・・樹木見本園では、トサミズキに蛾の一種・クスサンのマユ「スカシダワラ」をよく見掛ける。7月上旬頃、楕円形の固い網目の繭を作ってサナギになり、9月から10月にかけて羽化する。昔は、マユをかける寸前の幼虫を採取し、腹の中にあるマユの素から釣り糸をつくった。
  • 寺島良安「和漢三才図会」・・・「一種、土佐の山中に出づ、高さ1~2丈、葉、てまり花の葉に似て小さし、正月黄花開く。さんそう下り垂れ、子を結び赤色、呼んで土佐美豆木(トサミズキ)と名づく」 
  • 栽培のポイント・・・日当たりと風通しの良い肥沃地が良い。砂質の乾燥地は嫌う。繁殖は、種を弾き飛ばす前に採取した実、または挿し木。約1ヶ月で発根、盛夏をさけて植えかえる。剪定や刈り込みは5~6月。 
ヒュウガミズキ
  • トサミズキを小さくしたようなヒュウガミズキ(日向水木、マンサク科)

     早春、トサミズキと同じく、葉の出る前に穂状の黄色い花を多数ぶら下げる。ただし、花も葉もトサミズキより小さいのが特徴。別名イヨミズキ。日向(宮崎県)、伊予(愛媛県)と、地名が名前についているが、それが名前の由来でない点に注意。分布は、石川県~兵庫県の日本海側。マンサク科トサミズキ属は、トサミズキ、ヒュウガミズキ、コウヤミズキ、キリシマミズキがあるが、いずれも蛇紋岩や石灰岩など痩せ地を好む。 
  • 名前の由来・・・トサミズキより花も葉も実も小さいことから、ヒメミズキから転訛してヒュウガミズキになったとの説がある。他に、京都府北部の丹波地方に多いことから、戦国時代にこの地を所領としていた「明智日向守光秀」に由来するとの説もある。 
  • 花期・・・3~4月、高さ2~3m
  • ・・・短い穂状花序に黄色い花が1~3個咲く。花弁は5個。 
  • ・・・トサミズキの葉をそのまま小さくしたような形。  
  • 庭木・・・切り花にしても可憐で、刈り込みにも耐えるので庭木としてよく植えられる。株仕立てに刈り込まれている場合が多い。
  • 発見者は須川長之助(1842~1925)・・・ヒュウガミズキの発見者は、高山植物のチョウノスケで有名な須川長之助である。彼は伊勢の菰野や京都の丹波山地で採取した標本をロシアの植物学者・マキシモヴィッチに送ったのが、世に出た最初と言われている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)