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樹木シリーズ40 ハリエンジュ(ニセアカシア)

  • 増え過ぎた外来植物・ハリエンジュ(別名ニセアカシア、マメ科)

     原産地は北米のロッキー山脈以東地域で、通称ニセアカシアと呼ばれる外来植物。日本には1874(明治7)年頃に渡来。痩せ地でもよく育ち、生長も速いので、砂防や早期緑化の目的で植えられ、公園樹や街路樹にもされている。代表的な蜜源植物の一つで、アカシア蜂蜜と称して販売されている。しかし近年、全国的に野生化して在来の植生を乱すなどの理由から、日本の侵略的外来種ワースト100に選定(日本生態学会)されている。また、外来生物法の「要注意外来生物リスト」において、「別途総合的な検討を進める緑化植物」の一つにも指定されている。
  • 名前の由来・・・中国原産の「エンジュ」に似ていて、枝に鋭い針があることから「ハリエンジュ」と名付けられた。学名は、「偽のアカシア」の意味があることから、別名「ニセアカシア」、または単に「アカシア」とも呼ばれている。 
  • 花期・・・5~6月、高さ15m
  • ・・・白い房状の花をたくさん垂れ下げ、満開になると辺り一面に甘い香りを漂わせる。虫媒の両性花をつけるが、特定の花粉媒介者は必要とせず、主にミツバチにより受粉される。
  • 花のアップ
  • 食用・・・花を花穂ごと天ぷらに。小坂町では、学校給食にも利用されるほどポピュラーな一品。新芽は和え物や油炒めに。甘い香りがする花を活かして、ホワイトリカーなどに漬け込んだ「アカシア酒」としても利用されている。精神をリラックスさせる効果があるとされている。 
  • 蜜源植物・・・花から取れるハチミチは、色も香りもよく、レンゲ蜜に次ぐ高級品。養蜂業の最も重要な蜜源植物の一つで、国産ハチミツの半分ほどは、ニセアカシアから採取されている。「アカシア蜂蜜」として販売されているが、本来のアカシアは別の仲間である。
  • ・・・奇数羽状複葉で、小葉は丸みの強い楕円形で、葉先がわずかに窪み、尖らない。葉の基部の枝に一対のトゲがある。
  • 豆果・・・サヤエンドウのような豆果をつけ、種子は4~7個ある。直径5~6mmの平らな腎形で黒褐色。豆果はおもに風や水で運搬される。特に河川では、大量の種子が洪水で流され分布を急激に拡大したと言われている。 
  • 樹皮・・・縦に深く裂ける。樹皮を食べた馬が中毒した事例がある。 
  • 緑化・・・花が美しいのに加えて、大気汚染にも強く、暑さ寒さにも強いので、北海道から沖縄まで広く植えられている。 
  • 砂防樹種・・・マメ科の植物は、根に根粒菌という菌を寄生させている。根粒菌は、固体に変えた窒素をニセアカシアに供給し、代わりに糖分などをもらっている。そうした共生関係を作り上げることによって、土壌養分が少ない崩壊地でも生育できる。だから、治山緑化のための砂防樹種として、山奥の崩壊地にも盛んに植えられた。その種子が、洪水の度に流され、下流側の河川に沿って野生化して広がり、激しく増えている。 
  • 強い繁殖力
    1. 裸地で素早く発芽できるタイプと、土の中で20年以上眠っていても発芽能力を失わないものもある。
    2. 日当たりが良い場所では、生長が極めて速く、実生からわずか6年程度で種子を生産する。
    3. 根を横方向に伸ばして、根の途中から幹を立ち上げながら増えていく「根萌芽」という特殊な能力で群落をつくる。
    4. 切株からの萌芽も旺盛である。
    5. 萌芽再生能力には季節性があり、芽吹き前に伐採すると、盛夏に伐採した場合よりも著しく旺盛に萌芽枝を発生し、ニセアカシア林が再生しやすい。
  • 風に弱い・・・根が浅く強風で倒れやすい。上の写真は、台風によって倒れたハリエンジュ。街路樹に侵入したハリエンジュが強風で倒れると、通行人や車への影響が大きい。また砂防林に侵入すると、防風・飛砂防止などの防災機能が低下する。
  • ハリエンジュの倒木を利用したクラフト・・・森のクラフト教室では、台風で倒れた倒木を輪切りにし、それをベースに森の素材でクラフトを作成している。
  • 特定外来生物の要注意リスト
    1. 日本の河川における優占群落面積は2,197ha で、外来種の中でセイタカアワダチソウに次いで多い。河原・崩壊地の貧栄養砂礫地において脅威を与える外来生物とされている。
    2. 北海道の礼文島では、歩道のアスファルトを割りながら繁茂しており、国立公園内への侵入が懸念されている。
    3. 中部山岳国立公園にある上高地地域では、ニセアカシアが 4 地点で確認され、危険度は高く、根絶の可能性があることから、積極的に対策を実施する種とされている。
    4. 河川管理の障害・・・巡視時の視界の障害、洪水時の水流障害、流木化して橋の損壊の原因となる、ごみの不法投棄が増加するなどと問題視されている。
    5. リンゴ炭疽病の感染源・・・発生はニセアカシアやカシグルミなどの伝染源植物が近辺にあるりんご園で多い。
    6. 旺盛な繁殖力でクロマツを駆逐し、倒木による危険や場所によってはニセアカシアの純林を形成するなど、防災機能の低下・・・能代市「風の松原」では、東北森林管理局により、主に遊歩道近くの高木を伐採したり、「風の松原に守られる人々の会」などにより、ニセアカシアの除去作業(上の写真)が行われている。 
  • 養蜂業・・・長野県、秋田県などの「アカシア蜂蜜」主産県では、8~9割がアカシア蜂蜜であり、代替となる種は現在のところ存在しないと言われる。養蜂振興法第六条では、「蜜源植物を植栽、除去、又は伐採しようとする者は、その目的に反しない限りにおいて、蜜源植物の増大を旨としてこれを行わなければならない。」とされ、国・地方公共団体に蜜源植物の保護・増殖に対する必要な施策を講ずることが求められている。
  • ニセアカシアの赤花
  • 小坂町のニセアカシア林・・・小坂町には、植林地として国内最大級のニセアカシア林がある。鉱山の精錬の時に発生する二酸化硫黄を含む煙によって土壌が酸性化し、一帯は広大なハゲ山となった。その煙害対策として明治時代からニセアカシアが植林され、500万本も群生している。6月上旬、花の咲く季節には、「アカシアまつり」の開催や良質な蜜を求めて養蜂業の人たちで賑わう。「かおり風景100選」にも選ばれている。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「森の花を楽しむ101のヒント」(日本森林技術協会編、東京書籍)