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樹木シリーズ44 ミズキ

  • 野鳥が好む「テーブル・ツリー」・ミズキ(水木、ミズキ科)

     山地や里山によく見られる落葉樹で、やや湿った場所に多い。扇状に枝を広げ、階段状の独特の樹形になることから「テーブル・ツリー」とも呼ばれている。初夏、たくさんの白い花が一斉に咲くと、花の階段のように見え、よく目立つ。秋、果実は黒く熟し、野鳥たちの季節移動を支える重要な食糧になっている。ツキノワグマも大好物で、しばしばクマ棚をつくる。動けない木にとって、受粉をしてくれる昆虫や種を遠くに運んでくれる鳥を効果的に呼び込むことは最も重要な戦略だが、その点においてミズキはトップクラスであろう。 
  • 名前の由来・・・樹液が多く、春先に枝を折ると水のような樹液が滴ることから、「水木」と書く。 
  • 花期・・・5~6月、高さ10~20m 
  • ・・・水平に伸びる枝の上面に平たく白い花序が並ぶ。花びらは4枚。多数の花が平たく咲くので、甲虫も着地しやすい。 
  • 雄しべは4本、雌しべは1本
  • テーブル・ツリーと純白の花・・・ミズキは沢に生え、その名のとおり水辺の木である。幹から階段状に出ている枝は、水平に広がっているので、「テーブル・ツリー」とも呼ばれている。その上に純白の花を大量に、かつ上向きに咲かせるので、良く目立つ。これは、受粉をしてくれる昆虫たちを効果的に誘う戦略である。 
  • ハートマークの虫「エサキモンキツノカメムシ・・・ハートマークのカメムシは、ミズキの葉裏に50個ほども固めて産み付ける。一般のカメムシは、産みっぱなしだが、このカメムシの母親は、その卵塊に覆いかぶさるように止まり卵を保護する習性がある。さらに卵が孵化した後も続けられるという。子への愛は、背中のハートマークそのもののような昆虫である。
  • ・・・卵形で葉先は短く尖る。側脈は葉先に向かって弧を描いて長く伸びる。これは、ハナミズキやヤマボウシなど同属の仲間と共通の特徴。 
  • ミズキの葉とカタツムリ
  • 枝の張り出し方の特徴・・・ミズキは陽樹で、水平に枝を広げるのは、全ての葉に効率よく光が当たるようにするためである。さらに、まだ空間が開いている場合、その葉が光合成をして稼いだ栄養を使って、その後も数カ月にわたって枝を伸ばし何回も葉を開くことができる。こうしてミズキは、無駄なく空間を占領する。
  • 果実・・・枝は赤紫色で美しく、その先端につく珊瑚のような赤い枝ぶりも鮮やか。その先に未熟な薄緑色の果実をつけ、やがて薄紅色から黒く熟す。 
  • 鳥を効果的に呼ぶ戦略その1・・・赤い珊瑚のような目立つ枝で鳥を誘う。黒く熟した果実は、上を向いているので鳥が食べやすい。
  • 鳥を効果的に呼ぶ戦略その2・・・テーブルのような上に黒く熟したフルーツが並ぶので、鳥がそのテーブルに座って食べることができる、まるでレストラン。だから鳥たちが頻繁にやってきて、種子を食べては離れた場所に運ばれ、糞と一緒に落とされる。中には、運ばれずに下に落ちる果実も多い。そこへネズミがやってきて、堅い内果皮に穴を開けその場で食べてしまうらしい。 
  • 野鳥が種子を散布・・・ジョウビタキ、ヒヨドリ、エゾヒタキ、キビタキ、ルリビタキ、サメビタキ、コサメヒタキ、ツグミ類、ムクドリ、アトリ、コゲラ、コジュケイ、キジなど、鳥が好む木の実の上位に位置している。結果的に、たくさんの種子が遠くに運ばれて分布を広げることができる。親木の下では、稚樹は育たず、鳥たちに遠くまで運んでもらった種子だけが生き延びることができる。
  • キビタキとミズキ・・・キビタキは、桜が咲く頃に渡来する代表的な夏鳥だが、秋遅くまで秋田にとどまり、ミズキやツリバナの実などをついばんでから南下する。
  • クマの好物(写真:ブナの枝を折って実を食べたクマ棚)・・・実は秋に黒く熟し、クマの好物。クマは、分岐した枝がテーブル状になっているところに腰を掛けて、遠くの枝に手を伸ばし、手前に折って食べる。座ったところにクマ棚ができる。クマも鳥と同様、種子を散布してくれるので、動けない木にとっては、大事なお客さんである。 
  • 休眠する種子「埋土種子」・・・ミズキの種子は、それを食べた鳥が止まり木で糞をした際、森の中に散布されるが、そこが暗い場合、発芽することができない。しかし、ミズキの種子は、10年以上土の中に埋まっていても発芽能力はあるので、「埋土種子」と呼ばれている。だから、頭上が明るくなるまで、発芽せずじっと待つことができる。この仲間には、イイギリ、カラスザンショウ、ホオノキ、ニセアカシア、ヌルデなどがある。 
  • 省エネ耐陰生活・・・ミズキの実生は、親木の下では大きくなれないが、15m以上離れると高さ2mほどに生長する。しかし、暗い森の中ではこれ以上大きくならず、ギャップができるまで耐え忍ぶ。幹が大きくなると、自ら枯らし、根元からまた新しい幹を出して株立ちする。また葉を単層に並べ平べったい樹冠で、弱い光を少しでも利用しながら耐え忍ぶ。一旦ギャップができると、稚樹は急伸長し成木になる。 
  • ミズキの白花とフジの紫色の花
←菅江真澄絵図「まゆだま」(秋田県立博物館蔵写本)
  • 小正月飾りに使う・・・ミズキの若枝は冬に色鮮やかな紅色を帯びてとても美しい。伝承によれば、ミズキが紅いのは、山の神様がお産をするとき、ミズキの枝を折って敷き並べた上でお産したためだと言われている。この美しい紅枝は、小正月のマユダマ餅(ミズキマユダマ)を飾るのに用いられている。
  • 菅江真澄「水木繭玉」・・・(岩手県前沢)このあたりの家々では正月、繭玉(まゆだま)と言って、水木(ミズキ)の枝に玉のような餅を貫いて付け、屋内の梁に立てている。ヌルデで作った菊の削花をいくふさとなく、何の木かの枝一杯にさしてある。
  • 大館アメッコ市の由来・・・昔、農家の主婦が甘味料として米でアメを作り、餅につけて食べていた。旧正月行事の豊作祈願に、「ミズキ」の枝にそのアメをつけ、稲穂のかわりに神前に供えるようになった。その風習が、農家以外の人たちも健康と幸福を願い、この日にアメを食べるようになったことから、農家の主婦が町でアメを売るようになったのがアメッコ市の始まりと云われている。(アメッコ市ポスター画像出典:大館市観光協会)
  • 子どもたちの遊び・・・冬、ミズキの枝を折ってカギを作り、カギとカギで引き合う遊びをした。白一色になる秋田では、目立つ木で色々利用された。
  • コケシやコマに利用・・・ミズキの材は、白くきめが細かい。さらに削りやすく、絵付けもきれいなので、コケシやコマによく使われる。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「植物民俗」(長澤武、法政大学出版局)
  • 「NHK趣味悠々 樹木ウォッチング」(日本放送出版協会)
  • 「樹は語る」(清和研二、築地書館)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「教えてゲッチョ先生 雑木林のフシギ」(盛口満、ヤマケイ文庫)  
  • 「秋田農村歳時記」(ぬめひろし外、秋田文化出版社)
  • 「菅江真澄遊覧記」(内田武志・宮本常一、平凡社)
  • 「鳥のおもしろ私生活」(ピッキオ、主婦と生活社)