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樹木シリーズ45 ガマズミ、ミヤマガマズミ

  • 昔から生活に密着した樹木・ガマズミ(スイカズラ科)

     北海道~九州まで広く分布し、日本の雑木林を代表する落葉低木。初夏、小さく白い花が多数咲き美しいが、匂いは良くない。果実は、秋に赤く熟す。霜が降りる頃になると、白い粉をふいて甘くなる。昔は、山里の子どもたちにとって秋から初冬にかけてなくてはならない果実であった。生食のほか、果実酒や大根の赤漬けなどに利用された。もちろん鳥やサルもこの実を好む。材は柔軟性があり、強靭で折れにくいことから、柴や薪を結んだり、道具の柄、輪かんじきの材料に利用された。
  • 見分け方・・・ミヤマガマズミ(上の写真)は、葉の先が尾状に伸びて鋭く尖り、葉柄に長い絹毛が散生するのに対して、ガマズミは葉先の尖りが鈍く、葉柄に開出毛と星状毛が密生する点で区別できる。ミヤマガマズミは、ガマズミより標高の高い山地に生える。以下は、ガマズミとミヤマガマズミを区別せず記す。
  • 名前の由来・・・諸説あるが、鎌の柄に用いられたことから「ガマ(鎌)」、酸っぱい実をつけるので「ズミ(酸実)」との説がある。東北では、別名「ゾウミ、ジュミ」などと呼ばれている。生活に密着している樹木だけに、名前の由来や別名が非常に多い。
  • 名前の由来その2「神の実説」・・・マタギは、獲物を求めて一日中雪山を歩き回るが、山中で食べるものがなくなるとガマズミを探し出して口にし、身体を休めた。ゆえに、ガマズミは山の神からの授かり物として「神の実」と呼ばれたことが語源とする説もある。
  • 花期・・・5~6月、高さ2~4m
  • ・・・本年枝の先端から散房花序をだし、小さな白い花を多数開く。花序の枝には星状毛が密生する。
  • 雄しべ・・・5本で、花冠から長く突き出す。雌雄同株。
  • 雌しべ・・・真ん中から少し突き出す。
  • 花の匂いで虫を誘う・・・人間にとっては良い匂いではないが、虫にとっては媚薬のような独特の香りで虫を誘惑しているようだ。何より、クリの花と同じく、たくさんの昆虫が集まってくる。
  • ガマズミの葉・・・円形で側脈が目立ち、表裏とも全面に毛が生え、特に葉脈は長い毛に覆われ、フサフサした手触り。葉柄に粗い毛が多い。 
  • ミヤマガマズミの葉・・・葉先は急に細くなって尖り、縁に浅い三角形の鋸歯がある。葉柄は赤みを帯びることが多く、長い毛が散生する。
  • 若葉・・・若葉は、オオカメノキに似ているが、ガマズミの若葉は黄緑色、オオカメノキの若葉は茶色なので区別できる。 森林の低木層で見られ、耐陰性があり明るい日陰でも生育が可能。
  • 果実・・・核果で、9~10月に赤く熟し、霜が降りる頃になると、白い粉をふいて甘くなり、食べられる。クエン酸が豊富で酸味が強く、レモン果汁に似ている。食べごろに熟すと、甘味も増して味のバランスが良くなる。果実が黄色に熟す品種をキミノガマズミという。
  • 多い方言・・・人々との生活とのかかわりが深く、方言だけでも200を超える。
    1. 果実が赤く熟し、生食や染料に使われる。 今では健康食品素材として注目され、ガマズミの実を使ったジュースやキャンディ、酢、ポン酢、果実酒、ジャム、ゼリー、健康ドリングなどに商品化されている。
    2. 岐阜、富山などでは、クロネソと呼ぶように、薪などを結束するのに縄のように使う。
    3. 幹や枝が細くて堅いので、菜箸や民具の柄に良いなど、広く利用できる木。  
  • 赤漬け・・・この実を採取し大根を漬ける時に用いると、紅色に染まり、実の酸味がついた大根漬けとなる。長野県戸隠村でよく行う「赤漬け」は、大根をセンゾでついて、ガマズミの実を入れて紅く染めた漬物のことである。
  • 実は赤い点々を輝かせて鳥を誘う
  • 実を食べる野鳥・・・ヒヨドリ、ツグミ、ジョウビタキ、キジ、キジバト、コジュケイ、メジロ、オナガ、アオゲラ、ヤマドリなど。 
  • 縄のように使う・・・ガマズミの枝は柔らかく折れにくいので、昔から何かを束ねる時に使った。山仕事に手慣れた人は、ガマズミをあらかじめ見つけておいて、それをたくみによって縄をつくり、刈柴を手際よくまとめた。これも生活の知恵である。 
  • スギノアカネトラカミキリとガマズミ・・・スギノアカネトラカミキリは、スギカミキリと並ぶスギやヒノキの材質劣化昆虫。このカミキリは、ガマズミなどに訪花し、そこで雌雄が出会い、栄養をとることで生存日数を延ばし、さらに産卵数を増やすことができるという。新潟県北部の小さな離島にスギノアカネカミキリが定着できたのは、スギの植栽だけでなく、ガマズミの存在が大きかったと言われている。
  • 紅葉 ・・・緑、黄色、赤、赤茶色などのグラデーションが美しい。9月頃、あれほどあった真っ赤な実は、鳥たちにあらかた食べられ残り少なくなっている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「秋田農村歳時記」(ぬめひろし他、秋田文化出版社)
  • 「森の花を楽しむ101のヒント」(日本森林技術協会編、東京書籍)