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樹木シリーズ46-1 キリ(桐)

  • 花が美しく高級家具にも使われるキリ(桐、ゴマノハグサ科)

     一般的には中国原産と言われるが、大分県などにも自生していることから九州説もある。古くから各地に植栽されている。初夏の頃、枝いっぱいに咲く淡紫色の花は、優雅で気品がある。成長の早い木で、20年ほどで立派に大きくなる。日本の樹木の中では最も軽く、狂いが少ないので、貴重な書面などを保存するための箱や雅楽の伎楽面、琴など文化財を維持する特用林産物として利用されるほか、高級な箪笥や下駄、日用品など私たちの生活にも深く浸透し幅広く利用されてきた。昔は、娘の誕生を祝ってこの木を植え、お嫁に行く時はこれを伐って箪笥をつくる慣習が全国的にあったが、「秋田桐」もその主産地の一つ。
  • 名前の由来・・・貝原益軒「大和本草」(1709年)には「切れば早く長ず、故にキリという」と記されているとおり、この木は伐るとその木の生長が速いことから、キリと名付けられた。桐という漢字は、キリの木の幹が、筒のように真っ直ぐに伸びる姿をしていることによる。
  • 花期・・・5月、高さ8~15m
  • 花のツボミ 
  • 開花初期・・・ツボミから花が開く
  • ・・・枝先に大きな円錐花序を直立し、花の長さ5~6cmの紫色の花を多数つける。花冠は筒状鐘形で、先は唇状に裂ける。中国では「桐に鳳凰」といい、めでたいことの記しとされている。 
  • 花と若い果実 
  • ・・・長い葉柄をもち、大きいものでは幅94cmという記録もあるらしい。その幅広の葉は、浅く切れ込み、野球のホームベースのような角が3つのものや、5つあるもの、角がなくトランプのスペードのような形など様々。葉の裏には線毛が生え、やや粘る。
  • 家紋・・・美しい花と葉は、意匠化されて家紋にも用いられ、天皇家の紋や国章、貨幣の装飾などに使われている。 
  • 蒴果・・・長さ3cmほどの先の尖った卵形で、熟すと2裂し、翼のある小さな種子が数千個入っている。種子には翼があり、風で散る。 
  • 花が咲いている時期でも、黒い実が残っている。キリの実は、秋から初夏まで見ることができる。 
  • 長期間にわたる風散布・・・一度に飛ばすのではなく、長期間にわたって種を散布する。熟れたキリの実は、先が二つに割れると、実の中へ吹き込んできた風で少しずつむしりとられ、風に乗って遠くへ運ばれていく。 
  • 果実と花のツボミ・・・ツボミは前年の秋にはついている
  • 樹皮・・・灰褐色で縦に浅く裂ける。直径30~50cmになる。 
  • 優秀な材の特徴
    1. 日本の木材では最も軽い
    2. 湿気を通さず、狂いも少ない。
    3. 燃えにくい。
    4. 成長が早い。
    5. 虫が嫌うタンニンを多く含んでいるので防虫効果がある 。
    6. 材の色は白く天然の木目が美しい。
    7. 加工しやすい。

       特に湿気の多い日本では、箪笥に最適で、女の子が生まれるとキリを植え、嫁入りの際に箪笥にするとされ、古くから全国至る所に植栽された。また燃えにくい特性から、大切な箱や金庫の引き出しなどに使われている。 
  • 桐を使用している国指定の伝統的工芸品・・・タンスが6件、木工2件、人形1件、琴1件、計10件。
  • 桐を原材料としている都道府県指定等の伝統工芸品・・・下駄14件、タンス10件、人形・玩具5件、工芸品4件、獅子頭3件、面3件、琴2件、計41件。
  • 桐製品で最も古い伎楽面・・古代日本で演じられた仮面舞踊劇である伎楽に使われた伎楽面は、世界最古に属する面としてその歴史的意義は高く評価されている。おおむね飛鳥時代の面はクスノキ、奈良時代はキリが使われているという。
  • ノコギリの柄・・・ノコギリの柄は、他の道具類の柄と違って力のかかるものではない。だから軽くて手触りの良い材としてキリが最も多く使われている。キリは、軽くて割れることがなく、長時間握っていても手に熱を感じさせないからよいとされている。 
  • 下駄・・・昔は、庭先用の下駄は、自分で作った。下駄材の条件は、軽くて割れないこと。一般にはキリやホオノキが使われた。山村では、深山の沢筋に多いサワグルミやオニグルミが主として使われた。 
  • キリの産地・・・関東以北に多く、会津桐(福島県)、津南桐(新潟県)、秋田桐(秋田県)、南部桐(岩手県)が知られている。優良な材を得るには、気象害、病虫害に対する管理が大切で、常に手入れが必要である。だから植栽は、畑や農家の周りに限られたキリ畑で、大規模な造林地は少ない。 
  • キリの産地が東北に多いのはなぜ・・・キリには、病気の部分を切り取るだけでは根治することができない「てんぐす病」がある。関東以西では、この病気のためにキリの栽培は不可能に近いとされ、主要な産地は東北に偏っているのである。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)  
  • HP「桐(きり)-文化財を維持する特用林産物」(特用林産振興会)