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樹木シリーズ49 サルスベリ

  • ツルツルの木肌と長い開花が人気のサルスベリ(百日紅、ミソハギ科)

     夏に咲く花の代表樹種と言えば、漢字で「百日紅」と書くサルスベリ。その字のごとく、百日も花を楽しめることから人気が高く、庭木や街路樹として広く植えられる。樹皮は斑に剥がれて、木登り上手な猿でも滑りそうなツルツルの木肌が最大の特徴。幹や枝は左右にくねって伸び、木全体が盃形になる。中国南部原産で、日本には江戸時代以前に渡来した。
  • 名前の由来・・・幹がツルツルで、木登り名人の猿でも滑りそうだから「猿滑り」のユニークな名前がついた。また、紅色の花が咲く期間が百日にも及ぶことから、漢字で「百日紅(ひゃくじつこう)」と書く。 別名ナマケモノの木ともいう。
  • 花期・・・7~9月、高さ3~9m 
  • ・・・枝先の円錐花序に直径3~4cmの紅紫色又は白色の花を次々に開く。花びらは6枚、それぞれ紙をもんだみたいにシワが多く、基部は急に細くなる。雄しべは30~40本もあり、外側の6個が長い。
  • 雄しべと雌しべ・・・頭が黄色い短いしべは、花粉を持たず、色で虫を惹きつける飾り雄しべ。頭が淡い色の長いしべが花粉をもつ雄しべ。雌しべは、頭が緑色で長くやや太い。雌しべは太く、長い雄しべは倒れている。 
  • 一日花・・・花は朝開いて夕方には落ちる一日花だが、ツボミを多く付けるため花が途絶えることがない。
    散れば咲き散れば咲きして百日紅 加賀千代女 
  • 白花のサルスベリ・・・サルスベリの品種で、基本の紅色花と並べて植えられることが多い。クリプトン「樹木見本園」のサルスベリも白色と紅色を並べて植えている。 
  • 百日間も鑑賞できる花・・・梅雨が明ける頃に開花し、夏の炎天下に咲き続け、9月末まで100日間も咲き続ける。上写真の丸い実のようなものは花のツボミで、その多さに驚かされる。 
  • 花とツボミのアップ・・・萼は筒状で6裂、花弁は6枚で縮れている。
  • コスモスのバックの紅はサルスベリの花
  • 樹皮・・・幹は滑らかで、淡い褐色の薄い樹皮が剥げ落ちた後は白い。 
  • 幹でも光合成・・・皮がはげると白くなるが、しばらく経つと緑茶色に戻る。これは、幹が光合成をしているからだという。百日間も咲き続けるためには、より多くの養分が必要だから、葉だけではなく幹でも光合成をしていると推測されている。 
  • 老木の樹皮・・・剥がれ落ちた後は、白い斑模様になる。
  • ・・・丸みのある卵形で、葉先が窪む葉も多い。二枚づつ交互につくコクサギ型葉序になり、対生することもある。
  • 紅葉も美しい
  • 蒴果・・・直径7mmほどの球形。熟すと6裂し、翼のある種子が出る。
  • 樹齢200年のサルスベリ・・・秋田市雄和下黒瀬の善正寺境内にある、サルスベリの古木は、同寺が開山したころに植栽されたと伝えられ、樹齢は200年。四方に伸びた枝の広がりは30畳ほどもあり、一斉に花が咲くと、それはそれは見事である。 
  • 俳句
    炎天の地上花あり百日紅      高浜虚子
    咲き満ちて天の簪百日紅      阿部みどり女
    ゆふばえにこぼるる花やさるすべり 日野草城
  • 街路樹としても人気が高い(写真:秋田市外旭川)
  • 用途・・・昔は寺院木として、今は庭木や街路樹として人気が高い。材質は緻密で腐りにくく硬いので、土木杭、床柱、木工細工物、舟材などに。 
  • 映画「五番町夕霧楼」とサルスベリ・・・夕子が思い出すのは、故郷の海から見上げた場所に咲く「サルスベリの花」。原作者の水上勉は「女主人公の薄幸な生涯を象徴させようとするには、百日紅がふさわしいと思えた」と記している。この原作を映画化した田坂具隆監督は、サルスベリを京都の植木屋から現地に運ばせて移植し、ラストシーンを撮った。真っ赤な百日紅の色、その色の襦袢を身につけた夕子の息絶えた姿が見つかったのは、その百日紅の木の下であった。 
  • 材の利用・・・かなり硬く、粘りもあり、樹皮も滑らかで耐久性も優れている。乱暴に扱われる玩具や、独楽、けん玉の材に利用される。樹皮の色合いや斑模様が和の空間に合うことから、茶室の皮つき床柱としても使われている。
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社) 
  • 「樹木と木材の図鑑 日本の有用種101」(創元社)