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樹木シリーズ52 ダケカンバ

  • よく剥がれる樹皮は着火剤の代用になるダケカンバ(岳樺、カバノキ科)

     寒さに強く、亜高山帯の針葉樹の森から、森林限界より上の高山帯まで広く山上に分布する。岩上や雪崩の多い斜面にも生育し、幹がよく曲がっている。その柔軟性、たくましい樹形から、環境への適応力が高いことが伺える。風衝地では、枝や幹を曲がりくねらせ、低木状になる。近縁のシラカバより遥かに長寿で、幹直径は70cm以上の巨木に成長する。秋、鮮やかな黄色に色づき、高山の秋を彩る黄葉の一つ。樹皮は紙状に剥がれ良く燃えることから、着火剤の代用として利用されている。
  • 名前の由来・・・標高の高い山岳地帯に生育する樺という意味で、「岳樺」と書く。また、樹皮が紙のように薄く剥がれ、それに字を書くことができるから、別名「草紙樺」とも言う。 
  • 見分け方・・・シラカバは樹皮が白色だが、ダケカンバの樹皮はやや赤みを帯びた灰褐色。また、樹高の割に幹が太く、ねじれたような樹形になる点も、シラカバと異なる。
  • 花期・・・5月、高さ10~15m、大きいものは30m 
  • ・・・雌雄同株で、雄花序は、枝の先から尾状に垂れ下がり、雌花序は短枝の先に1個ずつ直立する。 
  • ・・・三角状卵形で先は尖り、葉の縁のギザギザは不整で鋭い。側脈は7~12対。似ているシラカバは6~8対と少ない。
  • 樹皮・・・灰褐色または淡い褐色を帯び、紙状に剥がれる。若枝は、はじめ黄褐色で、後紫褐色。所々に腺点と皮目がある。 
  • 着火剤の代用・・・古くからマタギは、ダケカンバの樹皮を焚き火の火を起こす焚きつけに使っている。山に入る時は、取っておいたものを必ず携行し、これさえあれば雪や雨の中でも火を起こすことができる。 
  • マタギの火起こしの技術は天下一品・・・民俗学者&動物作家の故戸川幸夫氏は、昭和37年頃、藤沢シカリ一行と幾度か和賀山塊・羽後朝日岳、白岩岳の狩りに同行し、「マタギ・日本の伝統狩人探訪記」(クロスロード選書・1 984年)に次のように記している。「マタギの火起こしの技術は天下一品である。私は幾度もこれをまねて、そのたびに失敗した。彼らはどんな雨の中でも、吹雪の中でもちゃんと火を起こす。これができないようではマタギとしての資格はないのだろう。・・・火が起こると一抱えも二抱えもあるような大木を立てかけてどんどん燃やす。一昼夜でも二昼夜でも、野営している間中燃やし続ける。こんな豪勢な焚き火は私はほかでは見たことがない(この時、着火剤の代用として使用したのがダケカンバの樹皮である)」
  • 放浪種・・・ダケカンバは陽樹で、ギャップができると素早く定着して大きく育つ。小さなギャップから、伐採跡地や山火事跡地など、比較的広い攪乱地にもよく見られる。攪乱地を渡り歩いているので「放浪種」と呼ばれている。 
  • 風散布・・・ハイマツはホシガラスに種子を運んでもらうが、ダケカンバは風で散布する。翼をもった小さな種子を大量につくり、風に乗せて飛ばす。ダケカンバは、シラカバより過酷な場所で生きているので、シラカバより種子が大きい反面、種子の数は半分程度と少ない。過酷な環境で芽生えるためには、散布距離を犠牲にしても、種子に多めの栄養を持たせる方が有利と考えられる。 
  • 萌芽更新・・・森林限界に近いような厳しい環境では、実生が定着できないので、萌芽によって更新している。萌芽更新することによって、寿命は300年くらい延びると言われている。 
  • 斜面を這うように伸びるダケカンバ・・・幹がしなやかに曲がり、雪の圧力や雪崩の衝撃に耐える能力が高い。その能力はハイマツより高く、雪が移動しやすい傾斜地や谷筋の斜面にダケカンバ、雪が移動しにくい尾根筋にハイマツというように棲み分ける傾向が強い。 
  • 樹形を自在に変える能力・・・ダケカンバは、もともと高木だが、変貌自在に樹形を変えることができる。針葉樹林の中では光の獲得に有利な高木となり、森林限界に近い場所では、低木や地を這う樹形で雪や風に耐える。だから環境への適応能力が高い。 
  • 長寿でギャップができるのを待つ・・・小さなギャップに定着すると、若いうちは幹をひたすら速く伸ばして高さを稼ぎ、高さを確保すると、根元から株立ち用の萌芽枝を出して太らせ樹幹を少しでも横に広げようとする。こうして長寿の戦略をとっていると、周りにギャップができ分布を拡大するチャンスも多くなる。 
  • なぜ葉が開くのが遅いのか?・・・ダケカンバは、上の写真のように、他の広葉樹の葉が開き周囲が新緑に包まれていても、まだ裸木のままである。秋に落葉すると、春に全ての葉を開かねばならない。その際、幼い葉は凍結に弱いことから、寒冷地では、晩霜の害を避けるために開葉の時期をかなり遅らせる必要があるからだと考えられている。ダケカンバの開葉は、より暖かい場所に育つ近縁のシラカバよりずっと遅い。
  • 耐寒性に優れた落葉樹・・・他の広葉樹より開葉が遅い分、光合成期間が短くなる欠点がある。それでもダケカンバが高山で繁栄しているのは、強い光を利用して短い夏に一気に光合成を行う能力に長けているからと考えられる。極度の陽樹であるハイマツは針葉樹林内では全く育たないが、ダケカンバは、ある程度の耐陰性があるから針葉樹林内でもギャップがあれば育つことができる。 
  • 高山の秋を彩る黄葉・・・ダケカンバは黄色に色づき、高山ではナナカマドやドウダン類の紅色と並び紅葉の主役の一つ。
  • そり・・・そりは、軽くて粘りがあり、雪がつかず滑りの良い材が要求される。ダケカンバやサクラ、イタヤカエデ、ミズメ、ネコシデが良く使われた。 
  • 用途・・・辺材の色は淡い黄白色、心材は淡い黄紅褐色と、その境界は明瞭である。ダケカンバで作られた家具はアンティーク調の風合いを持ち、美しい光沢がでることから、デスクやタンスなど、特に外観が重要なものに好んで利用される。その他、建築、庭木など。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「図説 日本の樹木」(鈴木和夫・福田健二、朝倉書店)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「樹木の個性と生き残り戦略」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「葉・実・樹皮で確実にわかる樹木図鑑」(鈴木庸夫、日本文芸社)
  • 「葉でわかる樹木 625種の検索」(馬場多久男、信濃毎日新聞社)