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樹木シリーズ57 マタタビ

  • 葉が白くなるマタタビ(木天蓼、マタタビ科)

     ツル性の木で、白い花が咲くと同時に葉が白くなり、遠くからでも良く目立つ。「猫にマタタビ」の諺があるとおり、猫に枝葉や果実を与えると陶酔する。キウイフルーツと同じ仲間で、果実は生でも食べられるが、塩漬け、砂糖漬けにしたり、虫が寄生した虫こぶを生薬や薬用酒として珍重される。ただし、他の木に巻き付きながら伸びるので、植林地では嫌われもの。北海道から九州、南千島まで広く分布。マタタビに似ているミヤママタタビは、葉が白からピンクへと色づくので区別できる。 
  • 名前の由来・・・虫こぶ型の果実に亀甲状のシワがあることから、アイヌ語で「マタタムプ(冬の亀甲)」と呼ばれていたことに由来する説が有力。俗説として、旅に疲れた弘法大師が、頭上に垂れているマタタビの実を食べてたちまち元気になり、「また旅」をすることができたからなど。 
  • 花期・・・6~7月 
  • 花のツボミ・・・ツボミは丸い
  • ・・・直径約2cmで、雄花、雌花、両性花がある。雄花は、5枚の丸い花びらに黄色い雄しべがある。それが白梅の花に似ているので「夏梅」とも呼ばれている。 
  • 雌雄異株・・・雌株は、花弁のない雌花か、白色五弁花の両性花をつける。両性花は、花柱が放射状に伸びるのが目立つ。果実を採取するため、葉が白いうちに場所を見極める必要があるが、雌雄異株だから実がならないものもあるので注意が必要。
  • ・・・葉先は鋭く尖り、幅広の卵形で小さな鋸歯がある。質は薄く、裏面は淡緑色。梅雨の頃、葉は白くなり、遠目にも良く目立つ。 
  • 虫を呼ぶために白くなる葉・・・花は葉陰に隠れて見えないが、白い葉が花の客寄せのために働いているらしい。葉が白く見えるのは色素ではなく、葉にわずかに空気の層ができるからで、波が白く見えるのと同じ原理。花が終わると、葉は再び緑に戻る。 
  • 花と昆虫・・・マタタビの花にはいろいろな昆虫がやってくる。ハチやハエの仲間が多く、なかでも頻繁にやってきて次々に訪花してゆくのは、マルハナバチ。葉を白くしたり、花が一斉に咲くのは、マルハナバチに効率よく花粉を運んでもらうためのマダタビの知恵だと言われている。
  • マタタビの実は2種・・・ドングリ型と虫こぶ型とがある。ドングリ型が正常な果実。先の尖った長楕円形で、拳銃の弾、あるいはドングリのような形をしている。特有の芳香と辛味、苦味があり、果肉には、キウイフルーツと同じく黒い小さな種がたくさん入っている。  
  • 「菜譜」(1704年、貝原益軒)・・・「蔓草なり。山中に生ず。蔓長し。葉も実も食す。味からし。花白くして、梅に似たり。四月にひらく。好事の者、葉を去て花瓶にさす。実は夏月にあり。実長きと扁(ひらき)と、一本の蔓に両物みのる。異物なり。長きはさねなり。ひらきはさねなし。食するによし。猫このんで食す。また中華には木天蓼有り」と、葉も実も食べることや、果実に長楕円形で先が尖ったものと平たいものとの二種類できることなど、マタタビの特徴をよく調べて記述している。
  • 山菜・・・新芽、若い枝、葉、花、果実を利用する。若い枝葉は、まだ柔らかく、爪で摘み取れる頃までに採取。花はツボミから開花中、果実は完熟して色づくまでに採取する。生で食べるほか、茹でておひたしや各種和え物、油炒め、煮浸しに。辛味があるのでたくさん食べると喉がいがろっぽくなるので注意。
  • 珍重されるのは虫こぶ型・・・マタタビバエが産卵した実は変形して、虫こぶ型になる。その虫こぶ型の果実は、薬効があるとされ、昔から生薬や薬用酒に利用されてきた。 
  • 酒の肴・・・生の果実を塩漬けにしたものや新芽を茹でたものは、酒の肴として珍重される。上越地方では、塩漬けにした果実の瓶詰が市販されている。また砂糖漬け(上の写真)、黒酢漬け、米酢漬け、味噌漬けなどがある。 
  • 生薬(写真:秋田県立博物館「秋田くすり今昔物語」)・・・虫こぶ型の果実を湯通しして乾燥したものを、生薬で「木天蓼(もくてんりょう)」と言い、血行促進、強心、利尿に効果があるとされている。木天蓼を粉末にしたものは、腹痛、腰痛に。入浴剤として利用すれば、神経痛やリュウマチに効果があるとされている。 
  • 薬酒・・・虫こぶ果実をホワイトリカーと氷砂糖で漬けた薬酒は、冷え性や利尿、強壮に効果があるとされている。 
  • 猫にマタタビ・・・猫は、マタタビを異常に好む。それは、マタタビの実に含まれるマタタビラクトンと総称されるテルペン類やアクチニジンという成分が含まれているからで、猫の大脳や延髄を麻痺させる作用がある。この特殊な嗜好は、ネコ科のライオンやトラなども反応するらしい。彼らは、マタタビを噛んでいてると興奮しはじめ、ついには酒に酔ったような状態になる。
  • マタタビ細工(写真:秋田県立博物館「植物を編む」)・・・東成瀬村では、かつて家のすぐそばに生い茂っていたマタタビ細工が盛んであった。水切れが良いことに加え、水分を含んだ材料はしなやかで手を傷つけることが少ないのが特徴。ザルやビグ、カゴなどの生活用品が製作されてきた。12月頃、一度雪が降ってツルがしまった時期を狙い採取する。葉を落とし、樹皮を削いでから専用の道具で割っていく。 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「資料 日本植物文化誌」(有岡利幸、八坂書房)
  • 「日本有用樹木誌」(伊東隆夫ほか、海青社)