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樹木シリーズ58 ヤマブドウ

  • 野生ブドウの代表・ヤマブドウ(山葡萄、ブドウ科)

     日本に野生するブドウの代表。巻きひげを伸ばして、他の樹木にからみつくツル性落葉樹。秋に熟す果実は酸っぱいが生食できるほか、ジャムやジュース、果実酒、ワインの醸造にも使われる。花は小さく目立たないが、大形の葉は鮮やかに紅葉する。雌雄異株で、雌株だけが果実をつける。特に寒冷の気候を好み耐寒性が強いことから、栽培している主な産地は東北(岩手県、青森県、秋田県、山形県)に多い。
▲ヤマブドウの大きな葉
▲ノブドウ ▲サンカクヅル
  • 見分け方・・・葉で見分ける。ヤマブドウの葉は日本に自生するブドウの仲間では一番大きく五角形に近い形で浅い鋸歯がある。エビヅルとノブドウは葉先が3~5裂、サンカクヅルは三角状卵形。ちなみに果樹として栽培されているのは、ヤマブドウだけである。
  • 名前の由来・・・山地に生える葡萄の意味から、「山葡萄」と書く。 古代ペルシャ語では、葡萄のことを「ブダワ」と呼んでいた。中国には西域から伝わったが、そのブダワを、「葡萄」の文字を当てたものと考えられている。日本では、これを音読みして「ぶだう」→「ぶどう」となったと言われている。
  • ・・・最大30cmにもなる大形の葉は、五角形の心状円形で、基部はハート形で深く窪む。縁には浅い鋸歯がある。裏面は、褐色毛が密生し赤褐色。6月頃、葉と対生して円錐花序を出し、黄緑色の小さな花を多数開く。 
  • 紅葉・・・大きな葉は、黄色からオレンジ、赤、赤紫に色づいて美しい。
  • ツル・・・先が二つに枝分かれした巻きヒゲを樹木などに絡めてのぼる。最初は茎から小枝を対生させ、一節目は葉のみ、二・三節目は巻きヒゲと葉を対生させ、四節目は葉のみ、五・六節目は巻きヒゲと葉を対生・・・それを繰り返す規則性がある。 
  • 大きいものは20~30mにもツルが伸び、茎も10cmの太さに成長する。 
  • 大葉のマント・・・山地の道路沿いや林縁を大きな葉のマントで覆うので見つけやすい。ただし、雌雄異株で、雌株にしか結実しない。しかも、山に自生しているヤマブドウの雌株の比率は、30%前後と低く、雄株が圧倒的に多い。だから、天然ヤマブドウの果実採取は簡単ではない。
  • 果実・・・直径約8mmの球形の液果で、房になって垂れ下がる。7~8月に結実、収穫期は10月頃、黒紫色に熟し、生食できる。渋味を伴う酸味があるが、一回霜にあうと、渋味や酸味が消え甘くなる。 
  • 果実の利用・・・特有の酸味があり、ワインブームで脚光を浴びている。ただし、自家用にヤマブドウを使った果実酒をつくれば違法になるので注意!。生食やジュース、ジャムにと、利用範囲は広い。 最近では、ヤマブドウを利用したケーキやチョコタルト、チーズケーキ、トリュフ、シャーベット、羊かん、ゼリー、かりんとう、まんじゅう、おこし、生キャラメルなどの菓子類に加工されている。
  • 紅葉と黒く熟した実
  • 落葉した落ち葉の上に落下したヤマブドウ
  • 葡萄染(えびぞめ)・・・熟したヤマブドウなどの果実色を「葡萄色(えびいろ)」と呼び、薄紫色に染めることを「葡萄染(えびぞめ)」という。 
  • ブドウ虫・・・昔から渓流釣りなどのエサとして利用されている「ブドウ虫」は、栽培用ブドウの主要害虫「ブドウスカシバの幼虫」で、ノブドウ、エビヅル、ヤマブドウにも寄生する。ヤマメ、イワナ釣りでは良く釣れるエサとして珍重される。 
  • ヤマブドウ皮細工・・・コダシ、蓑、ハバキ、草鞋などを編んだ。軽くて水切れが良く、乾きが早く、雪の中を歩いても寒さ知らずで、ヤブこぎにも具合が良いので、山村の人や杣日雇、猟師、炭焼きの人たちが愛用した。アイヌの人たちも、夏の履物、編んで袋物などに利用したほか、蔓は屋根の基部を結ぶ綱にしたり、漁具にも利用された。 (写真:秋田県立博物館「植物を編む」)
 
  • ツルの採取時期等・・・ヤマブドウの蔓の皮を剥ぐのは、クリの花が咲く頃(鬼皮がめくれあがる梅雨期)が適期。土用を過ぎると、繊維質の部分の内皮が二枚に分かれて薄くなってしまってよくない。樹皮は、鬼皮、外皮、内皮の3重構造になっているが、編組品には鬼皮を剥いだ外皮と内皮の部分を使う。これを木灰をたくさん入れた釜の湯で3時間くらい煮ると柔らかくなるので、湯からあげて水洗いし、足で押さえながら根元からよくねじりもみをする。この皮は、雨にも天気にも強く、何に使っても20年くらいはもち、腐れを知らない。(写真:秋田県立博物館「植物を編む」)
  • 縄の代用・・・縄の代わりに使うには、丈夫で弾力があり、細く長いものでなくてはならない。山に自生しているツル類や粘りのある小木などを、現地で採集して使う材としては、ヤマブドウやクズ、樹木ではリョウブ、マンサクが主に使われた。 
  • カワソ漁・・・カワソとは、大正時代に絶滅してしまったカワウソの長野県南佐久地方の訛り。カワウソは、魚捕りの名人で、一日に4キロもの渓流魚を食べると言われ、岩魚・山女魚にとっては一番恐ろしい天敵であった。だから渓流魚たちは、カワウソの姿を見るといち早く逃げる習性があった。この性質を利用したのが「カワソ漁」である。カワウソの毛皮に似たヤマブドウの蔓皮を剥ぎ、長さ40cmくらいに切ったもの10本ほどを竹竿の頭にしばりつけ、川下にざっこ網を置いて、この竿で川上の岩魚や山女魚の潜んでいそうな淵脇の岩の奥を突いて、魚を追い出して捕った。この漁法は、捕獲率が高かったという。 
  • イワナの「鵜追い」(田沢湖町田沢)・・・晩春から梅雨にかけて行われたものだが、本物の鵜を使うのではなく、鵜に見せかけ追い込む漁法。4mほどの竿の先を尖らせ、約50センチほど下にヤマブドウの皮、あるいはカラスの羽、イタチの毛皮などを巻き付け、鵜の体にみせる。その下60~80センチほど離して同様のものをつける。その竿を持ち、静かに淵に入り、水中を突き回す。イワナは鵜と思い、逃れようと下流の瀬に逃げる。その下流でカジカ網を張って待ち、すくいとった。 
  • 栽培ブドウの歴史・・・ブドウの栽培化の歴史は古く、紀元前3000年ごろには原産地であるコーカサス地方やカスピ海沿岸でヨーロッパブドウの栽培が開始された。ワインの醸造は早くに始まり、メソポタミア文明や古代エジプトにおいてもワインは珍重されていた。日本で古くから栽培されている甲州種は、中国から輸入された東アジア系ヨーロッパブドウが自生化したものが、鎌倉時代初期に山梨県甲州市で栽培が始められ、明治時代以前は専ら同地近辺のみの特産品として扱われてきた。 
参 考 文 献 
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「樹木観察ハンドブック 山歩き編」(松倉一夫、JTBパブリッシング)
  • 「植物民俗」(長澤武、法政大学出版局)