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樹木シリーズ59 ムラサキシキブ、コムラサキ

INDEX ムラサキシキブ、コムラサキ
  • 紫色の花と果実をつけるムラサキシキブ(紫式部、クマツヅラ科)

     全国各地の山野に生える低木で、細身の枝を横方向に広げる。秋、美しい紫色の実は一際鮮やかで目立つ。和名の由来は、この高貴な紫色の実を歌人の紫式部に重ねたもの。木々の実の中で紫色は珍しく、身近な野鳥たちも好んで食べる。花は余り目立たないが、上品な薄紫色をしている。よくコムラサキと間違えられることが多いので注意。 
  • 見分け方・・・よく間違えられるのがコムラサキ(上の写真)。ムラサキシキブの実はまばらなのに対して、コムラサキはまとまってびっしりつく。コムラサキは、ムラサキシキブよりも樹高が低く、枝は枝垂れる。庭木としてよく植えられるのは、コムラサキがほとんど。 
  • 名前の由来・・・江戸時代の植木屋が、「源氏物語」の紫式部になぞらえて付けられたと言われている。江戸時代初期には、実紫(みむらさき)、玉紫(たまむらさき)と呼ばれていた。その他、紫色の実が敷き詰めたように付く「紫敷き実(むらさきしきみ)」や、紫色の実が茂る「紫茂実(むらさきしげみ)」が訛ったとの説もある。 
  • 花期・・・6~7月、高さ2~3m 
  • ・・・葉腋から集散花序を出して、淡紫色の花を多数つける。長さ3~5mmの筒形の花の先は4片に裂けて開く。黄色い葯を持った雄しべ、それより長い雌しべは花柱も柱頭も白色。 
  • ・・・対生し、長さ6~13cmの楕円形または長楕円形で、両端は次第に尖り、縁には細かい鋸歯がある。
  • 果実・・・直径3~4mmの球形で、美しい紫色に熟す。葉が落ちた後も実はついている。
  • 属名のCallicarpaは「美しい果実」の意味・・・ヨーロッパにも輸出され、ジャパニーズ・ビューティー・ベリーと呼ばれた。
  • 黄葉・・・秋、葉の全体が黄色に染まり、紫色の実と併せて美しい。上の写真は、自然界では少ない紫色の実を鳥に食べられて残り少なくなっていた。
  • 鑿柄(のみづか)・・・大工のノミの柄は、終日金槌に叩かれるので、この柄には最も堅い木が要求され、昔からムラサキシキブが良いと言われ、ノミヅカという名前で呼ばれている。  
コムラサキ
  • たくさんの実をつけ庭木として人気のコムラサキ(小紫、クマツヅラ科)

     枝を垂らすように伸ばし、紫色の果実をびっしりつけるので、観賞用として庭木、公園樹として植えられることが多い。葉は小さく、鋸歯や果実のつき方が異なる点でムラサキシキブと見分けることができる。暖かい地方の低層湿原などに稀に生える。 
  • 名前の由来・・・ムラサキシキブの仲間で小型なことから、「小紫」と書く。 
  • 花期・・・6~7月、高さ1~1.5m 
  • ・・・葉腋より少し上から集散花序を出して、薄紫色の花を密につける。花冠は小さく上部は4裂する。雄しべと雌しべは花冠から突き出す。 
  • ・・・小形で細長く、毛はない。縁の中ほどから葉先にかけて鋸歯がある。 
  • 果実・・・しだれた枝の両側に光沢のある紫色の実が二列に並ぶようにたくさんの実をつけるので美しい。 
  • ムラサキシキブ、コムラサキの実と野鳥・・・鳥がよく食べる木の実と言われているが、庭木に植栽されたものは余り採食されずに残っている場合が多い。メジロ、ヒヨドリ、キビタキ、ジョウビタキ、ウソ、エナガ、ベニマシコ、アカハラなど。 
  • 園芸店の鉢植え・・・ムラサキシキブの名札がついているが、ほとんどはコムラサキらしい。自然観察会でも、コムラサキをムラサキシキブと思っている人が意外に多い。その原因は、名前の由来になっている紫色の実が、コムラサキの方が圧倒的に多く目立つからであろう。
  • 俳句 ムラサキシキブ、コムラサキ
    渡されし紫式部淋しき実 星野立子
    紫式部の実を過ぎにける日暮かな 加藤秋邨
    飾壷むらさきしきぶ一枝挿す 山口青邨
  • シロシキブ・・・果実が白い品種
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「植物民俗」(長澤武、法政大学出版局)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)