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樹木シリーズ60 ユズリハ、エゾユズリハ

INDEX ユズリハ、エゾユズリハ
  • 新旧交代を象徴する縁起物・ユズリハ(譲葉、ユズリハ科)

     東北地方南部以南の暖かい山地に生えるほか、庭木や公園樹として植えられる。秋田に自生しているのは、多雪地帯に適応した低木・エゾユズリハ。春、枝先に黄緑色の若葉が生え、その下に花が咲いて、古くなった葉が下に垂れ下がり、落葉する。古くから子孫繁栄を象徴する縁起の良い木とされ、正月飾りに使われる。 
  • 名前の由来・・・春になって若葉がのびると、古い葉は「若葉に譲る」ように散ることが和名の由来。その様子を親が成長した子にあとを譲るのにたとえて、家系が途切れることなく続く象徴とされ、めでたい正月の飾り(門松、しめ飾り、鏡餅)に使われている。別名ショウガツノキ、オヤコグサなどと呼ばれている。 
  • 花期・・・5~6月、高さ4~10m
  • 雄株・・・新芽と雄花のツボミ
  • 雄株の若葉と開花した雄花 ・・・若葉は萌黄色に輝き美しい。
  • 雄花アップ・・・前年枝の葉腋から総状花序をだし、雄株の雄花は花弁もガク片もない薄黄色の葯だけを成熟させ紫褐色になると、葯が破れて花粉が出る。雌雄異株。 
  • 雌株・・・若葉と開花した雌花
  • 雌花アップ・・・雌花の花柱は深く2裂する。 
  • 若葉・・・鮮やかな萌黄色で、葉柄は赤い。
  • ・・・枝先に輪生状に集まって互生し、狭い長楕円形で先端は急に尖り、縁は全縁。革質で表面は深い緑色。裏面は白っぽい。葉柄は紅色を帯びることが多い。 
  • 葉の交代・・・枝先に若葉が開くと、その下の古い葉はしおれるように垂れる。落葉する寸前の葉は黄色く色づく。その黄葉は一気になるわけではなく、少しずつ点々とみられる。その後、古い葉を少しずつ落としてゆく。葉の寿命は2年程度。 
  • 疑問:ユズリハに限って「譲葉」と書くのは何故か・・・新しい葉が生えそろってから古い葉が落ちるという交代の仕方は、何もユズリハに限ったことではない。常緑樹の多くがそうであるのに、なぜユズリハだけが特別扱いされたのだろうか。
  • その答えは・・・ユズリハの葉は、特に美しくて注目されていたから、あるいは、その葉の交代が目立ったからだというのが通説である。日本植物学の父・牧野富太郎博士は、常緑でツヤのある葉に、冬には珍しい赤色の長い葉柄という美しさが注目され、新旧交替の妙が愛でられた故の命名であるとし、「正月にユズリハを飾るのは、譲るの意で、親は子に譲り、子は孫に譲り、子々孫々相襲いで一家を絶えさせんようにと祈ったものである」と述べている。
  • 果実・・・核果で長さ8~9mmの楕円形球形。10~11月に藍黒色に熟す。
  • 果実と野鳥・・・ユズリハの果実は、ヒヨドリ、メジロなどの鳥が食べて種子を散布する。
  • 冬のユズリハ(樹木見本園)
  • 古くから縁起物として利用・・・古くから祖霊は、お盆や大晦日にふるさとの山から帰ってくると信じられていたが、「枕草子」には、大晦日の魂祭りにユズリハの上に亡き霊への供物を盛ったことが記されている。かなり古い時代から縁起木として重用されていたことが分かる。 
  • 正月飾り・・・ユズリハは、新しい葉が開くと古い葉が垂れ下がるところから、子に座を譲るという意味で、一家の繁栄を願い、新年の縁起物として古くから正月の飾りに使われている。だから俳句では、「新年」の季語になっている。
  • 有毒植物として有名・・・牛が食べて死んだり、軽度の中毒症状を引き起こした事例が報告されている。樹皮と葉、果実には、ダフニマクリン、ダフニフィリン、ユズリミンなどのアルカロイドを多く含んでいるので、古くから樹皮や葉を煎じておできの薬や、駆虫剤にされた。 
  • 俳句 楪(ユズリハ)
    ゆづり葉や歯朶(シダ)や都は山くさし 正岡子規 
    楪の赤き筋こそにじみたれ 高浜虚子
    ゆづり葉に粥三椀(かゆさんわん)や山の春 飯田蛇笏
    楪の下の親しき歩みかな 中山世一
    楪やことしわが家に二十歳の子 岡崎元子 
  • 「ゆずり葉」の詩(河井酔茗)
    子供たちよ。/これはゆずり葉の木です。/このゆずり葉は/新しい葉が出来ると/入り代わってふるい葉が落ちてしまうのです。
    こんなに厚い葉/こんなに大きい葉でも/新しい葉が出来ると無造作に落ちる/新しい葉にいのちをゆずって――。
    子供たちよ/お前たちは何をほしがらないでも/すべてのものがお前たちにゆずられるのです。
    太陽のめぐるかぎり/ゆずられるものは絶えません。/かがやける大都会も/そっくりお前たちがゆずり受けるのです。
    読みきれないほどの書物も/みんなお前たちの手に受け取るのです。/幸福なる子供たちよ/お前たちの手はまだ小さいけれど――。
    世のお父さん、お母さんたちは/何一つ持ってゆかない。/みんなお前たちにゆずってゆくために/いのちあるもの、よいもの、美しいものを、/一生懸命に造っています。
    今、お前たちは気が付かないけれど/ひとりでにいのちは延びる。/鳥のようにうたい、花のように笑っている間に/気が付いてきます。
    そしたら子供たちよ、/もう一度ゆずり葉の木の下に立って/ゆずり葉を見る時が来るでしょう。
  • 縄文人は石斧の柄に使っていた・・・ユズリハの材は精緻で割裂しにくく、材質は中庸からやや重硬になる。福井県鳥浜貝塚(約6000年前)で発見された石斧の柄は、その8割以上がユズリハ属であった。持った時の手触りと折れにくさが好まれたと推測されている。
エゾユズリハ 
  • 多雪地帯に適応したエゾユズリハ(蝦夷譲葉、ユズリハ科)

     ユズリハの変種で、多雪地帯の日本海側の山地に多く自生する。多雪地帯では高さが1mにも満たないほど低く、下部が地を這うなど、多雪地帯に適応しているのが分かる。ユキツバキ、ヒメアオキなどの日本海要素の常緑地這植物とともに、ブナ林などの林床によくみられる。 
  • 名前の由来・・・北海道、東北など蝦夷地方に多いユズリハの仲間であることが和名の由来。 
  • 花期・・・5月、高さ1~3m
  • 低木類の小型化・・・四手井綱英博士によると、最大積雪深の平均がおおむね50cmを超えると、低木は小型化するという。雪国に適応したブナ林の林床では、低木類が小型化しているものが少なくない。例えば、アオキ→ヒメアオキ、イヌツゲ→ハイイヌツゲ、ユズリハ→エゾユズリハ、ミヤマシキミ→ツルシキミ、イヌガヤ→ハイイヌガヤなど。
  • ・・・前年枝の葉腋から総状花序をだし、花弁もガク片もない花をつける。雌雄異株。 
  • 雌花・・・子房の先端に小さく淡い白赤紫の花を付ける。
  • ・・・ユズリハよりやや小さく薄い。 
  • 葉の寿命・・・ユズリハは2年程度だが、エゾユズリハは3年以上と長い。その理由は、光合成ができる期間が短いので、葉のコストを回収するにはより長い年数が必要になるからだと推測されている。
  • 秋、キノコ採りでブナの森に入ると、明るい林床にエゾユズリハの大きな群落を形成している場面によく出会う。
  • 果実・・・球形で緑色から藍黒色に熟す。
  • 藍黒色に熟した実・・・熟すと美味しそうに見えるが、毒があるので注意。
  • 熟した実と鳥・・・奥地のブナ帯に自生しているエゾユズリハは、観察が難しく、どんな鳥が食べているのか不明だが、ユズリハと同じく鳥が種子を散布するのであろう。ユズリハの北限は東北南部だが、多雪地帯に適応したエゾユズリハは、それより北の北海道まで分布しているが、この拡大には鳥が大きく貢献していると考えられている。
  • 用途・・・庭木、門松をはじめとした正月飾り
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「葉っぱで見分け 五感で楽しむ 樹木図鑑」(ナツメ社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「続・読む植物図鑑」(川尻秀樹、全国林業改良普及協会)
  • 「アセビは羊を中毒死させる」(渡辺一夫、築地書館)
  • 「日本有用樹木誌」(伊東隆夫ほか、海青社)
  • 「俳句歳時記新版」(角川学芸出版編、角川ソフィア文庫)
  • 「ブナの森と生きる」(北村昌美、PHP新書)
  • PDF 「ゆずりは」の文化史と名称の由来(寺井泰明)