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樹木シリーズ61 ヤマハギ、ミヤギノハギ

INDEX ヤマハギ、ミヤギノハギ
  • 万葉集に最も多く登場するヤマハギ(山萩、マメ科)

     秋の七草のハギは本種だが、草ではなく落葉低木。全国各地の日当たりの良い山野に生える。密集した枝にこまやかな花がたくさん咲き、風に揺れる様は風趣があり、和歌や俳句によく詠まれてきた。万葉集に一番多く登場する植物は、梅でも桜でもなくハギである。花が咲く秋に目立ち、秋の七草の一つ。北海道から九州まで広く分布。 
  • 秋の七草・・・奈良時代の歌人、山上憶良(やまのうえのおくら)が万葉集において、「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」「萩の花 尾花(すすき) 葛花(くずのはな) なでしこの花 女郎花(おみなえし) また藤袴 朝がほの花(ききょう)」と詠い、秋に花の咲く草の中から代表的なものを7種選んだもの。 ハギは、七草の中でもトップに出てきている。
  • 春の七草が七草粥にして無病息災を祈るものに対して、秋の七草はその美しさを鑑賞して楽しむもの。ただし昔は、見て楽しむだけでなく、薬用など実用的な草花として親しまれたものが選ばれている。 
  • 見分け方・・・花序が葉より長く、直立してほとんど枝垂れない。ただし枝垂れたものもあるので判別は簡単ではない。葉先は円形または窪む。ミヤギノハギは、枝が地に接するほど枝垂れる。葉先はやや尖る。マルバハギは、花序が葉より短い。 
  • 自生しているヤマハギでも、枝垂れるものがある。
  • ミヤギノハギの変種・シロバナハギ・・・葉先が尖っているので、葉先が丸いヤマハギとは明らかに異なる。
  • 名前の由来・・・山に咲くハギの意味で、「山萩」と書く。ハギの名は、草本のように見えるのに古い株から芽を出すので「生え芽(き)」から転訛したという説がある。秋に花が咲くことから、「萩」と書く。単にハギと言えば、ヤマハギのことを指す。 
  • 花期・・・8~9月、高さ約2m 
  • ・・・3出複葉。小葉は、広楕円形で、葉先は尖らず鈍頭から円形あるいは凹む。裏面は微毛があって白色を帯びる。 
  • ・・・葉の脇から長い総状花序を出し、紅紫色の蝶形花を開く。 
  • 万葉集・・・植物を多く詠んでいる万葉集で、ハギは141首も歌われトップ。
    後れゐてあれはや恋ひむ稲見野の 秋萩見つついなむ子故に
    高円の野辺の秋萩このころの あかとき露に咲きにけむかも
    わが岡にさを鹿来鳴く秋萩の 花妻問ひに来鳴くさを鹿 
  • 山火事を辛抱強く待ち続ける植物・・・山火事が起きると、ハギが芽を出す。しかし、樹高2m程度しか成長できないハギは、他の樹木に追い抜かれるので、天下を取れるのは数年間だけである。だが、ハギは、大量の種子を地表に落とす。落下したハギの種子は非常に堅いので、簡単には発芽せず地中で眠り続ける。こうして数年間多くの種子を地中に貯め込む。山火事が起きると、地中に眠っていた種子にも熱が伝わり、ハギが芽を出す引き金になる。実験では、ハギの種子は、80~100℃の湯に浸すと発芽が促進されることが確かめられている。 
ミヤギノハギ 
  • 枝垂れるミヤギノハギ(宮城野萩、マメ科)

     枝垂れた枝一杯に紫紅色の花をつけた姿は優美ゆえに、ハギの仲間では最も良く植えられる。変種にシロバナハギがある。完熟した実は、ミヤマホオジロやカシラダカなどのホオジロ類、オオマシコなどが食べる
  • 名前の由来・・・宮城野に多く自生しているハギの意味から、「宮城野萩」と書く。宮城県の県花になっているが、自生地はよく分かっていないらしい。 
  • 花期・・・7~9月、高さ1~2m
  • 葉・・・3出複葉。小葉は、細長い楕円形または長楕円形で基部、葉先はやや尖る。 
  • ・・・葉の脇から長い総状花序を出し、紫紅色の蝶形花を開く。
  • 花期には、地につくほど枝が枝垂れる。
  • シロバナハギ・・・ミヤギノハギの変種。
  • 俳 句
    白露もこぼさぬ萩のうねり哉 芭蕉
    一家に遊女もねたり萩と月 芭蕉
    一かぶに道をふさげり萩の花 一茶 
  • 萩の名所、京都・梨木神社・・・「萩まつり」で有名な梨木神社境内には、様々な品種約500株が植栽されている。日本最初のノーベル賞学者・湯川秀樹氏は、梨木神社「萩の会」の初代会長で、境内には彼が詠んだ歌碑がある。「千年の昔の園もかくやありし木の下かげに乱れさく萩」 
参 考 文 献
  • 「山渓カラー名鑑 日本の樹木」(山と渓谷社)
  • 「里山の花木ハンドブック」(多田多恵子、NHK出版)
  • 「樹木 見分けのポイント図鑑」(講談社)
  • 「野鳥と木の実と庭づくり」(叶内拓哉、文一総合出版)
  • 「森の花を楽しむ101のヒント」(日本森林技術協会編、東京書籍)
  • 「講談社ネイチャー図鑑 樹木」(菱山忠三郎、講談社) 
  • 「俳句歳時記」(角川学芸出版編、角川ソフィア文庫)